夢奪われた劣等剣士は銀の姫の守護騎士となり悪徳貴族に叛逆する
決着
ジャファルは限界を迎えていてた。エルドとカイムが合わせ放った一撃、その防御に霊子を総動員したことでその殆どを枯渇させていた。
それでもジャファルはその限界を感じさせることも無く、微かに残った霊子を振り絞りながらカイムの剣を捌いていた。
「どうした? 中年相手ならと息巻いていたのは口先だけだったのか?」
実際に戦場を経験し、幾度も命を危険に晒しただけあって、ジャファルの読みは正確であった。
カイムの得意とする、手数を増やし、トリッキーな機動で相手の死角から攻めて回るという戦法は、ことごとく見切られ、有効な一撃を与えられずにいた。
「こっちもまだ様子見だ」
だが霊子尽き果てたジャファルとは異なり、カイムは負傷らしい負傷はしていなかった。
カイムは身体を巡る霊子量を徐々に増やしながらスピードを上げていく。
エルドほどの剣の腕はないが、在学中は常にエルドと腕を競い、その剣技を追って腕を磨いていただけあり、そのスピードから放たれる縦横無尽な斬撃は一発一発が重く、やがてジャファルは防戦一方となる。
「くっ」
「どうした? もうバテたのか、おっさん?」
カイムはひとしきり剣を打ち付けると逆袈裟にジャファルの剣を払うと、返した剣でその空いた胴を袈裟に斬りつけた。
「がはっ……」
もはや防御に回す霊子も突きかけているのか、カイムの斬撃をまともに食らったジャファルは剣を杖にしてよろめいた。
「どうした? 俺を殺すんじゃなかったのか?」
「…………」
ジャファルは無言でカイムを睨みつけた。対してカイムはその視線を意にも介さず、切っ先でジャファルの顎を持ち上げた。
「なんて、情けない面だ。何が孤狼だ。気取りやがって」
「っ!!」
ジャファルは気力を振り絞って剣を振るう。しかし、カイムは後方に跳躍してたやすくそれを躱す。
「だが今の情けない姿を見りゃ納得だぜ。あんたにはあの水精は守れない」
「まだ言うか……」
「ああ、何度だってな。結局あんたは逃げたんだ。あの娘が大事ならなんで側で守ってやらない? こんなところで何で復讐ごっこなんてやってるんだ?」
「話を聞いてなかったのか? ライラを守るにはこの国が団結しなければならんのだ」
「大げさな思想で誤魔化すなよ。あんたはただ自分で娘を守る自信がなくなっただけだろう? だから守ってくれる存在を他に求めたんだ。フィリアやイシュメル人、この国、そういった自分以外の何かにな」
「…………」
ジャファルは何も言い返さなかった。いや、言い返せなかった。だが、なおもカイムは挑発することを止めない。
「だがよ、他人に任せられるぐらいだ。あんたの中の、あの娘の価値はその程度のもんだったんだろ?」
しかしその言葉が発せられた時、周囲の温度が一気に下がったような心地がした。
そして、背筋を這うような悪寒がカイムを襲ったかと思うと、次の瞬間には天を衝くほどに巨大な水柱がカイムに叩きつけられていた。
「!!」
咄嗟に風を鎧のようにまとって防御の構えを取る。しかし、その防御も虚しく、カイムはまるで川を流れる小枝のように圧倒的な奔流に呑み込まれてしまった。
「さっきから聞いてればべらべらと。てめえに言われなくても逃げてることなんて分かってんだよ。それを俺より二回りも下の小僧が偉そうに説教垂れるんじゃねえ」
もはやどこにその様な力が残ってたのか、ジャファルは声を荒げると、苛立ちと共に渾身の一撃を叩きつけた。
奔流に呑まれたカイムは岩壁まで押し流され、思い切り背を打ち付けた。
「かはっ……」
その衝撃にカイムは血を吐く。
「ハッ、くそ……まだ力残ってんじゃねえか。エルドのやつ、ちゃんと削っておけよ……」
勝手な理屈で愚痴るとカイムはゆっくりと立ち上がる。しかし、まともに食らったせいか足元はガクガクとふらついていた。
それを見てジャファルが口を開く。
「お前こそ随分としぶといな。まるでゴキブリ並の生命力だ」
「黙れ。すっかり元気になりやがって、老体が無理しちゃ怪我の元だぜ」
「ふん。無理をしなきゃライラを守れんからな。お前みたいなクソ野郎が居るんだ。この国に娘は任せてられない」
「けっ、親馬鹿が」
