異世界転移治療録 神とゴブリンと病院の卵

雲と空

6話 入院治療

「インシュリン治療か。あーあ」


 病室のベッドの上でぼやいてみる。




 毎日、インシュリン注射をして暮らすなんて考えると憂鬱だ。






 血糖値が高い初日はインシュリンを持続投与していく。


 こういうのは一気に下げるのは、良くないらしい。


 ちょっとずつ下げていかないと、脳に後遺症が残ったりするらしい。






 インシュリンていうのは、細胞の中に栄養を入れるためのホルモンで、インシュリンがきちんと働かなければ、栄養分が血液中にとどまってしまう。


 栄養分がとどまっていると、濃縮した状態になって血管が詰まりやすくなってしまう。


 砂糖醤油を鍋でグツグツと煮詰めている様子を思い浮かべて欲しい。


 水分が飛んで、ベタベタになっていく感じだ。






 インシュリン治療と同時に、血糖が高すぎてご飯が食べられないから、点滴もしている。


 血管は出ている方だと思ったのに、3回も失敗された。


 血糖値が高いせいなんだろうか。


 そして、下がらなくてもいいのに、インシュリンを入れると血液中のカリウムが下がっていく。


 血液中の糖分と一緒に細胞の中に入ってしまうから。


 カリウムは筋肉の収縮に関与しているので、カリウムが低いと、筋肉が関連している症状を引き起こす。


 不整脈に痙攣に・・・ひどいと呼吸不全とか。


 まあ、良いことがないからインシュリンを入れながら体に補充してくれる。


 だいたいは点滴に塩化カリウムも入れる。


 カリウム自体は腎臓が大丈夫なら、尿ですぐに出てしまうのだけど、血液中のカリウムが高いと心臓の拍動がゆっくりになって、あまりに高いと心臓が止まってしまうこともある。


 高くても低くても良くない、それがカリウム。


 美容にはいいんだけど、医療現場では血管に直接入れるのは危ないし、腎臓が悪い人にも危ない。


 注意喚起のために溶液に黄色い色がついている。






 そして、自分の点滴も黄色い。


 カリウムがインされてる。


 ベッドの上で、ため息を吐いた。


 糖尿病宣告されて、入院して・・・・今日は疲れた。


 さっさと寝よう・・・。


 しかし、血糖値を1時間毎に計測するので、何回も起こされるだろう。


 でも、眠いから寝る。


 意地でも寝てやる。


 ・・・と思いきや。


 点滴されている手が痛い。


 腕が上がらない。なんなんだこれは・・・。


 点滴が黄色くなって、点滴回路も黄色くなるやいなや、痛くなったぞ。


 たまらず、ナースコール。


「どうしました?」


「腕が痛いんです。肩が上がらないくらい。点滴を途中で止められないですか」


「先生に確認してみます」


 看護師がベッドサイドに来た。


「すみません、その点滴は必要なものなので止められません」


「そうですか、もうちょっと我慢してみます」


 時間が経つと、少し楽になった気がした。


 鏡を見ると、唇が紫色だった。


 点滴・・・どうにかならないかな。


 点滴をじっと眺めていたら、あることに気づいた。


 黄色い色が沈殿してる・・・。


 看護師さん、混ざってないよ。そのまま、注射器でピッて入れて、持ってきたな。






 これは、原液が入ってるみたいなもんじゃないのか。


 濃さと体格によれば、心臓止まるんじゃないの?


 痛みの正体は、血管痛。点滴の濃さが濃かったから、血管に痛みを感じたらしい。


 これ、噂の医療ミスか。


 看護師さんが来た時に、伝えたら笑ってた。


 「ハッハッハッ」って。


 でも、色々考えてみたものの、腹は立たなかった。


 人に迷惑をかけているという罪悪感と、病気になった無力感でそんな気にはなれなかった。


 でも、これはインシデント書いたら?って言おうと思って、言わずに寝た。


 まあ、笑顔が素敵だったからいいか。


 その後も、血糖測定に来たんだろうけど、朝まで来たのか来なかったのか記憶にございません。

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