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夢奪われた劣等剣士は銀の姫の守護騎士となり悪徳貴族に叛逆する

水都 蓮

白日の下に

 ジャファルとの決戦から約一ヶ月が経過した。
 鉄道の竣工式の前日であるが、アーケード街では、イシュメル人の起こした事件による犠牲者の追悼式、及び今回の事件に関する発表が執り行われていた。


 そして今、そこでは逃亡したロージアンが引きずり出され、彼の陰謀の全てが語られていた。


「皆様はどう思われるでしょうか? 確かにイシュメル人達が蛮行を引き起こしたのは事実。ですが、何が彼らをそこまで追い詰めたのかは明白です。戦争では我らの盾として奮戦し、国の発展にも尽くしたというのに、崇拝する水源は汚染され、ようやく得た土地も取り上げられようとする。そして、挙句の果てには私欲に狂った者によって火をかけられる。その様な行いが許されるのでしょうか? 真に悪しき者は誰でしょうか?」


 聴衆の誰かが「ロージアンだ!!」と叫ぶと、周りのものも一斉に彼への糾弾を始めた。そして、その怒りはやがて貴族たちへと向き始めた。










「よろしいのですか、エインズワース卿」


 その様子を見て、貴族派筆頭の右腕たるウェインライトが耳打ちをした。


「良いではないか。見事、哀れなロージアンの陰謀を暴いたのだ。称賛こそすれ、それを止める理由などあるはずがない」


 しかし余裕を見せるエインズワースに反して、列席の貴族派は民衆とアリシアの言動に怒りや焦り、危機感を覚えていた。


「それにしても醜いことよ。彼らにとって、殿下の動きは目の上のこぶそのもの。その焦燥も裏を返せば彼ら自身の悪行の証でもある」


「それを知りながら放って置かれると?」


「こうして殿下が精力的に動かれているのだ。今はただ成り行きを見守ることとしよう」


 ウェインライトは正直、エインズワースの真意を測りかねていた。彼自身、王位を継ぐという目的を持っているというのに、アリシアが自分の意志でこの国の腐敗と戦うことを宣言してからは、傍観者に徹することが多いのだ。


「私は別に宜しいのですが、貴族派の面々がどう出るか」


「それも含めて今後の動向を楽しみにさせてもらおう」


 エインズワースはそう言うと、聴衆の怒号を聞きながら、楽しげな笑みを浮かべ続けていた。










「ですが一方で、この様な仕打ちを受けながら、それでもなおこの国の為に尽力してくださった方々が居ます」


 アリシアの上部に青白い映像が投影された。それは、獣化したイシュメル人達を止めようと、討伐隊と協力するイシュメル人たちの映像であった。


「先日発刊された、日刊アルスター新聞でご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、今回の事件に心を痛めた多くのイシュメル人達は一度置いた武器を手にしました。そして、暴走する同胞たちを止めようと立ち上がってくださったのです」


 誰が潜んでいたのか、あの戦場にて、とある記者がその一部始終を魔導写真機で撮影していた。そして今映されているのは、先日アルスター通信社に届けられたものの一部であった。


「ですが現在、議会では彼らの国外追放が議論されています。この国の危機に立ち上がった者も含めて全てです。そしてそれを報道しようとする者には圧力が掛けられている始末、果たしてこれは正しいことなのでしょうか?」


 だがその口止めもアリシアに通じはしない。現在、議会で行われていることをアリシアは包み隠さず明らかにした。


「無論、あの事件の被害に遭われた方、大切な人を亡くした方に全てを許せとは言いません。言えません。ですが、彼ら全てを追放することが本当に我々の採るべき選択肢なのか、皆様自身で考えていただければ幸いです。以上をもって、今回の一連の事件に関する説明といたします。ご清聴ありがとうございました」


 アリシアは頭を下げる。すると拍手が巻き起こった。


 一方、列席の貴族達の中には、拍手をしながらも苦々しげな表情を浮かべる者も大勢居た。無論、聴衆の中にも複雑な表情を浮かべる者は少なくない。


 アリシアの行いは急進的であった。一人の貴族を公衆の面前に引きずり出し、その罪を告白させる。脛に傷を持つ者にとっては、彼女の存在と行動は看過できるものではなかった。


 しかし是非はともかく、長く覆い隠されてきた貴族の腐敗の一つがこうして白日のもとに晒された。そして彼によって煽動された民の怒りも、真実とイシュメル人の忠節が明かされたことで、ある程度収束へと向かっていく兆しを見せたのも事実である。






 かくしてアリシアの王女として出来うる範囲の行動によって、水源の汚染に端を発した公都の騒動は終結した。
 今後、イシュメル人にどの様な沙汰が下されるかは、議会と司法の動き次第であるが、少なくとも血で血を洗う内紛を避けることには成功した。


 アリシアは自身の力不足を感じながらも、ひとまず式を終えたことに胸を撫で下ろしながら、壇上を後にした。

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