夢奪われた劣等剣士は銀の姫の守護騎士となり悪徳貴族に叛逆する
終幕
二人は歌い続けた。やがて、極限まで溶け合った二人の想いは巨大な音の波へと変化し、辺り一帯を包み込んだ。
湖の黒い瘴気、《竜》の纏うどろりとした毒皮、歪められた生物たち、その全てが響き合う音の波に揺らめいて、あるべき姿を取り戻していった。
しかし、無情なことに彼らの上空には巨大な魔法陣が展開されていた。この地を侵す《竜》を駆除するために放たれた大魔法。
その陣から、徐々に火球が露出し、歌い続ける二人を呑み込もうとしていた。
「駄目だぁああああああああ!!」
エルドはそれを止めようと全身に雷をまとって、二人の上空へと奔った。そして、砲撃を阻止しようと全身の霊子を総動員させた。
相手は複数の魔導砲兵によって放たれた極大魔法、とてもエルド一人で止められるものではない。しかし、いまここで二人に撃たせるわけにはいかなかった。しかし――
「え……?」
上空に居たエルドを突如、飛竜が蹴落とした。
そして次の瞬間、無数の魔獣達が《竜》達を守ろうと盾となって寄り集まった。
(どう……して……?)
理由はわからなかった。
だが、彼らはためらいもなくその身を賭して、落下してくる火球を受け止めようとした。
次の瞬間、大きな爆発が彼らを呑み込んだ。そのあまりの威力に、辺りは爆煙に包まれていった。
*
やがて、晴れわたる煙の中、その腕に一人の娘を抱きかかえたローレンスの姿があった。
サザーランドの大地を汚染していたものは二人の紡ぐ音の波によって全て摘出され、湖の上空に固着し、黒く大きな球体へと変化していた。
「ローレンス、何とかなったみたいだね」
腕の中で眠るレアを無言で見つめるローレンスの元に、エルド達が駆け寄ってきた。
「ああ、あいつらが守ってくれたおかげでな」
眼下に広がっていたのは、サファイアのような輝きに満ちた美しい湖であった。
そして、あるべき姿を取り戻した水生魔獣は満足げな表情を浮かべて、湖を漂っていた。どうやら怪我は負っているものの、致命傷にはなっていなかったようだ。
「俺たちが発した歌声が盾となって、火球の威力を減衰させたみたいだ」
「でも、どういう原理だったんだろう。この地の汚染ごと元に戻すなんて」
「さあね。仮説は立てられるけど、それも無粋な話だ。そうだろう?」
ローレンスの言うとおりかもしれない。この現象に理屈をつけて分析するなど、無粋の極みだ。少なくとも今は。
「さてと」
エルドは宙から舞い降りてくる黒球を手に取った。それはエルドの身体には余るほどの大きさであったが、見た目に反してとても軽い、そんな不思議な物質であった。
「これはフェリクサイトだ……どうして?」
黒霧が集まって精製されたのは、魔導機の原料たるフェリクサイトであった。元来、その由来は分かっていなかったが、その秘密の一端が垣間見えたようだ。エルドはそれをそっと、地面に置いた。
「何故だ……何故、邪魔をした……?」
その時、エルド達の前に槍を構えた銀の髪の女が現れた。
それはアリシア達が魔導機工房の地下で対峙した女性であった。その身は傷だらけで息も絶え絶えといった様子だ。
「忌々しい簒奪者達、どこまでも私達の邪魔をしてくれる……」
「あなたは一体? それにその髪、そして……」
女は紅い眼を見開いてエルド達を睨みつけた。同じ様に燃え上がる、エルドの紅い瞳がその視線をしっかりと捉えた。
「フィーンド……」
かつてこの一帯を蹂躙した蛮族がそこに立っていた。人智を超えた美貌と、霊子を持つ、魔神に最も近い存在だ。
「黙りなさい。私達をそのような汚れた名で呼ぶなど許しません」
フィーンドの女は凛とした声でそう叫ぶと、槍の先をエルドに向けた。
「あなた方が最近、噂になっている、王女とその一派ですね。どうやらあなた方は私達の道を阻む存在のようです」
女はゆっくりと闘気を発した。それは大地を揺らし、湖面をざわつかせるほどに強大なものであった。
「くっ……」
エルドは全身の皮膚がひりつく心地がした。その力は、アルスターで対峙したフィーンドの青年・ジークハルト以上であった。
当然、今のエルドとの実力差は明らかだ。しかし、それでもエルドは剣を構えて応戦の構えを見せる。
だが次の瞬間、女に向かって黒刃が放たれた。
「っ!?」
かろうじて女はそれを躱すが、次の瞬間、まるでエルド達から引き離すように、無数の黒刃が飛来し、空を斬り裂いていった。
女はそれらを全て躱していくが、やがて傷が痛みだしたのか、腹部を押さえた。
「誰かは分かりませんが、相当な実力者のようですね。この傷では分が悪い……」
女は腹部を押さえながら、槍をしまった。
「私の名はエルフリーデ、アルヴァーンの民にして、あなた方、簒奪者に仇なす者」
律儀に女が名を名乗った。
「アルヴァーンの民? それがあなた達の名なのか?」
しかし、エルフリーデはそれには答えず、ゆっくりと口を開いた。
「今はその石、預けておきましょう。ですが、いずれ貰い受けます。我らが悲願のために」
そう言って彼女は、自らを粒子化させるとどこかへと転移していった。
湖の黒い瘴気、《竜》の纏うどろりとした毒皮、歪められた生物たち、その全てが響き合う音の波に揺らめいて、あるべき姿を取り戻していった。
しかし、無情なことに彼らの上空には巨大な魔法陣が展開されていた。この地を侵す《竜》を駆除するために放たれた大魔法。
その陣から、徐々に火球が露出し、歌い続ける二人を呑み込もうとしていた。
「駄目だぁああああああああ!!」
エルドはそれを止めようと全身に雷をまとって、二人の上空へと奔った。そして、砲撃を阻止しようと全身の霊子を総動員させた。
相手は複数の魔導砲兵によって放たれた極大魔法、とてもエルド一人で止められるものではない。しかし、いまここで二人に撃たせるわけにはいかなかった。しかし――
「え……?」
上空に居たエルドを突如、飛竜が蹴落とした。
そして次の瞬間、無数の魔獣達が《竜》達を守ろうと盾となって寄り集まった。
(どう……して……?)
