異世界転移治療録 神とゴブリンと病院の卵

雲と空

17話 運命を天とゴブリンに任せよう

「ふう、いいお湯だった。シャワーってすごいね。いい匂いがする。なんだか綺麗になったみたい」
 「あ……ああ、早かったね」
 シャンプーの匂いがする。腎臓が悪くなって、鼻が悪くなるというけれど、もともと母親似で鼻が良かったので、それほど不自由はない。多分、普通くらいになったんじゃないだろうか。
 「お兄ちゃんも入れば」
 「入りたい。入りたいんだけど……首の管がな……」
 どうしようか……。
 「お湯がかからないようにすれば、入れると思うんだけど」
 「カテーテル全体が覆えればいいんですか」
 「フィルムとテープだけじゃ無理だな……。ビニール袋とラップとかあれば」
 「小林さん、良かったら魔法でコーティングして差し上げましょうか?」
 「ダレンさん……そんなことができるんですか?」
 「まあ、神ですから」
 「じゃあ、ここはお願いします」
 「はい……」
 ダレンさんが手を掲げると、光がバスキュラーアクセスカテーテルを包み込む。
 「なんか、管が光ってる。ちゃんと、刺入部も包んでありますね。わかってらっしゃる」
 「じゃあ、先にシャワー浴びてきます」
 魔法バッグの中から、下着を出しパジャマを持って、いざシャワー室へ。

 患者衣はもう着ないかな。でも、一応ランドリーボックスに入れておこう。
 考えてみれば、まだ、患者だ。人工透析するようになったら、あれ着てた方が汚れないかもね。

 服なんて、ほぼ着てないのと一緒だから、脱ぐのなんて一瞬だ。
 更衣室の鏡にやせ細った自分の姿が写る。
 「やっぱ、痩せてるなあ……。もうちょっと、ここの胸の辺とか、腕の所とか……なんとかならないかな」
 みっともないな、と正直思う。
 脂肪も、ここまでくるとあったほうがいい。
 透析ができるようになったら、タンパク質をたくさんとって、動いて、モンスターを倒して……カッコイイ感じになりたいな。

 「……レンさんは、知っていますよね?」
 なんか、外で話が聞こえる。
 「……てて、私が……だってこと」
 ゴブリンとダレンさんが話をしてるのか。

 気になるけど、盗み聞きはよくないな、さっさとシャワー浴びちゃおう。
 シャワーを浴びていると、色々考えてしまう。
 さっきまで、ダレンさんとゴブリンの二人がいてくれたから、気持ちが紛れた。
 けれど、独りになるといろいろ考えすぎてしまう。
 元の世界の仕事は……、自分がいなくてもどうにかなるだろう。
 親の所には、弟も妹もいるし……甥っ子がたくさんいるから、自分がいなくても、寂しいのは一時だろう。
 アパートは解約してくれたかな。
 そういえば、パソコンの中に入っていた、ちょっと見せられないデータや美少女ゲームのデータはどうなっただろうか。あと、密かに書いていたポエム……見られたくないな。

 こんなことなら、入院する時にお風呂の中に水没させてくるんだった。
 
 元の世界で死んだようなものなのに、こっちの世界でも死んでしまったら、せっかく転移した意味ない。こっちの世界で、こんな不思議ですごいものに巡り会えたんだから、腎不全も治るかも知れない。

 治るかもしれないけれど、このまま、透析設備ができなかったら……死んでしまう。
 明日中にできるかな。
 元の世界では、基本的に週3回で4時間透析が基本だ。
 流石に、1回スキップしたくらいなら、死にはしないだろうけれど、それなりに身体は動かないだろう。

 水分は食事の時にしか摂っていないけれど、1回透析をスキップすれば3kg位体重が増えちゃうだろうな。
 下手したらそれ以上かも。

 普通に食事をして、普通に動いて、普通に生活している以上は持って1週間でやばくなる。
 2週間持つのは、食事も水分も摂らずに断食状態だからだよな。どう、計算しても。
 亡くなるなら、高カリウム血症かな? うっ血性心不全かな? 肺水腫かな?
 食事を食べなかったら、余計に筋肉も落ちるし、その後、冒険者になるってことも難しくなるかもしれない。

 明日中に透析設備ができなかったら、やっぱやばいな。
 でも、明日になってみて、ゴブリンと一緒にやってみて、悩むのはそれっからだな。

 よし、天とゴブリンに任せよう。
 そう思って、身体に残った泡を洗い流しシャワー室を後にした。 
 
 

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