お悩み相談部!
七章相談者とその報酬
さすがに十八時を超える時刻ともなると辺りは夕闇に包み始めている。
薄暗い廊下を抜け、俺は自分の教室へとやってきた。その先にいるであろう人物に会うために。
勢いのまま扉を開け中に転がり込む。
俺の目の前、夕日を背に浴び窓辺に立つ生徒はまるで闇夜のベールに包み込まれているかのようだった。まるでアイドルのように。
そいつが俺の元へと歩み寄ってくる。
「わたしを呼び出すなんてどうかしましたか?」
明かりに照らされてその顔が浮かび上がる。斉川唯が俺の前に立つ。
「おまえに頼みたいことがある」
そう言って俺は一歩斉川に近づく。
「あ、在原さん……」
斉川が一歩後ろにたじろいだ。
「聞いてくれ斉川」
俺は間髪入れず距離を詰める。
「そ、そういうことはちゃんと手順を踏んでですね……」
あたふたと顔の前で手をぶんぶん振るわせている。そして観念したようにぎゅっと目を瞑った。
俺は斉川の肩を両手でつかむ。そして次のセリフを口にする。
「俺たちのために力を貸してくれないか!」
「へ……?」
素っ頓狂な声を上げる。
「双葉が風邪を引いて声が出ないんだ。頼む!おまえしかいないんだ」
頭を下げる。
「…………」
少しばかりの沈黙が辺りを包みこむ。
「そ、そうですよね……キスなわけないですよね……」
小さく呟いて何かを誤魔化すように手でぱたぱたと火照った顔を仰いでいる。
「わかりました。力になります」
   どうやら了承してくれたようだ。なら、よし――
「すまんが、時間がないんだ」
斉川の手を強引に取って駆け出す。
「ちょ、ちょっと在原さん!?どこ行くんですか」
「体育館だ」
後ろから聞こえる斉川の問いに俺はそう返す。
「返さないといけない恩もありますからね」
   後ろで斉川が何か呟いたような気がしたが風にかき消されてうまく聞こえなかった。
「すまん、待たせた」
斉川を連れて戻ると道化師姿の海道が即興漫才をして時間を稼いでいるところだった。
「遅えよ在原」
海道がステージから降りてきて俺の傍にいる斉川を見つける。
「なるほどな。斉川さんなら適任だ」
「ありがとう斉川さん。わたしが不甲斐ないばっかりに」
双葉も安心したようだ。目の端には涙が浮かんでいる。相当、罪悪感を感じていたんだろう。
「いえ、これも在原さんのお陰ですから」
何故か当の本人は俺を称えるが、俺こいつに何かしたか?
「準備はできたみたいだね」
そこに、ステージから降りてきた姫熊が俺たちを見回して斉川の前で視線を止める。
「私からもお礼を言うよ。ありがとね斉川さん」
「は、はい!」
姫熊先輩に見つめられ緊張した面持ちだ。
「それじゃあ、行くよ」
言うと会長は再びステージへと戻る。
「大変お待たせしていたしました。それでは、開会式ラストの出し物になります」
マイクを持って出し物のラストを宣言する。それに反応するように体育館の熱気もますます高まりつつあった。
「それではラストのライブをお楽しみ下さい」
手を振りながらステージからこちらに向かって退場してくる。俺たちは入れ替わるようにステージへと進み出た。ライトから降り注ぐ光が眩しい。
マイクを握る。
下では昼間夜と緋野がこちらに手を振っていた。俺は改めてメンバーを見渡す。
「みっなさーん☆いきますよー!」
ピンクのフリフリ衣装に身を包んだ斉川がマイクを掲げて現役アイドルよろしく会場のボルテージを上げていく。会場が熱に支配されていくのがわかる。
「それでは聞いてくださいーー」
曲名をいい終わると海道のドラムのスティック音がリズムを刻み始める。俺と双葉のエレキギターが前奏を奏でる。そして、斉川が歌い始める。
やれることは全てやった。あとはやってきたことを全力でぶつかるだけだ。そして終始、熱狂に包まれながら俺たちは無事、ライブを成功させたのだった。