両者は改めて剣を構える。互いに残された力はわずか、あと一撃放つのが限界だろう。静かに息を整え、お互いに相手の姿を見据える。
永遠とも思える静寂の後、両者は前傾の体勢を取ると同時に地を蹴り放った。
地に倒れ伏したのはカイムであった。愛用の剣は砕け、胸に大きな斬撃を喰らい、もはや立ち上がる力は残っていなかった。
「やりゃ出来るじゃねえかおっさん。こんなくだらねえことしてねえで、最初からその力で娘を守ってやりゃよかったんだ」
大の字に倒れ込んだ無様な姿でカイムは告げた。
「黙ってろ。くそっ、俺も完全に膝に来てるな」
続いてジャファルがガクリと膝を落とし、その場にへたり込む。
「だが、まだ姫殿下と真紅の美姫が残ってるか。こりゃどうにもならねえな」
そう言ってジャファルは剣を手放し、やがて倒れ込んだ。
「叔父様、カイム!!」
何とか動けるように回復したフィリアが駆け寄ってきた。
「まったく、あんな子供みたいな挑発で叔父様の目を覚まさせようだなんて……それにまんまと応じる叔父様もほんと子供なんだから……」
「ええ、私達にはわからない世界なのかもしれません」
やや呆れたような表情を浮かべながら、アリシアは二人に回復魔法を掛ける。
「さてジャファル、あなたを国家の転覆を図った容疑で拘束する。色々と言いたいことはあるだろうが、まずはおとなしく捕まってほしい」
そう言って、フレイヤはジャファルの拘束を始める。
「当然の対処だ。この場で首を刎ねられないだけありがたい」
ジャファルは抵抗を見せず素直に応じていた。すると身体から靄のようなものが抜けていき、やがてその魔神化も解けた。以前、獣化したイシュメル人のように身体が干からびることはなかった。
「ジャファルさん、私は必ず今回の事件の真相を白日のもとに晒します。イシュメルの方たちが今後どうなるか、私には保証できませんが可能な限り手を尽くすつもりですから……」
「……ありがとうございます、殿下」
ボソリとジャファルが呟いた。
こうして一連の騒動は、イシュメル人の反抗勢力の首謀者であるジャファルの拘束によって一応の決着を見せた。残りの反抗勢力もやがて目を覚ました兵たちにより拘束され、双方の被害は最小限に抑えられたと言ってよかった。
それでもジャファルはその限界を感じさせることも無く、微かに残った霊子を振り絞りながらカイムの剣を捌いていた。
「どうした? 中年相手ならと息巻いていたのは口先だけだったのか?」
実際に戦場を経験し、幾度も命を危険に晒しただけあって、ジャファルの読みは正確であった。
カイムの得意とする、手数を増やし、トリッキーな機動で相手の死角から攻めて回るという戦法は、ことごとく見切られ、有効な一撃を与えられずにいた。
「こっちもまだ様子見だ」
だが霊子尽き果てたジャファルとは異なり、カイムは負傷らしい負傷はしていなかった。
カイムは身体を巡る霊子量を徐々に増やしながらスピードを上げていく。
エルドほどの剣の腕はないが、在学中は常にエルドと腕を競い、その剣技を追って腕を磨いていただけあり、そのスピードから放たれる縦横無尽な斬撃は一発一発が重く、やがてジャファルは防戦一方となる。
「くっ」
「どうした? もうバテたのか、おっさん?」
カイムはひとしきり剣を打ち付けると逆袈裟にジャファルの剣を払うと、返した剣でその空いた胴を袈裟に斬りつけた。
「がはっ……」
もはや防御に回す霊子も突きかけているのか、カイムの斬撃をまともに食らったジャファルは剣を杖にしてよろめいた。
「どうした? 俺を殺すんじゃなかったのか?」
「…………」
ジャファルは無言でカイムを睨みつけた。対してカイムはその視線を意にも介さず、切っ先でジャファルの顎を持ち上げた。
「なんて、情けない面だ。何が孤狼だ。気取りやがって」
「っ!!」
ジャファルは気力を振り絞って剣を振るう。しかし、カイムは後方に跳躍してたやすくそれを躱す。
「だが今の情けない姿を見りゃ納得だぜ。あんたにはあの水精は守れない」
「まだ言うか……」
「ああ、何度だってな。結局あんたは逃げたんだ。あの娘が大事ならなんで側で守ってやらない? こんなところで何で復讐ごっこなんてやってるんだ?」
「話を聞いてなかったのか? ライラを守るにはこの国が団結しなければならんのだ」