理由はわからなかった。
だが、彼らはためらいもなくその身を賭して、落下してくる火球を受け止めようとした。
次の瞬間、大きな爆発が彼らを呑み込んだ。そのあまりの威力に、辺りは爆煙に包まれていった。
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やがて、晴れわたる煙の中、その腕に一人の娘を抱きかかえたローレンスの姿があった。
サザーランドの大地を汚染していたものは二人の紡ぐ音の波によって全て摘出され、湖の上空に固着し、黒く大きな球体へと変化していた。
「ローレンス、何とかなったみたいだね」
腕の中で眠るレアを無言で見つめるローレンスの元に、エルド達が駆け寄ってきた。
「ああ、あいつらが守ってくれたおかげでな」
眼下に広がっていたのは、サファイアのような輝きに満ちた美しい湖であった。
そして、あるべき姿を取り戻した水生魔獣は満足げな表情を浮かべて、湖を漂っていた。どうやら怪我は負っているものの、致命傷にはなっていなかったようだ。
「俺たちが発した歌声が盾となって、火球の威力を減衰させたみたいだ」
「でも、どういう原理だったんだろう。この地の汚染ごと元に戻すなんて」
「さあね。仮説は立てられるけど、それも無粋な話だ。そうだろう?」
ローレンスの言うとおりかもしれない。この現象に理屈をつけて分析するなど、無粋の極みだ。少なくとも今は。
「さてと」
エルドは宙から舞い降りてくる黒球を手に取った。それはエルドの身体には余るほどの大きさであったが、見た目に反してとても軽い、そんな不思議な物質であった。
「これはフェリクサイトだ……どうして?」
黒霧が集まって精製されたのは、魔導機の原料たるフェリクサイトであった。元来、その由来は分かっていなかったが、その秘密の一端が垣間見えたようだ。エルドはそれをそっと、地面に置いた。
「何故だ……何故、邪魔をした……?」
その時、エルド達の前に槍を構えた銀の髪の女が現れた。
それはアリシア達が魔導機工房の地下で対峙した女性であった。その身は傷だらけで息も絶え絶えといった様子だ。
「忌々しい簒奪者達、どこまでも私達の邪魔をしてくれる……」
「あなたは一体? それにその髪、そして……」
女は紅い眼を見開いてエルド達を睨みつけた。同じ様に燃え上がる、エルドの紅い瞳がその視線をしっかりと捉えた。
「フィーンド……」
かつてこの一帯を蹂躙した蛮族がそこに立っていた。人智を超えた美貌と、霊子を持つ、魔神に最も近い存在だ。
「黙りなさい。私達をそのような汚れた名で呼ぶなど許しません」
フィーンドの女は凛とした声でそう叫ぶと、槍の先をエルドに向けた。
「あなた方が最近、噂になっている、王女とその一派ですね。どうやらあなた方は私達の道を阻む存在のようです」
女はゆっくりと闘気を発した。それは大地を揺らし、湖面をざわつかせるほどに強大なものであった。
「くっ……」
エルドは全身の皮膚がひりつく心地がした。その力は、アルスターで対峙したフィーンドの青年・ジークハルト以上であった。
当然、今のエルドとの実力差は明らかだ。しかし、それでもエルドは剣を構えて応戦の構えを見せる。
だが次の瞬間、女に向かって黒刃が放たれた。
「っ!?」
かろうじて女はそれを躱すが、次の瞬間、まるでエルド達から引き離すように、無数の黒刃が飛来し、空を斬り裂いていった。
女はそれらを全て躱していくが、やがて傷が痛みだしたのか、腹部を押さえた。
「誰かは分かりませんが、相当な実力者のようですね。この傷では分が悪い……」
女は腹部を押さえながら、槍をしまった。
「私の名はエルフリーデ、アルヴァーンの民にして、あなた方、簒奪者に仇なす者」
律儀に女が名を名乗った。
「アルヴァーンの民? それがあなた達の名なのか?」
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