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お悩み相談部!

あまひき まつり

二章相談者

 寒さも増してくる夕暮れ時。
 緋野が部室に完備された簡素なキッチンで機嫌よく髪をふりふり揺らしながら紅茶を注いでいる。
 アールグレイのほのかな香りが鼻をくすぐる。
 斉川は出された紅茶を飲み干すとすぐにお暇した。
「紅茶、入りましたよ」
 緋野が木盆にカップを乗せながらやって来る。
 炬燵といえばみかんだが、残念ながら食べ物は持ち込むことが出来ないので帰る前にみんなで紅茶を飲むことにしている。
 親睦を深めていくことも部活では大事なことだ。一部、距離が近すぎるような気もするが……。
 そんなわけで今日も変わらず紅茶に舌鼓を打っていると――
「ちょっといいかな」
 不意に部室の扉がノックされた。
 俺たちは顔を見合わせる。
一般の生徒ならとっくに下校している時刻だ。こんな時間に誰かが訪ねてくるのは初めてだった。
 緋野や昼間夜の顔にも疑問の表情が浮かんでいる。 
 ちらと横目で時計を見るが、まあ、まだ帰るまでに時間はある。
「どうぞ」
 緋野が入室を促すと誰もがよく知る生徒が扉を開けて入ってきた。
「ど、どうかしましたか?」
 緋野が驚きの声を上げている。
 だが、想定の範囲内だろう。なにせ、こんな時間まで残っている生徒は限られている。
「わ、わたしたち何かやっちゃいましたか?」
 昼間夜はなぜか狼狽していた。
 おまえはなぜそこまで慌てふためいてる?心当たりでもあるのか?
「いや、安心して。ここに問題があるから来たっていうわけではないんだけどね。むしろ、問題があるのはこっちの方で……」
 入ってきた生徒が自虐的に笑いながら二人を宥める。
「姫熊先輩なにかありましたか?」
 俺は訪問者である彼女に声をかけた。
 生徒会長、姫熊 夢和ひめぐま ゆあ。二年次から会長として君臨しており知名度は高く、その端整な顔立ちや親しみやすさから男女問わず人気がある。特に母性を体現したかのようなサイズの少し大きめな服の上からでもわかるほどの女の子然としたそれが特に男子からの人気を集めている。
 いや、それにしてもマジででけえな。
「せんぱい、なにえろえろな目で見てるんですか。気持ち悪いです」
 後輩からそんな罵りと冷ややかな目を向けられるが、健全な男子としてはしょうがないのだということをここに記しておく。
「さ、さすがにそこまでまじまじ見られるとお姉さんとしてもちょっと困っちゃうかな」
 どうやら、本人からも分かるほど凝視していたらしい。
「すみません」
「いいのいいの。わかってくれれば」
 こういう優しさも男子から好かれる所以なんだろう。どこぞの生意気な後輩とは違う。
「せんぱい今の失礼なこと考えてませんでした」
「いや、べつに」
 変なところで鋭いな。
「それじゃあ、どうしてここにいらっしゃったんですか?」
 もう一人分の紅茶を注いだ緋野が姫熊に勧めながら神妙そうな顔で尋ねる。
「そうだったね。じつは不手際で人手が足りなくなっちゃって緋野さんたちに頼めないかなって」
「悩みがあるのならお聞きします。それがこの部の活動ですから」
「ありがとう緋野さん!」
 姫熊の顔がパッと華やいだ。そして、本題を切り出す。
「じつはーー」

 依頼を聞いて頭を抱えた。
 十月末にあるハロウィンパーティの催し物をして欲しいとのことだった。今は十月の中旬、あまり時間はない。
 どうやら本来、音楽系の部活が催しをするはずだったのだが今年は通達が遅れたことにより音楽系の部活は皆、合宿を入れてしまったらしい。
「音楽系の部活がつかまればよかったんだけど……緋野さんたちは音楽出来たりする?」
 会長が申し訳なさそうに俺たちを見る。
 緋野と昼間夜が首を振る。
 俺はギターの経験は少しばかりあるがずぶの素人に等しい。仮にライブをしようにも経験者が俺以外に皆無では意味がない。ソロライブでもするか?
「せんぱいだけじゃどうしようもないですしね」
 昼間夜が申し訳なさそうに肩を落とす。
「何かありません?いつもなにかとこういう時に頼りになるじゃないですか」
 すがるような瞳が俺を見上げる。
 こんな時にしか頼られない先輩というのもなにかと癪にさわるが、こんな愛想のない後輩でも頼られるのはなかなかどうして悪いものでもない。
「……そうだな」
 目を伏せる間際、ちらと視界の隅に緋野の姿が映る。その姿が俺がここに入ることとなったやつの姿と重なった。

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