「大げさな思想で誤魔化すなよ。あんたはただ自分で娘を守る自信がなくなっただけだろう? だから守ってくれる存在を他に求めたんだ。フィリアやイシュメル人、この国、そういった自分以外の何かにな」
「…………」
ジャファルは何も言い返さなかった。いや、言い返せなかった。だが、なおもカイムは挑発することを止めない。
「だがよ、他人に任せられるぐらいだ。あんたの中の、あの娘の価値はその程度のもんだったんだろ?」
しかしその言葉が発せられた時、周囲の温度が一気に下がったような心地がした。
そして、背筋を這うような悪寒がカイムを襲ったかと思うと、次の瞬間には天を衝くほどに巨大な水柱がカイムに叩きつけられていた。
「!!」
咄嗟に風を鎧のようにまとって防御の構えを取る。しかし、その防御も虚しく、カイムはまるで川を流れる小枝のように圧倒的な奔流に呑み込まれてしまった。
「さっきから聞いてればべらべらと。てめえに言われなくても逃げてることなんて分かってんだよ。それを俺より二回りも下の小僧が偉そうに説教垂れるんじゃねえ」
もはやどこにその様な力が残ってたのか、ジャファルは声を荒げると、苛立ちと共に渾身の一撃を叩きつけた。
奔流に呑まれたカイムは岩壁まで押し流され、思い切り背を打ち付けた。
「かはっ……」
その衝撃にカイムは血を吐く。
「ハッ、くそ……まだ力残ってんじゃねえか。エルドのやつ、ちゃんと削っておけよ……」
勝手な理屈で愚痴るとカイムはゆっくりと立ち上がる。しかし、まともに食らったせいか足元はガクガクとふらついていた。
それを見てジャファルが口を開く。
「お前こそ随分としぶといな。まるでゴキブリ並の生命力だ」
「黙れ。すっかり元気になりやがって、老体が無理しちゃ怪我の元だぜ」
「ふん。無理をしなきゃライラを守れんからな。お前みたいなクソ野郎が居るんだ。この国に娘は任せてられない」
「けっ、親馬鹿が」
両者は改めて剣を構える。互いに残された力はわずか、あと一撃放つのが限界だろう。静かに息を整え、お互いに相手の姿を見据える。
永遠とも思える静寂の後、両者は前傾の体勢を取ると同時に地を蹴り放った。
地に倒れ伏したのはカイムであった。愛用の剣は砕け、胸に大きな斬撃を喰らい、もはや立ち上がる力は残っていなかった。
「やりゃ出来るじゃねえかおっさん。こんなくだらねえことしてねえで、最初からその力で娘を守ってやりゃよかったんだ」
大の字に倒れ込んだ無様な姿でカイムは告げた。
「黙ってろ。くそっ、俺も完全に膝に来てるな」
続いてジャファルがガクリと膝を落とし、その場にへたり込む。
「だが、まだ姫殿下と真紅の美姫が残ってるか。こりゃどうにもならねえな」
そう言ってジャファルは剣を手放し、やがて倒れ込んだ。
「叔父様、カイム!!」
何とか動けるように回復したフィリアが駆け寄ってきた。
「まったく、あんな子供みたいな挑発で叔父様の目を覚まさせようだなんて……それにまんまと応じる叔父様もほんと子供なんだから……」
「ええ、私達にはわからない世界なのかもしれません」
やや呆れたような表情を浮かべながら、アリシアは二人に回復魔法を掛ける。
「さてジャファル、あなたを国家の転覆を図った容疑で拘束する。色々と言いたいことはあるだろうが、まずはおとなしく捕まってほしい」
そう言って、フレイヤはジャファルの拘束を始める。
「当然の対処だ。この場で首を刎ねられないだけありがたい」
ジャファルは抵抗を見せず素直に応じていた。すると身体から靄のようなものが抜けていき、やがてその魔神化も解けた。以前、獣化したイシュメル人のように身体が干からびることはなかった。
「ジャファルさん、私は必ず今回の事件の真相を白日のもとに晒します。イシュメルの方たちが今後どうなるか、私には保証できませんが可能な限り手を尽くすつもりですから……」
「……ありがとうございます、殿下」
ボソリとジャファルが呟いた。
こうして一連の騒動は、イシュメル人の反抗勢力の首謀者であるジャファルの拘束によって一応の決着を見せた。残りの反抗勢力もやがて目を覚ました兵たちにより拘束され、双方の被害は最小限に抑えられたと言ってよかった。
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