夢奪われた劣等剣士は銀の姫の守護騎士となり悪徳貴族に叛逆する
《竜》の歌声
紅蓮の劫火が《竜》の全身を包み込んだ。
火はその身に絡みつくと、天を衝くほどの火柱となり、《竜》を焼き尽くさんばかりに燃え上がっていた。
やがてパリンという音が鳴り響き、火が鎮火すると、中から《竜》の姿が確認された。どうやら結界は完全に破壊されたようだ。
守りを失った《竜》は首を垂れてその場にうずくまるような姿勢をとった。マグマのようにコポコポと膨れ上がった毒皮も、ところどころ禿げ上がり、中の肉が剥き出しになっていた。
「よし、かかれ!!」
自分たちの戦術が通用したことに高揚したのか、兵たちは更なる追撃を開始した。
「まずい……!!」
その様子を見てローレンスは何か焦った様子を見せていた。しかし、それでいてどうすれば良いか決めあぐねているような、そんな逡巡が感じ取れた。
「ローレンス、どうかしたの?」
「あ、ああ……」
ローレンスはただ歯切れの悪い返事を返すことしか出来なかった。
*
兵たちは先程のように巧みな連携を伺いながら《竜》に攻撃を加えていた。
しかし、その猛攻に対して、《竜》はただひたすらにじっと耐えるかのように、その場にうずくまり続けていた。
「何だこいつ。全然反撃してこないな」
兵たちはその事に勝機を感じ、更に攻撃を加えていった。
しかし、うずくまる《竜》はその痛みに耐えかねたのか、一瞬その身をぶるっと震わせた。
「な、なんだ?」
兵たちはその挙動に危機感を抱いた。そして、次の瞬間、《竜》はその長い首を天に向ける仕草を見せた。
*
「またあの"声"が来る! 気をつけて、ローレンス」
エルドは咄嗟に耳を塞いだ。
先程も聞いた、はらわたを掴み上げるかのような不快な"声"、それをもう一度直接聞いて、耐えられる自信はなかった。
「いや、これを待っていた」
ローレンスは背の槍を手に取ると、目の前で回転させてシャボンの様な薄膜を展開した。するとそれは、形を変え、防壁のようにエルド達を包み込んだ。
それは何かを防ぐにはあまりにも頼りない、弱々しい膜であった。
「エルド、俺を信じて耳をふさぐのを一旦やめてくれないか?」
「急に何を……」
「頼む」
いつもふざけたようなローレンスが真剣な表情で訴えてきた。そのことに何か感じ入ったのか、エルドはローレンスの言葉に従い、腕を下ろした。
一方、首を天に捧げた《竜》はゆっくりとその口を開いた。
「Lu……Gahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!」
次の瞬間、冒涜的で不快な声が吐き散らされた。
脳裏を突き刺すような不快感、心臓を握りつぶすような圧迫感、兵たちはその恐怖と不快の奔流に呑まれて、一斉に得物を落としてうずくまった。
そしてそれは、天地を震わせるほどの振動を伝えながら、エルドたちを包む膜へも迫った。しかし――
「La――♪」
冒涜的な声がエルド達の耳に届くことはなかった。
「これは……歌声?」
間違いなくその音が、《竜》より発せられたものだということはわかった。しかし、その耳に入ってきたのは美しい旋律によって紡がれた歌声であった。
異形の化け物が発した音だというのに、それは聞く者の心を震わせ、何か得体の知れない情動を自然と湧き立たせるほどに優しく情感の籠もった歌声であった。
そしてそれをしっかりと聴き込むように、ローレンスはゆっくりと瞳を閉じた。
「やっぱりレアだったんだね」
ローレンスがそっと呟いた。
「レア?」
耳慣れない名前にエルドが聞き返した。
「俺に初めて出来た友達だ。そして音楽の師で……大切な人だった。彼女と会ったのは十年近く前だけど、この十年、片時もその歌声を忘れたことはなかった。間違いない。あの《竜》はレアが変異したものだ」
火はその身に絡みつくと、天を衝くほどの火柱となり、《竜》を焼き尽くさんばかりに燃え上がっていた。
やがてパリンという音が鳴り響き、火が鎮火すると、中から《竜》の姿が確認された。どうやら結界は完全に破壊されたようだ。
守りを失った《竜》は首を垂れてその場にうずくまるような姿勢をとった。マグマのようにコポコポと膨れ上がった毒皮も、ところどころ禿げ上がり、中の肉が剥き出しになっていた。
「よし、かかれ!!」
自分たちの戦術が通用したことに高揚したのか、兵たちは更なる追撃を開始した。
「まずい……!!」
その様子を見てローレンスは何か焦った様子を見せていた。しかし、それでいてどうすれば良いか決めあぐねているような、そんな逡巡が感じ取れた。
「ローレンス、どうかしたの?」
「あ、ああ……」
ローレンスはただ歯切れの悪い返事を返すことしか出来なかった。
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兵たちは先程のように巧みな連携を伺いながら《竜》に攻撃を加えていた。
しかし、その猛攻に対して、《竜》はただひたすらにじっと耐えるかのように、その場にうずくまり続けていた。
「何だこいつ。全然反撃してこないな」
兵たちはその事に勝機を感じ、更に攻撃を加えていった。
しかし、うずくまる《竜》はその痛みに耐えかねたのか、一瞬その身をぶるっと震わせた。
「な、なんだ?」
兵たちはその挙動に危機感を抱いた。そして、次の瞬間、《竜》はその長い首を天に向ける仕草を見せた。
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「またあの"声"が来る! 気をつけて、ローレンス」
エルドは咄嗟に耳を塞いだ。
先程も聞いた、はらわたを掴み上げるかのような不快な"声"、それをもう一度直接聞いて、耐えられる自信はなかった。
「いや、これを待っていた」
ローレンスは背の槍を手に取ると、目の前で回転させてシャボンの様な薄膜を展開した。するとそれは、形を変え、防壁のようにエルド達を包み込んだ。
それは何かを防ぐにはあまりにも頼りない、弱々しい膜であった。
「エルド、俺を信じて耳をふさぐのを一旦やめてくれないか?」
「急に何を……」
「頼む」
いつもふざけたようなローレンスが真剣な表情で訴えてきた。そのことに何か感じ入ったのか、エルドはローレンスの言葉に従い、腕を下ろした。
一方、首を天に捧げた《竜》はゆっくりとその口を開いた。
「Lu……Gahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!」
次の瞬間、冒涜的で不快な声が吐き散らされた。
脳裏を突き刺すような不快感、心臓を握りつぶすような圧迫感、兵たちはその恐怖と不快の奔流に呑まれて、一斉に得物を落としてうずくまった。
そしてそれは、天地を震わせるほどの振動を伝えながら、エルドたちを包む膜へも迫った。しかし――
「La――♪」
冒涜的な声がエルド達の耳に届くことはなかった。
「これは……歌声?」
間違いなくその音が、《竜》より発せられたものだということはわかった。しかし、その耳に入ってきたのは美しい旋律によって紡がれた歌声であった。
異形の化け物が発した音だというのに、それは聞く者の心を震わせ、何か得体の知れない情動を自然と湧き立たせるほどに優しく情感の籠もった歌声であった。
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