異世界転移治療録 神とゴブリンと病院の卵
2話 転職しよう
卒業後の勤務先は、地元を離れようと思わなかったので、地元の病院に就職した。
実家が楽だし、家事ができないし、実家バンザイ。
その頃は男性看護師は病棟で働きにくい慣習があって、透析室で働いていた。
昔は・・・というよりは入職した病院の院長がそういう考えだった。
「男の看護師は要らないんだよね。臨床工学技士持ってたら雇ってあげてもいいけど」
そんな風に言われたんだっけな。
50歳くらいのヒキガエルのような姿の院長先生が自分の人生に影響を与えたのか、とか思うとあんまり気分がよくない。
けれど、それが現実だ。臨床工学技士ってなんだよ、って思わせるきっかけまで与えてくれてる。
さすが、院長。さすが、ヒキガエル。人間に見えない。
院長は男は要らないみたいだったけど、その時の看護師長さんや事務長が採用の方へ持って行ってくれたようだ。
実際に働いてみて、透析室は閉鎖的で工場みたいなところがあった。腎臓が悪い人の血液を抜いて、きれいにして返すのだけど、その響きだけでもちょっと無機質で不気味なイメージがすると思う。
事実、マニアックな世界で、血液を抜いて戻しているだけというものにもかかわらず、複雑で異様なものにしか見えないだろう。
実際には全部が全部、無機質で患者をモノのように扱っているわけではないのだろうけど、業務としてやっているとそんな面も確かにあると感じた。
人工透析というのは腎臓が上手く働かない患者さんへ、その働きを代用をする治療法のことである。
透析は排尿の代わりをする。
でも、腎臓の代わりができるかというと不完全すぎるから、排尿の代わりをしてると思った方がいい。
週に3回の治療なので、腎臓に比べれば急激な物質の移動が起こるもので・・・全身に負担がかかる。
水分を抜くと血圧が変動するし、透析が終わり血液を回路から身体に返す時に、透析のスタッフがゆっくり返してくれないと、心臓がドキドキしてたまらない。点滴を急速でやっているようなものだ。
腎臓がやっているホルモンのことは人工透析で代わりができないから薬を入れてなんとかしようとする。
馴染みがない人には馴染みがないけれど、日本全国で33万人くらい透析患者はいて、糖尿病患者が増えたことで現在も透析患者人口は増加中。
自分が病院で働くまで、そんな人がいることをあまりに耳にしなかったから、国が隠しているのかとも思ったが、隠しているわけでもなく、日本全国に腎友会があったりしてそれなりだった。
治療の要はダイアライザーという筒。
筒に血液を通して、要らない老廃物や水分を除去して身体に戻すことで血液を浄化している。
細かい穴がたくさん空いている管が円柱状の筒の中に4千本から1万本くらい入っていて、その1本1本の管の中を血液が通っていく。
管の周りを透析液という血液の組成に似せた点滴の液が満たされて半透膜を隔てて血液中の物質と透析液の物質が移動し合う。
この浄化過程を最低でも3時間。多くの人は4時間続ける。
これを週に3回くらい繰り返すのがセオリーとなっている。
結局は人工透析は、全部の機能を100%代行するわけではなく最低限生きられるかな、というところのライン(4時間透析)を国が引っ張って、公費でまかなっている。
1人が1年間にかかる医療費は500万円前後。
総理大臣が田中角栄の時代に公費負担は決まり、透析を辞めること=命を絶つことであるため、国は辞めることができない。
世界で唯一の人工透析大国という名前は日本のためにあるのだと思う。
透析室の仕事内容はともかくとして、看護師という仕事は自分には人間関係を保つのが難しかった。
上司に気に入られるかどうかで、待遇も違った。
勤務も操作されて、一部のお気に入りのスタッフの都合だけが優先された。
勝手にルールを決めて、その人たちが嫌いな人には情報を流さないということもあった。
そういえば、ロッカーの中のものが全部出されていることもあった。
それに、重症患者ばかりを自分の担当する班に割り振られたこともあった。
一緒に働いていた人たちは、辞めたり他の部署に移動したり散っていった。
自分はその人たちの嫌いな人というフォルダに入ってしまったせいで、職場は苦痛に思うことが多かった。
ひょっとしたら、楽しいこともあったのかもしれない。
それでも、上司や同僚からの嫌がらせは、いくら楽しさで割っても薄まらない。濃縮した青汁を舌に塗りつけられたような思い出だ。
そんな時に、臨床工学技士が指定の学校を卒業すれば、1年で資格を取れることを知った。
厚生労働省・・・やるじゃないか。
思い立ったが吉日。きっとそうに違いない。
願書を取り寄せ、すぐに送った。
落ちるなんて微塵も思わなかった。
きっと、看護師という職業に疲れた自分への神様からの贈り物だと思った。
試験は面接と小論文。高校時代勉強した内容でどうにかなるな。
面接はまともに答えられれば、大丈夫なはず。
