賢者(魔王)の転生無双は反則です!

雹白

例えチート賢者でも、やらかす時ぐらいあるものだ。

……【魔王】を倒した【賢者】ミトラ・ラーヴァナは倒れていた所を仲間に救出され人間の世界へと戻ってきた。

 そこから時は流れ、【魔王】を倒してから数ヶ月が経った。

「しかし……何で俺の中に魔王の『灯火』が入っているんだ?魔王が『灯火』を継承させることができるのは聞いていたが……。なぜ俺なんだ?」 

 ミトラは王城の自室にてふと思った。今彼は人間の英雄として王城に泊まっているのだ。

「別に何も支障は無いし良いんだが。宿敵の魂だけが自分の身に宿ってるというのはなぁ?」

 首をかしげる。流石に【魔王】を魔王たらしめていた『灯火』が失われた自分の灯火の代わりに入り込んでいるのは不可解なようである。

「しかも、そのせいで俺が魔族の政治まで行わなければならないし……」

 魔王の遺言で『我を倒した者に【魔王】の財宝と魔族の長の立場を譲渡する』というものがあったらしく、大戦が終わった後すぐに【魔王】の代わりにミトラが選ばれたのだ。

「次の人間界の王にも選ばれてしまったし……」

 【魔王】継承事件の一ヶ月程後、ちょうどその時周期的に行われる『選定の儀』が重なっていたのだ。

 人間界の長を決める『選定の儀』にて他と圧倒的な差をつけてミトラは王に選ばれてしまった。

 ちなみに来週には王になる予定だ。(ちなみに引退予定の王は隠居生活をエンジョイしようとすでにウキウキしている。)

「ハァ……」

 一人しかいない部屋で大きなため息をこぼす。
 
「本当に俺、政治とか分からないんだが……」

 そんな言葉とは裏腹にこの後彼は優れた政策を行っていくのだが、この時はただ王になることに憂鬱になっている少年である。

 一週間後、ミトラは同時に二つの王位に即位した。

 こうして最強の【賢者】もとい【勇者】でありながら【魔王】でもあるというチート存在が産み出されてしまったのである。





 そんな彼が通常の人間では務まらない激務に駆られること数年の時が経過した。

「もうムリだ……。休ませてくれ……。あの隠居ジジイを呼び出してくれ……」

 数年前の凛々しい姿はどこへやら。すっかり疲弊してクタクタになっていた。

「俺に許された休息といえば、一日一回の魔法構築くらいなものだ……。ハァァァァ……」

 ため息もよりダメ人間っぽく、だらしない長いものになっている。

 ただ、それでもかつて【賢者】と呼ばれた腕は落ちぶれていないようで、一日に一個構築される新たな魔法はミトラのみ扱えるオリジナル。
 
 しかもどれもが(本人は手抜き魔法と言っているが)世界の在り方に影響を与えるほどの大魔法である。 

 それほどの魔法を毎日作りだしてしまうとは……。流石チート。

「今日は転移魔法でも作るか……。触媒を使わないような……指を鳴らしただけで転移出来るような便利魔法を」

 ミトラの手元にある紙にミトラの手によって光の線が引かれていき、段々と魔法陣が形成されていく。

「お。意外と上手くいった。これは……時間も移動出来るのでは?」

 想像以上の魔法ができたようで王様は御満悦である様子。

「さて……試してみるか!」

 まるで新しい玩具で遊ぼうとする子供のような笑みを浮かべて(実際まだまだ若いのだが苦労人の雰囲気が年寄りっぽく彼を見せている)ミトラは魔法を発動させる。

 その時だった。彼の自室を眩い光が包んだのは。

「ッ!?何だ!?」

 予想だにしていなかった魔法の効果にミトラが困惑していると、プツンと彼の意識が途切れた。光は彼の意識を奪って消えていったのである。

 しかしながら、光が奪っていったのは彼の意識だけではなかったようで……。

 光が収まった後の部屋には【賢者】の姿は無かった。

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