夢奪われた劣等剣士は銀の姫の守護騎士となり悪徳貴族に叛逆する
旋律の辿り着く先
(はは、相変わらず、やることが突飛だね)
響き合う歌声の中、娘の記憶を垣間見たローレンスは心の中でそっと呟いた。いくらこの自然を愛しているとはいえ、自分の身を捧げるなど簡単にできることではない。
(仕方ないでしょう? 誰かがこうしないと)
すると娘の声が返ってきた。それは二人の歌声が、お互いの心を繋げた証であった。
だが、二人は驚きはしなかった。きっとこうなるだろうと分かっていたからだ。
(その誰かがってとこで、普通の人は自分をカウントしないんだよ)
(何それ? 自分たちのことなのに)
(そう考えられるのが、レアの良いところだよ。とても普通の人じゃ真似できない)
(あの……もしかして、私バカにされてる?)
(いや、とびきり褒めてるんだよ)
(そ、そう……)
レアが赤面した。無論、その姿を見ているわけではないのだが、照れているであろうことは容易にわかった。彼女は感情の表現がストレートでわかりやすいのだ。
(でも、あなたも無茶するんだから。《竜》相手に悠長に歌を歌うなんて)
(約束だったからね。もう一度この場所で一緒に歌おうって)
(だからって、今じゃないでしょう? まったく、しばらく見ないうちに随分と抜けた感じになったんだから)
(君と一緒に過ごしたから、カドが取れたんだよ。今の俺は嫌い?)
(ううん、昔よりずっと柔らかくて、好きよ)
(俺もだよ、レア。君と初めて出会ったあの時から、君のことが好きだった)
(ロ、ローレンス……?)
レアは動揺した。
二人の発した『好き』という言葉、その響きの中に大きな違いがあったこと、いくら鈍感なレアでも気付かないわけがなかった。
(だ、駄目だよ。あなたは大貴族の息子なんだから、私なんかに構ってちゃ)
動揺したレアは素直にその言葉が受け入れられず、取ってつけたような理由を漏らしてしまった。
(十年前、俺の心を丸裸にした君からそんな一般論、聞きたくなかったよ。あ、それとも、俺の告白を断る理由、それしか無いってことかな?)
(ば、ばか!! それに、それだけじゃない……私、今酷い姿してるんだもん)
レアは悲痛な声でそう言った。いくら覚悟を決めていても、まだ年若い娘である。すっかり変わってしまった自身の容貌に思うところがないはずがなかった。
(普通の変異だったら、すぐ戻れたかもしれないけど、私は瘴気を吸い込みすぎたの。だから、存在そのものが作り変えられて、理を外れちゃった……)
(俺がそんなことを気にすると思った?)
だが、その程度の断り文句、今のローレンスには欠片も通用しなかった。
(ほ、本気なの!? 爬虫類フェチなの?)
(君と乗った風船トカゲの感触が今でも忘れられないんだ)
(へ、変態よ! まさかこの十年で性癖まで歪むなんて……)
(でも、そうだな。そんなに気になるなら、今から君の姿を元に戻そう)
(え……?)
ローレンスが突拍子のない提案をした。それが不可能であることは、レア自身がよく知っていた。
大量の瘴気を吸い上げた時に感じた、自分の身が引き裂かれるような心地、この世界の理から外れていく喪失感、それが容易なことでどうにかできるとは思えなかった。
(ありがと、気休めでも嬉しい。でも、それは――)
(はぁ……)
その時、ローレンスが大きな溜め息を吐いた。
(な、何?)
(まさか、知らなかったの?)
その時、現実のローレンスが一歩前へ踏み出した。
先程よりも精一杯の空気と想いを溜め込んだ。まるで歌声をこの世の果てまで届かせようとするかのように。
そして想いを増したローレンスの歌声は、レアの歌声と一層深く溶け合い、やがて《竜》の全身を包み込んだ。
(音楽は"奇跡"だって起こせるんだ)
響き合う歌声の中、娘の記憶を垣間見たローレンスは心の中でそっと呟いた。いくらこの自然を愛しているとはいえ、自分の身を捧げるなど簡単にできることではない。
(仕方ないでしょう? 誰かがこうしないと)
すると娘の声が返ってきた。それは二人の歌声が、お互いの心を繋げた証であった。
だが、二人は驚きはしなかった。きっとこうなるだろうと分かっていたからだ。
(その誰かがってとこで、普通の人は自分をカウントしないんだよ)
(何それ? 自分たちのことなのに)
(そう考えられるのが、レアの良いところだよ。とても普通の人じゃ真似できない)
(あの……もしかして、私バカにされてる?)
(いや、とびきり褒めてるんだよ)
(そ、そう……)
レアが赤面した。無論、その姿を見ているわけではないのだが、照れているであろうことは容易にわかった。彼女は感情の表現がストレートでわかりやすいのだ。
(でも、あなたも無茶するんだから。《竜》相手に悠長に歌を歌うなんて)
(約束だったからね。もう一度この場所で一緒に歌おうって)
(だからって、今じゃないでしょう? まったく、しばらく見ないうちに随分と抜けた感じになったんだから)
(君と一緒に過ごしたから、カドが取れたんだよ。今の俺は嫌い?)
(ううん、昔よりずっと柔らかくて、好きよ)
(俺もだよ、レア。君と初めて出会ったあの時から、君のことが好きだった)
(ロ、ローレンス……?)
レアは動揺した。
二人の発した『好き』という言葉、その響きの中に大きな違いがあったこと、いくら鈍感なレアでも気付かないわけがなかった。
(だ、駄目だよ。あなたは大貴族の息子なんだから、私なんかに構ってちゃ)
動揺したレアは素直にその言葉が受け入れられず、取ってつけたような理由を漏らしてしまった。
(十年前、俺の心を丸裸にした君からそんな一般論、聞きたくなかったよ。あ、それとも、俺の告白を断る理由、それしか無いってことかな?)
(ば、ばか!! それに、それだけじゃない……私、今酷い姿してるんだもん)
レアは悲痛な声でそう言った。いくら覚悟を決めていても、まだ年若い娘である。すっかり変わってしまった自身の容貌に思うところがないはずがなかった。
(普通の変異だったら、すぐ戻れたかもしれないけど、私は瘴気を吸い込みすぎたの。だから、存在そのものが作り変えられて、理を外れちゃった……)
(俺がそんなことを気にすると思った?)
だが、その程度の断り文句、今のローレンスには欠片も通用しなかった。
(ほ、本気なの!? 爬虫類フェチなの?)
(君と乗った風船トカゲの感触が今でも忘れられないんだ)
(へ、変態よ! まさかこの十年で性癖まで歪むなんて……)
(でも、そうだな。そんなに気になるなら、今から君の姿を元に戻そう)
(え……?)
ローレンスが突拍子のない提案をした。それが不可能であることは、レア自身がよく知っていた。
大量の瘴気を吸い上げた時に感じた、自分の身が引き裂かれるような心地、この世界の理から外れていく喪失感、それが容易なことでどうにかできるとは思えなかった。
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