異世界転移治療録 神とゴブリンと病院の卵

雲と空

10話 異世界への歩行

 カーテンを閉め切って、ベッドの上でサイドテーブルの上に同意書とペンを用意した。


 よし、書くか。 


 といっても、名前を書くだけなんだけど。




 意を決して、自分の名前を書いた。


 相変わらず、あんまり上手くない。


 後は、看護師さんに渡せばいいだけか。








 なんだか、周りの空気が変わった。


 外みたいだな。


 樹のにおいがする。






 眼を開けて、周りを見渡すとベッドと床頭台を残して周りが草原だった。


 暑くはないな、寒くもない。


 病院で借りた手術着みたいな服なので、ほぼ下着を除けば裸。


 結構快適で気持ちがいい空気。


 うん、快晴。


 嫌いな夏ではない模様。


 雲は層雲みたいなものが、ちょっとあるくらい。 






 遠くから強い風が吹いてきて、目の前の手術の同意書を吹き飛ばした。


 自分は遠くの方へ飛んでいく紙をただ眺めていた。






 すると、紙飛行機が同意書が飛んで行ったのとは逆方向から飛んできて、頭にコツンとあたった。


 何かなと思って、紙飛行機を手に取ってみた。


 手で持つと紙飛行機はハンカチみたいに柔らかに形を崩し、ヒラリと広がった。


 中に文字が書いてあった。


 『荷物を持って、いきたい方へ歩け』






 「行きたい方?夢かな。心霊現象かな?」


 まあ、こういうのは従っておこう、と思いバッグに必要な水や適当なものを詰め込んで、なんとなく歩いてみた。


 足の裏には、草のくすぐったい感覚。


 もぞもぞして、なんだか気持ちいい。


 数歩、歩いただけなのに、後ろを見たら病室がなくなって草原が広がる。


 なんだか、すごいところだ。


 地平線が見えて、空の青と緑が平行に走っている。






 とりあえず、なんとなーく歩く。


 時間はよくわからないけれど、空気が変わったところがあった。


 空気というか、温度か。


 少し温度が下がった、と思ったら星空が広がった。


 足元は平らなのだけれど、草はなくなってしまい、すべすべしている感じ。


 そして、足元一面も星空だ。


 満点の星空は美しすぎて、どこか気持ちが寂しくなってしまう。






 星空を眺めていると、声が聞こえた。

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