お悩み相談部!
五章悪戦苦闘
十月二十一日、金曜日。
パーティまで残り十日。
俺たちはライブハウスの一隅で練習に励んでいた。
「在原そこ安定ずれてるよ」
「すまん」
「在原、ドラムより先走りすぎだ」
「悪い」
授業が終わり次第、楽器を担いでそのままライブハウスへと移動する。そんな日々が続いていた。
ご覧の通り俺が明らかに二人の足を引っ張っている。
海道のドラムは持ち運びが面倒なのでライブハウスに置かせてもらっている。本番当日はここから車で会場まで送ってもらう手筈だ。
「それにしても、だいぶ手が開くようになってきたね」
「本来は三週間くらい必要だが今回は時間もないし在原には結構無理してもらってるよ」
ここ最近は家に帰ってもギターの練習だ。まだ指の開き具合がおぼつかない。
「今日はこの辺でいいんじゃないかな、無理もよくないし」
ふと時計を見るともう練習を開始してから二時間近くも経っている。だが、失敗したままで終わりたくない。
「いや、もう一回だけたのむ」
双葉は頭を下げる俺を見て小さく笑う。
「もう、強情だなあ。しかたない付き合ってあげる」
「よし、もう一回いくか!」
海道が再びスティックでリズムを刻み始める。
「ワン、ツー、スリー!」
  再び部屋中に曲が響き始める。
それから数日が巡るように過ぎていった。
二十七日、木曜日。
俺はエレキギターの調子を確認するため朝早く教室に訪れていた。教室内に音色が響く。
ある程度は曲を通しで弾けるようにはなってきてはいるが――
「……っ!」
この短い期間で酷使した掌はところどころ皮がめくれ上がっていた。
「さすがに無理し過ぎたかな」
掌を見つめていると不意に掌が暖かいものに包み込まれる。
顔を上げると目の前に緋野が立っていた。
「お疲れ様です。練習の方は頑張ってるみたいですね。私が入ってくるのにも気付かないほど」
緋野が優しく笑ってみせる。
扉に目を向けると微かに扉が開いている。どうやらそれほどまでに集中していたらしい。時刻を見ると登校の十分前だ。
「いつもこの時間に来てるのか?」
「ええ、朝は早いんです。」
言いながら鞄をガサゴソと探っている。しばらく漁っているのを眺めていると鞄から何かを取り出した。
「私の父が使ってる特製品の軟膏です。傷口が早く治ると思いまして」
そう言うと特製の軟膏を付けた緋野の掌が俺の掌を再び包み込む。思ったよりもぴりぴりする。
「痛いんだが」
痛みに思わず顔を歪めた。
「ふふっ。我慢してください」
弟を看病する姉のようだ。
「…………」
だが、塗り終わってしばらくしてもなかなか俺の手を離してくれない。まだ、ぎゅっとに握られている。
「おい、もういいだろ」
「すいません。みんなが登校してくる間もう少しだけこうしていてもいいですか?」
握っている手に不自然に力が込められたような気がした。まるで言い表せない感謝を伝えるように。
「……好きにしろ」
「では、好きにさせてもらいます」
俺はしばらくその優しさに包まれていた。
そして、俺はハロウィンパーティ当日、海道から緊急の呼び出しを受けたのだった。
パーティまで残り十日。
俺たちはライブハウスの一隅で練習に励んでいた。
「在原そこ安定ずれてるよ」
「すまん」
「在原、ドラムより先走りすぎだ」
「悪い」
授業が終わり次第、楽器を担いでそのままライブハウスへと移動する。そんな日々が続いていた。
ご覧の通り俺が明らかに二人の足を引っ張っている。
海道のドラムは持ち運びが面倒なのでライブハウスに置かせてもらっている。本番当日はここから車で会場まで送ってもらう手筈だ。
「それにしても、だいぶ手が開くようになってきたね」
「本来は三週間くらい必要だが今回は時間もないし在原には結構無理してもらってるよ」
ここ最近は家に帰ってもギターの練習だ。まだ指の開き具合がおぼつかない。
「今日はこの辺でいいんじゃないかな、無理もよくないし」
ふと時計を見るともう練習を開始してから二時間近くも経っている。だが、失敗したままで終わりたくない。
「いや、もう一回だけたのむ」
双葉は頭を下げる俺を見て小さく笑う。
「もう、強情だなあ。しかたない付き合ってあげる」
「よし、もう一回いくか!」
海道が再びスティックでリズムを刻み始める。
「ワン、ツー、スリー!」
  再び部屋中に曲が響き始める。
それから数日が巡るように過ぎていった。
二十七日、木曜日。
俺はエレキギターの調子を確認するため朝早く教室に訪れていた。教室内に音色が響く。
ある程度は曲を通しで弾けるようにはなってきてはいるが――
「……っ!」
この短い期間で酷使した掌はところどころ皮がめくれ上がっていた。
「さすがに無理し過ぎたかな」
掌を見つめていると不意に掌が暖かいものに包み込まれる。
顔を上げると目の前に緋野が立っていた。
「お疲れ様です。練習の方は頑張ってるみたいですね。私が入ってくるのにも気付かないほど」
緋野が優しく笑ってみせる。
扉に目を向けると微かに扉が開いている。どうやらそれほどまでに集中していたらしい。時刻を見ると登校の十分前だ。
「いつもこの時間に来てるのか?」
「ええ、朝は早いんです。」
言いながら鞄をガサゴソと探っている。しばらく漁っているのを眺めていると鞄から何かを取り出した。
「私の父が使ってる特製品の軟膏です。傷口が早く治ると思いまして」
そう言うと特製の軟膏を付けた緋野の掌が俺の掌を再び包み込む。思ったよりもぴりぴりする。
「痛いんだが」
痛みに思わず顔を歪めた。
「ふふっ。我慢してください」
弟を看病する姉のようだ。
「…………」
だが、塗り終わってしばらくしてもなかなか俺の手を離してくれない。まだ、ぎゅっとに握られている。
「おい、もういいだろ」
「すいません。みんなが登校してくる間もう少しだけこうしていてもいいですか?」
握っている手に不自然に力が込められたような気がした。まるで言い表せない感謝を伝えるように。
「……好きにしろ」
「では、好きにさせてもらいます」
俺はしばらくその優しさに包まれていた。
そして、俺はハロウィンパーティ当日、海道から緊急の呼び出しを受けたのだった。
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