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彼女と出会ったあの日から

秋色

第五話

近くにあった手頃な電柱に寄りかかりながら俺はできる限りの笑顔で彼女へ内心を悟られまいと取り繕っていた。
ふと、ガキの頃に、門限を過ぎてお袋にこっぴどく叱られたときにの事を思い出す。
あの日、確か近所の公園で仲の良かった奴らとジャングルジムや鉄棒で何回連続して逆上がりができるか競い合っていた。
しかし、一人また、一人と門限やギブアップを理由にして家路へと急いで向かっていく。
俺は、彼らの姿を逆転した世界とまっすぐな世界との間で揺れながら最後の一人になるまで鉄棒にしがみついていた。
とうとう、辺りも遊び始めたころと比べ暗くなり、急に自分がバカげたことに固執し、意固地になっていたという事実を受け入れなければならなくなり、帰ることにした。気持ちの問題だろうか、いつもの帰り道ですらどこか違う街の違う景色にすら思えてきた。辺りを見渡しながら俺は、お袋に言いつけられていた言葉を思い出しそれを実践しながら歩く。
「迷子になったなと思った時は、電柱を目印にして帰っておいで。そうすると迷わんよね」いくつかの電柱を見つけては近寄っり、違う。これも違う。そうこうしている内に辺りは俺が公園を出た時に比べいっそう暗くなる。怖い気持ちと上乗せする様に襲ってくるそれに身を支配されながら、必死に目印の電柱を探す。すると、一つの電柱に近寄った時だ。その電柱は、まるで、
意思を持っているかのように俺をからかってくる。ヂヂッ、と鳴り威嚇してきたかと思うと急におとなしくなる。恐怖に支配されつつあったときに、前からかなり背の小さい人が一歩一歩を踏みしめるようにして歩いてきた。
目に涙を浮かべながら俺は、見ず知らずのその人に縋るしかないと思った。徐々に近づいてくるその影に、身を寄せる様にヨタヨタと歩き始めると、突然、聞き覚えのあるどこか心地よく何をしても許されてしまうようなそんな温かみのある事がこちらへと向けられる。「やっぱり、ケン君じゃったか。何しとるんねこんな時間まで、はよう帰りって言われとるじゃろ」「ばあちゃん……?ばあちゃんよね、ばあちゃぁん」走ってばあちゃんのもとへと行った俺は先程まで抑え込んでいた感情をすべてばあちゃんへと向けた。
ばあちゃんは俺のすべてを包み込むように頭を撫で、そっと抱き寄せてくれた。
ひとしきり泣き少し落ち着いた俺は先程までお袋に言いつけられていた目印の電柱を探していたことをばあちゃんに話す。
「あー、そんなもん子供に見分け付くわけないんよ。電柱なんて明るいところで見たって違いが判らんのに」ばあちゃんはしわだらけの顔を少し力強く歪めながら、「帰ったら叱らんといけん。」
そう聞こえるか微妙な声でつぶやくと、急ににっこりとした笑顔が可愛らしい、いつものばあちゃんの顔に戻り、様子をうかがっていた俺の頭を「何でもないけぇね」と言いながら飼い猫を撫でるようにして撫でた。
家についた早々に親子喧嘩が始まった。俺対お袋ではない。ばあちゃん対お袋で。
結局二人がいつもの調子で、ばあちゃんが「あんたはいっつもそうじゃったよ。子供の時から」と言えば「お母さんだって、昔から変わらんよね、頑固な所とか」とお袋が言い返す。
そんな伝説的卓球少女でさえびっくりなラリー戦を繰り広げている二人を横目に俺は、親父が温めなおしてくれた、おかずと茶碗からはみ出しているその姿から別名チョモランマと呼ばれる山盛りご飯を行ったり来たりしながら、親父と話していた。
確か、話題は、ふっと、視界がぼやける。あぁ、待ってくれ、そうだ確かお袋と結婚したわけを教えてくれていたんじゃなかっただろうか。親父とは俺が上京して以来何年も口を聞くどころか、顔も合わせていない。男同士なんてどこの家庭もこんなもんだろう。それなのになんで、急にこのタイミングで思い出すのだろう。


「あのー、青山さん? 」[え、どうしました」「いえ、さっきから黙ったままだから、どこか体調でも悪いんですか? 」
「何でもないっすよ、ただちょっとめまいみたいなものが」俺は彼女を安心させるために、両手を宙に広げ、おどけて見せた。
彼女は、口の端から端にかけてちょっとした列車なら走れるのではないか、そんな美しい直線を作りながら目じりにしわを寄せている。
少し、そこまで送っていく。そう俺が言うと彼女はエスコートされ慣れているのか、そっと俺の方へと肩を寄せてくる。
その男慣れしている様子に若干の気分が落ち込んだ。
しかし、次の瞬間には、現金なもので、彼女の口から出る言葉に、よからぬことが色々と捗りそうな艶っぽさを感じていた。
「もう、心配して損しちゃいましたよ。おわびにご飯でも連れて行ってください」言い終わるのと同時に彼女は、
「あっ、もう行かなきゃ。」そう言いながら慌てる様子でペコっと頭を下げ、向こうへと走っていく。その姿を手を振るフリをしながら見送る。
彼女の背中をもう少し見ていたいという欲求ともし彼女があまりにも社交的な人で、ある程度まで向こうに走った後に
ふと、こちらを見返したときに俺がまだ恍惚の表情で視線を送っていたとしたら。どうだろうか、嫌われてしまうだろうな。
そんな葛藤を人知れず繰り広げた後、素直にあきらめ家へ帰ることにした。「今日は少々キザっぽかったよな」独り言を言う俺はさぞかし怪しいだろう。このままでは、通報されかねないと色々と捗る為の準備をするために家路へ急いだ。

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