実家が楽だし、家事ができないし、実家バンザイ。
その頃は男性看護師は病棟で働きにくい慣習があって、透析室で働いていた。
昔は・・・というよりは入職した病院の院長がそういう考えだった。
「男の看護師は要らないんだよね。臨床工学技士持ってたら雇ってあげてもいいけど」
そんな風に言われたんだっけな。
50歳くらいのヒキガエルのような姿の院長先生が自分の人生に影響を与えたのか、とか思うとあんまり気分がよくない。
けれど、それが現実だ。臨床工学技士ってなんだよ、って思わせるきっかけまで与えてくれてる。
さすが、院長。さすが、ヒキガエル。人間に見えない。
院長は男は要らないみたいだったけど、その時の看護師長さんや事務長が採用の方へ持って行ってくれたようだ。
実際に働いてみて、透析室は閉鎖的で工場みたいなところがあった。腎臓が悪い人の血液を抜いて、きれいにして返すのだけど、その響きだけでもちょっと無機質で不気味なイメージがすると思う。
事実、マニアックな世界で、血液を抜いて戻しているだけというものにもかかわらず、複雑で異様なものにしか見えないだろう。
実際には全部が全部、無機質で患者をモノのように扱っているわけではないのだろうけど、業務としてやっているとそんな面も確かにあると感じた。
人工透析というのは腎臓が上手く働かない患者さんへ、その働きを代用をする治療法のことである。
透析は排尿の代わりをする。
でも、腎臓の代わりができるかというと不完全すぎるから、排尿の代わりをしてると思った方がいい。
週に3回の治療なので、腎臓に比べれば急激な物質の移動が起こるもので・・・全身に負担がかかる。
水分を抜くと血圧が変動するし、透析が終わり血液を回路から身体に返す時に、透析のスタッフがゆっくり返してくれないと、心臓がドキドキしてたまらない。点滴を急速でやっているようなものだ。
腎臓がやっているホルモンのことは人工透析で代わりができないから薬を入れてなんとかしようとする。
馴染みがない人には馴染みがないけれど、日本全国で33万人くらい透析患者はいて、糖尿病患者が増えたことで現在も透析患者人口は増加中。
自分が病院で働くまで、そんな人がいることをあまりに耳にしなかったから、国が隠しているのかとも思ったが、隠しているわけでもなく、日本全国に腎友会があったりしてそれなりだった。
治療の要はダイアライザーという筒。
筒に血液を通して、要らない老廃物や水分を除去して身体に戻すことで血液を浄化している。
細かい穴がたくさん空いている管が円柱状の筒の中に4千本から1万本くらい入っていて、その1本1本の管の中を血液が通っていく。
管の周りを透析液という血液の組成に似せた点滴の液が満たされて半透膜を隔てて血液中の物質と透析液の物質が移動し合う。
この浄化過程を最低でも3時間。多くの人は4時間続ける。
これを週に3回くらい繰り返すのがセオリーとなっている。
結局は人工透析は、全部の機能を100%代行するわけではなく最低限生きられるかな、というところのライン(4時間透析)を国が引っ張って、公費でまかなっている。
1人が1年間にかかる医療費は500万円前後。
総理大臣が田中角栄の時代に公費負担は決まり、透析を辞めること=命を絶つことであるため、国は辞めることができない。
世界で唯一の人工透析大国という名前は日本のためにあるのだと思う。
透析室の仕事内容はともかくとして、看護師という仕事は自分には人間関係を保つのが難しかった。
上司に気に入られるかどうかで、待遇も違った。
勤務も操作されて、一部のお気に入りのスタッフの都合だけが優先された。
勝手にルールを決めて、その人たちが嫌いな人には情報を流さないということもあった。
そういえば、ロッカーの中のものが全部出されていることもあった。
それに、重症患者ばかりを自分の担当する班に割り振られたこともあった。
一緒に働いていた人たちは、辞めたり他の部署に移動したり散っていった。
自分はその人たちの嫌いな人というフォルダに入ってしまったせいで、職場は苦痛に思うことが多かった。
ひょっとしたら、楽しいこともあったのかもしれない。
それでも、上司や同僚からの嫌がらせは、いくら楽しさで割っても薄まらない。濃縮した青汁を舌に塗りつけられたような思い出だ。
そんな時に、臨床工学技士が指定の学校を卒業すれば、1年で資格を取れることを知った。
厚生労働省・・・やるじゃないか。
思い立ったが吉日。きっとそうに違いない。
願書を取り寄せ、すぐに送った。
落ちるなんて微塵も思わなかった。
きっと、看護師という職業に疲れた自分への神様からの贈り物だと思った。
試験は面接と小論文。高校時代勉強した内容でどうにかなるな。
面接はまともに答えられれば、大丈夫なはず。
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