異世界転移治療録 神とゴブリンと病院の卵

雲と空

14話 スライム素材の靴と願い

まあ、自分はもうジャージ一択。
 防御力は後ろにいるだけだから、いらないといえば要らないか。


 「それはそうと、ダレンさん・・・。靴はなにかあります?」
 「冒険者用のスライム素材ブーツがあります。2ポイントで」
 「自分とゴブリンの分を1足ずつください」
 「え・・・、要らないよ。裸足で十分」
 「靴を履いたほうが、足が速くなるんだよ。怪我もしなくなるし・・・靴下も履いておいてさ」
 「やだよ」
 「どうしても?」
 「どうしてもと言われると、そこまでではないけど」
 やっぱり、裸足の爽快感が忘れられないのだろうか。
 けれど、建物の中で暮らすのなら、やっぱり外と中は分けてほしい。
 家・・・ではないけど、下駄箱があるのだから、しっかりやろうよ。 


 「お兄ちゃんの一生に100度位のお願い」
 「100度?」
 「長く一緒にいたら、100回くらいお願いするかなと思って」
 「長くいるつもりはあるんだ」
 「可愛いゴブリンと、話をするのが生きがいだから」
 「・・・」
 「それに、生きられる限りは生きようかなって思うと。ダレンさんと居るのも悪くないと思う」
 「小林さん、愛の告白ですか・・・ワタクシは男はちょっと・・・」
 「折角、いいこと言ったのに。俺の気持ちを返せ」
 「冗談ですよ」
 冗談・・・何でこういう時に冗談を言うんだろうか。
 照れくさいのかな・・・。




 「・・・ダレンさん、靴お願いします」
 「オッケー、ベイビー」
 キャラの方向はギャグに行ってしまうけど、いいの?ダレンさん。


 冒険者用のスライム素材ブーツはポンッと床の上にでた。
 見た目は普通。
 青い靴。


 早速履こうと思ったけれど、足汚いんだった。
 「ちょっと、シャワー室で洗ってくる。靴履くんだから、お兄ちゃんと一緒に行くよ」
 ゴブリンにも足を洗わせないと。
 先に自分でさっさと洗ってしまう。
 草と枝だったから、そんなに汚れてないけれど・・・とりあえず、ボディシャンプーを付けて適当に洗っておいた。
 タオルで拭いて・・・。コインランドリーに入れておく。
 シャンプーは、いい匂い・・・。何の匂いだろう。
 これなら、足のクサいのは消えそうだ。
 ゴブリンは洗えるかな。
 「自分で、足は洗える?」
 「洗えるよ、お兄ちゃんは向こう行ってていいよ」
 「え・・・、いなくていいの?」
 「いいよ、このビンの中身を付けて洗えばいいんでしょ?見たから大丈夫」
 「そう?せっかく、洗ってあげようと思ったのに」
 うん・・・正直寂しい。


 足を洗ってから、靴下を履いて、靴を履いてみた。 
 履いてみると中はクッション素材。
 スライムが使われているんだろうか。
 裸足よりも、これはいいんじゃないか。
 これなら、疲れないかも。
 圧力によって、スライムの硬さがいろいろ変化する。
 こんなの初めて。
 「ねえ、試しに履いてみなよ。お兄ちゃんは気に入ったよ」
 「うん・・・しょうがないなあ。一生に100回の内の1回だよ」
 ドクロンブランドの箱の中から、ドクロンキャラの入った黒い靴下を探し出し手渡した。
 靴下を履き終わってから、ゴブリンも足を靴の中に突っ込んだ。
 「あっ・・・ん」
 なんか、不思議と色っぽい声が・・・。
 「どうよ?いい感じ?」
 「うん、これは・・・いいかも。走りやすいし」
 ゴブリンは部屋の中をちょっと走った。
 うっ・・・速い・・・。もう、人間じゃないね。あ、モンスターか。
 「部屋の中で走らない。なんか、壊れたらどうすんの」
 「大丈夫ですよ。そんな簡単には壊れないって、言ってましたから。ドラゴンが乗っても壊れない、とか言ってましたよ」
 「それは、すごいね。お兄ちゃん、ちょっと壁を思いっきり叩いてみよう」
 ゴブリンの全力パンチ。
 バンッ。
 ものすごい勢いで壁に当たった。
 大丈夫か?大丈夫なのか壁。
 ゴブリンは大丈夫だろうから、壁を心配しておく。
 「おお・・・すごいよ。お兄ちゃん、傷がちょっとできただけ」
 「え・・・。やめてよ、病院壊すとか。まだ、透析の設備つくってないんだから」
 「ごめん、お兄ちゃん。なんだか、お兄ちゃんに出会ってから力が湧いてきてて、つい殴りたくなっちゃって」
 怖いこと言ってる・・・。
 でも、力が付いた実感はあるんだ。
 ただ、それは先輩ゴブリンよりは弱いんだ、と思っている。


 正直、ゴブリンが自分のためにどこまでやってくれるのか、不安だ。
 モンスターテイマーとモンスターのように主従関係でもなければ、隷属の首輪みたいなもので強制しているわけでもない。
 このゴブリンは、自分自身が無力だと思うから、一緒にいてくれるわけで・・・敵意がないから、攻撃をしてこない。 おそらく、近いうちにゴブリンは、自分が強くなっていることに気づいて・・・ちっぽけな力しか持たない人間と・・・一緒にいる意味を失うんじゃないか。それが、今一番の恐怖だ。死ぬのも怖いけど・・・。
 自分にとって、ゴブリンは大切な命綱であると同時に、大切な家族だ。そして、可愛い・・・。この先、無事に生きられるかわからないけれど、最期の時間をゴブリンと・・・おまけにダレンさんと、できるだけ長く過ごせたらいいな。
 そして、願わくば「おにいちゃん」と自分のことを呼ぶことで、少しは自分の肉親なんだという意識を芽生えさせてほしい。そしたら、出ていかないかも・・・。


それはそうと・・・
 せっかく靴を手に入れたのに、土足の人がいるのはなんだかな。
 「ダレンさん、家の中と外で裸足と土足を分けたいんですけど・・・」
 「ああ・・・すいません・・・下駄箱に靴をおいてきます」
 「床を掃除してからでいいと思いますが・・・自分達も、今は新しいとは言え土足ですし」
 「えっと、床の自浄作用をオンにしておくので、15分くらい下駄箱のとこに立って、待ちますか」
 「そんなのあるんですか・・・ロボット掃除機も要らないとか?」
 「えっと・・・そんなに大きいものはダメみたいですけど、チリとかホコリとか、ゴミっぽいものはなくなります・・・」
 「ゴミっぽい・・・。俺、無くなったりしませんよね・・・主にステータスで」
 「お兄ちゃん、ゴミっぽい?」
 「それ、自虐ですか・・・?」


 玄関で・・・、3人で靴を履いてぼーっと立つ状況。
 手持ち無沙汰だけど、まあ、仕方がない。


 ダレンさんも下駄箱があるのに靴を履いている状況に違和感があったんだろうか。
 でも、裸足の人が二人もいたから、まあ、いっかと思ったのかな。


 
 

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