お悩み相談部!

あまひき まつり

三章友達

 事の発端は国語科教諭の緋野秋ひの あきに面談室に呼び出された時だ。
 誰も使っていないのか面談室には俺と教師の二人しかいない。
「学校にちゃんとした友達はいるのか?」
 席に着くなりそう切り出された。
「なんなんですか、突然。ちゃんと友達はいますよ」
 俺の指摘に怪訝そうに眉を持ち上げる。
「友達と話している場面を見たことがなくてな。いたとしても月額料金を払うタイプの友達かと」
 捨てられた仔犬を見るような瞳がこっちを見る。
「そんな哀しそうな目で見ないでください。ちゃんと友達はいますから」
「月額課金制のか?」
「だから、違うって言ってんだろ!?」
 この教師は俺をなんだと思ってんだ。
 緋野秋は椅子を寄せて机に肘をつく。
「もう少し作ろうとは思わないのか?」
「自分と会う人が居ないんですよ。だからって無理に作るのも違うかなと」
「作れるのなら作りたいんだな?」
「まあ……」
「なら、友達も少なく部活にも入っておらず、青春を謳歌していないきみにとっておきの部がある」
「ぐへえ」
 そう言うと俺の襟首を掴みながらズンズンと歩き始める。
「ど、どこに連れて行く気ですか」
「きみにとっておきの部があると言っただろう」
 そのまま廊下の奥まで進んだあたりでくるりとこちらに振り返ると、俺を見て迷惑そうに目を眇める。
「そろそろ自分で歩いてくれないか。引きずる方も疲れるんだが」
「理不尽過ぎない?」
 そのまま部室までズルズル引きずられる羽目となった。

「そんなこともありましたね」
 緋野が懐かしそうに笑いながら再び紅茶を淹れている。
 言わずもがな苗字から分かるようにこいつとあの国語科教師は実の姉妹らしい。俺も最近知ったが。
「そうだな。あの時は酷い目に遭ったわ」 
 昼間夜が楽しそうに横でけらけらと笑っている。
「最近よく部室に来てる斉川先輩も初めは相談者でしたよね」
「そうだな」
「にしても斉川先輩って本当にアイドルだったんですね。初めの時と今の印象はだいぶ違います」
 斉川唯。ストーカー事件を解決してからは頻繁に部室に訪れるようになった。
 会った当初は南極基地に置き去りにされた樺太犬みたいにびくびくしていたのに今となってはその影もない。気を許した相手には自分をさらけ出すタイプなんだろう。
 それにしてもなんであいつはこんな頻繁に来てるんだろうか?
 緋野が不意に目を細める。
「もしかしたら恩を感じてるのかもしれません」
「誰にだよ」
「さあ?」
 緋野が口に微笑を浮かばせる。
 こうして見ると緋野は存外、姉の緋野秋と似ているところがあるな。笑った顔とか特にそうだ。
 すると、唐突に頭にかかっていたもやが晴れてくる感覚がある。
「……そうだな」
「何か思い付いたんですか」
 昼間夜が食い気味に聞いてくる。
「聞かせてくれるかな」
 姫熊先輩も興味深そうに顔を覗かせる。緋野も声には出していないが無意識に身体を前屈みにしている辺り興味はあるんだろう。
「パーティでの出し物はライブをしようと思う」
「「……へ?」」
 その場の全員が腑抜けた声を上げる。だが、断じて言い間違いなどではない。
「ついに頭がおかしくなっちゃったんですか。病院行きます?」
 昼間夜が哀れみの目を向けてくる。おい待て、俺を病人扱いするな。いたって普通で健康だわ。
「……別に頭がおかしくなったわけじゃねえよ。ライブとは言ったが今回は俺に任せてくれないか?」
 口の端を上げニヒルに笑ってみせる。
 しばらく緋野は考え込んでいたが、
「それではこの件に関しては在原くんに任せます」
 ちゃんと承諾してくれた。がーー
「でももし大変そうなら私たちにも頼ってください」
 心配そうな顔をこちらに向けてくる。
「ああ、わかってる」
 そんな俺たちを見て姫熊先輩がにこやかに微笑む。
「それじゃあ、ライブをしてくれるってことで生徒会でも通しておくよ。本当に今日はありがとうね。大変そうなら生徒会もお手伝いさせてもらうから」
 それから今日のところは解散ということでそれぞれ帰路についた。
 そして俺は帰宅後、スマホを取り出してメッセージアプリを起動する。
『明日、ちょっと話したいことがあるんだが。時間いいか?』

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