彼女と出会ったあの日から

秋色

第十九話

「お待たせいたしました。こちら当店自慢のソースと特製ロブスターになります」ゴリラはそう言って俺たちの和気あいあいとした会話を壊した。「うわぁ、青山さん見てくださいよ。これプリプリですよ」彼女はロブスターの身を箸でつまんでそう言った。どれ、一つ食べてみようじゃないか。まずは、そのまま。 これは……旨い。ジューシーながら身の程良い固さがそれを吸いこむようにして口の中で味を一つにまとめてくれている。ロブスター恐るべし。次は、ソースをつけて食べてみよう。


クリーム色をしたソースには玉ねぎと何かの葉っぱが散りばめられている。「旨いですね、これは」「ですよね。流石ロブスターですよ」思わず彼女に同意を求めてしまう程旨い。酸っぱいようで甘く、玉ねぎ独特の辛みと何かの葉っぱがいいアクセント
になって、小躍りしてしまいそうになる。箸が止まらず、あっという間に食べきってしまった。ボリューム感こそ物足りなさを覚えるものの、味は一級で満足していると、ゴリラがウホウホしながら此方へと向かってくる。


テーブル近くまで来たところで、ゴリラは重ったるそうなその口をゆっくりとバナナを頬張る様にして開いた。
「川角、だよな? 久しぶり。やっぱ覚えてないかな? 声かけづらくて高校の時一緒だった鹿田だけど」え?そういうのってドラマとかの話じゃないのか。不思議に思っている俺を余所に彼女こめかみをマルコメさんよろしく人差し指で突き刺すようにして捻っている。そのまま味噌が飛び出て、実はドッキリでテレビカメラが植木鉢に隠してありました、というサプライズなら良いが一向にその気配は見られない。残念。


はっ、彼女がそう言って嬉しそうに鹿ゴリラに話しかけだすではないか。心配だが、ここで口を挟んでは不味いだろう。静観。
「鹿ちゃん、鹿ちゃんだ。あーー面影あるよ。何で気づかなかったんだろ」「いやいや、もう何年も会ってないし、それにそこまで話す仲でもなかったしさ」「確かに、言えてる。鹿ちゃんはもうこのお店に勤めてるんだ」ここからは、聞くに堪えない俺の全く知らない学生時代の彼女の話と彼女の話だけならむしろ拝聴願いたいが、何故か鹿マルコメゴリラの、俺、実は将来店持ちたくてさ修行中、みたいな、といった将来像を合わせて聞かなければならないので割愛。





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