彼女と出会ったあの日から

秋色

第二十六話

ウッウッウッウンとあからさまな敵意と向けられたのはいつ以来だろうか。あの時分でさえ絶滅しかけていた三つ編みを毎日ご丁寧にしていた学級委員長の間違いを指摘した時だったか、彼女は、誹謗中傷を非暴抽象とまるで族の名前の様に改造して黒板へと今日の標語と題して書いていた。俺が親切心で趣のある冗談を交えながら、親切に講釈をしてやったにもかかわらず、私は間違っていないと豪語していた。見かねた俺が、たまたま通りがかった国語教師に尋ねてみると良いと助言すると、彼女は鼻息荒く彼のもとへと走っていき、彼の腕を引きながら青山君が私の標語にケチをつけると、教師を通じて俺にケチをつけようとしてきた。
無論、俺が正しいわけだが、彼女は一向に認めようとしないどころか、不遜な態度で俺を罵ってくる。「青山くんはさ、漢字に自信があるようだけれどその自信はどこからくるの?不思議、とっても不思議」最後の不思議、の部分は足踏みするようにして言われたので、その態度と相まってか鼻につく。ここで、ようやくまるで役に立たない彼が口を開いた。「まぁ、青山。人は誰しも過ちを犯すものだから。今回は見逃してあげれば」そう言って彼は、無責任にも教室から立ち去ろうとする。すかさず、彼女は彼を足止めして詰問した。「先生、青山くんが間違ってますよね?成績が振るわない彼を庇いたくなるのも分かりますが、はっきりと仰ってください。どっちが間違っているのか」いやはや、俺は何も勉強ができないわけではないのだが、単にテストの点はぞろ目で揃えようと試みているだけである。前回は44点で揃えたから次回は55点である。心しておくように。「いや、その、ね。うん、まぁこういう風に書いたりする人も居るには居るからね。それじゃ先を急ぐから」大変な税金泥棒っぷりを露呈する彼の後ろ姿を俺は鼻白み、彼女は恍惚とした表情で見据えていた。「ほらね、言った通りでしょ。私の方が頭が良いんだから」彼女は現在立派な人になっているであろうか。よもや罷り間違って人の上に立ってなんぞはいないだろう、そう願うばかりだ。


煙草を持っている指先が少し熱さを覚え、見てみるともう灰しか残ってはいなかった。俺は、吸殻を灰皿へと投げ込むと勢いよくドアを開けた。清掃業者の女性が少し驚いた様子でこちらを見た。暫く見てくるものだから、俺が何か用かと尋ねると彼女は俯きながら言った。「覚えてないかな、ほら」彼女そう言いながら長い真っ直ぐの髪をまとめた何処かで見たような、気づきたくないような、まさか、そんなタイムリーな話はないよな、と頭の中で数少ない語彙を伴って反芻した。俺は適当に挨拶をして、その場を後にする。自業自得、因果応報の意味を少しは分かった気がした。





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