薄暗い廊下を抜け、俺は自分の教室へとやってきた。その先にいるであろう人物に会うために。
勢いのまま扉を開け中に転がり込む。
俺の目の前、夕日を背に浴び窓辺に立つ生徒はまるで闇夜のベールに包み込まれているかのようだった。まるでアイドルのように。
そいつが俺の元へと歩み寄ってくる。
「わたしを呼び出すなんてどうかしましたか?」
明かりに照らされてその顔が浮かび上がる。斉川唯が俺の前に立つ。
「おまえに頼みたいことがある」
そう言って俺は一歩斉川に近づく。
「あ、在原さん……」
斉川が一歩後ろにたじろいだ。
「聞いてくれ斉川」
俺は間髪入れず距離を詰める。
「そ、そういうことはちゃんと手順を踏んでですね……」
あたふたと顔の前で手をぶんぶん振るわせている。そして観念したようにぎゅっと目を瞑った。
俺は斉川の肩を両手でつかむ。そして次のセリフを口にする。
「俺たちのために力を貸してくれないか!」
「へ……?」
素っ頓狂な声を上げる。
「双葉が風邪を引いて声が出ないんだ。頼む!おまえしかいないんだ」
頭を下げる。
「…………」
少しばかりの沈黙が辺りを包みこむ。
「そ、そうですよね……キスなわけないですよね……」
小さく呟いて何かを誤魔化すように手でぱたぱたと火照った顔を仰いでいる。
「わかりました。力になります」
   どうやら了承してくれたようだ。なら、よし――
「すまんが、時間がないんだ」
斉川の手を強引に取って駆け出す。
「ちょ、ちょっと在原さん!?どこ行くんですか」
「体育館だ」
後ろから聞こえる斉川の問いに俺はそう返す。
「返さないといけない恩もありますからね」
   後ろで斉川が何か呟いたような気がしたが風にかき消されてうまく聞こえなかった。
「すまん、待たせた」
斉川を連れて戻ると道化師姿の海道が即興漫才をして時間を稼いでいるところだった。
「遅えよ在原」
海道がステージから降りてきて俺の傍にいる斉川を見つける。
「なるほどな。斉川さんなら適任だ」
「ありがとう斉川さん。わたしが不甲斐ないばっかりに」
双葉も安心したようだ。目の端には涙が浮かんでいる。相当、罪悪感を感じていたんだろう。
「いえ、これも在原さんのお陰ですから」
何故か当の本人は俺を称えるが、俺こいつに何かしたか?
「準備はできたみたいだね」
そこに、ステージから降りてきた姫熊が俺たちを見回して斉川の前で視線を止める。
「私からもお礼を言うよ。ありがとね斉川さん」
「は、はい!」
姫熊先輩に見つめられ緊張した面持ちだ。
「それじゃあ、行くよ」
言うと会長は再びステージへと戻る。
「大変お待たせしていたしました。それでは、開会式ラストの出し物になります」
マイクを持って出し物のラストを宣言する。それに反応するように体育館の熱気もますます高まりつつあった。
「それではラストのライブをお楽しみ下さい」
手を振りながらステージからこちらに向かって退場してくる。俺たちは入れ替わるようにステージへと進み出た。ライトから降り注ぐ光が眩しい。
マイクを握る。
下では昼間夜と緋野がこちらに手を振っていた。俺は改めてメンバーを見渡す。
「みっなさーん☆いきますよー!」
ピンクのフリフリ衣装に身を包んだ斉川がマイクを掲げて現役アイドルよろしく会場のボルテージを上げていく。会場が熱に支配されていくのがわかる。
「それでは聞いてくださいーー」
曲名をいい終わると海道のドラムのスティック音がリズムを刻み始める。俺と双葉のエレキギターが前奏を奏でる。そして、斉川が歌い始める。
やれることは全てやった。あとはやってきたことを全力でぶつかるだけだ。そして終始、熱狂に包まれながら俺たちは無事、ライブを成功させたのだった。
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