夢奪われた劣等剣士は銀の姫の守護騎士となり悪徳貴族に叛逆する
地下墳墓
一行は支店長たちに連れられて地下墳墓の手前に訪れていた。
支店長は重厚な鉄の扉のダイヤルロックを解除し、ハンドルを回した。すると、金庫室を施錠していた二本の鉄の杭が仕舞われ、扉が開くようになった。
「こ、ここです」
しかし、魔獣の気配に怯えているのか、支店長の声が震えていた。
「これがロージアン卿の専用金庫室ですか」
奥には数え切れないほどの金品や芸術品、硬貨や紙幣が収められていた。
「この中を探るのは骨が折れそうだな……支店長はこの中の収蔵品は知らんのか?」
「…………」
「うん? なんで黙ってる」
「お、お許しを」
そう言い残すと支店長はもと来た道を引き返し走り出した。
「あん? なんだよ突然」
その時、エルドが剣を抜き、突如伸びてきた無数の蔦を斬り落とした。すると、エルドは墳墓の方へと駆け出した。
地下墳墓は、巨大な円形のホールとなっていた。周囲を取り囲む壁のくぼみには遺骨がずらりと横たえられ、ともすれば不気味な印象を与えていた。
そして大きく崩落した奥の巨大な門から這いずるように巨大なウツボカズラが出現した。触手のような蔦をうねらせ、優に人の五倍はあろうかという巨体からは禍々しいほどの邪気が溢れ出していた。
「エスメラス・ネペンテス……なのか? それにしてもでかすぎないか?」
一般的なエスメラス・ネペンテスは精々人の二倍程度の大きさしか無い。ヒカリ茸を使役して洞窟に住むコウモリなどをおびき寄せて捕食したりはするが、基本的に洞窟の奥でじっとしていることが多い生き物である。
「支店長はこれを見て逃げ出したのかな?」
フィリアは二挺の拳銃を構えて前に出た。この四人で前衛を主に務めるのはエルドとフィリアの二人だ。
「そうだといいけどね。どうしてこんなとこに迷い込んできたのかわからないけど、ここで倒すよ」
エルドの合図を皮切りに、エルドとフィリアの二人が駆け出した。ネペンテスの触手が襲うが、二人は地を蹴り宙を舞い、鮮やかに躱すとその太い触手に乗って駆け上がる。
一気に間合いを詰めると、エルドはその胴を真上から叩き斬り、フィリアは宙を舞いながら天に向いたネペンテスの口の部分にありったけの銃弾を叩きつけた。
その連携攻撃がやむと、今度は後ろで控えていたカイムとアリシアがありったけの風刃と光の矢を叩き込む。
その一連の攻撃にたまらず、ネペンテスが断末魔をあげて倒れ込んだ。
「ふぅ、良い連携だったな。だが、余りにもあっさり倒せて拍子抜けした」
「…………」
エルドはネペンテスの死体を見て佇んでいた。
「どうしたエルド?」
「どうやら最初から瀕死だったのかもしれない」
エルドが遺体を示す。その全身には無数の傷が刻まれ、よく見るとろくに栄養が摂れなかったのか身体の端々が黒ずんでいた。
「少しかわいそうな気もするかも」
「そうですね。だからといって地上に出すわけには行きませんけど。それにしてもこの大きさ、もしかして幻獣化したのでしょうか?」
魔獣の中には、自然界にある霊子を、限界を超えて吸収してその身を変質させる個体がいる。それらは幻獣と呼称されるが、目の前の常識はずれに肥大化したウツボカズラもその一種なのかもしれない。
「ふむ、こんなところに居たのか」
突如、空間全体に響き渡るような声がした。直後、エルド達の前にイスマイルが転移してきた。
「イスマイル!?」
エルドが敵意を剥き出しにする。
「イスマイル、この方がさっき言っていた」
「おいおい、転移は霊子の濃い場所でしか使えないって話じゃなかったのか?」
「おや? そこまで気付いていたのかい。たしかにその通りだけど、僕だけは特別なんだ」
そういって、イスマイルはエルド達の下へと近付いてきた。特に敵意を発する様子はなかったが、一行が警戒を解くことはなかった。
「姫殿下に、カイムくんとフィリアくんだね。お初にお目にかかる。僕の名前はイスマイル。カーティスくんやジークくんの仲間をやらせてもらっているよ」
イスマイルは丁寧に礼をした。
「なんで俺らの名前まで知ってるのか知らんが、そこの魔獣はあんたがけしかけたのか?」
「まさか。私が彼を管理していたのは事実だけど、数日前に逃げ出したんだ。まさか、こんなところに来ていたとはね。死んでいるのは残念だが、回収だけはしておこう」
そういうと球体状の容器を掲げた。それはぼうっと黒く光ると、ネペンテスの死体から黒ずんだ靄のようなものが漏れ出した。
「させない!!」
エルドはその怪しげな行動を止めようと剣を抜いて駆け出したが、その剣は結界のような防壁に止められた。
「少し待っていてほしいな」
イスマイルはエルドの方を振り向きもせずに容器を掲げ続けると、やがて黒い靄はその球体へと吸収されていった。
一方のネペンテスは靄が吸収される度に縮んでいき、最終的に完全に干上がったような小さな死体へと変貌した。後に残ったのは一般的なエスメラス・ネペンテスとほとんど変わらない大きさの死体であった。
「一体何をしていたんだ?」
エルドが問い掛けた。
「気になるかい? これは彼の憎悪によって変質させられた黒い霊子だよ」
「そんなものを集めて何をするつもりなんだ」
「それは企業秘密というやつさ。さて、僕はここで御暇させてもらうよ」
イスマイルは再び礼をすると、そのまま転移して、一行の前から消えてしまった。
支店長は重厚な鉄の扉のダイヤルロックを解除し、ハンドルを回した。すると、金庫室を施錠していた二本の鉄の杭が仕舞われ、扉が開くようになった。
「こ、ここです」
しかし、魔獣の気配に怯えているのか、支店長の声が震えていた。
「これがロージアン卿の専用金庫室ですか」
奥には数え切れないほどの金品や芸術品、硬貨や紙幣が収められていた。
「この中を探るのは骨が折れそうだな……支店長はこの中の収蔵品は知らんのか?」
「…………」
「うん? なんで黙ってる」
「お、お許しを」
そう言い残すと支店長はもと来た道を引き返し走り出した。
「あん? なんだよ突然」
その時、エルドが剣を抜き、突如伸びてきた無数の蔦を斬り落とした。すると、エルドは墳墓の方へと駆け出した。
地下墳墓は、巨大な円形のホールとなっていた。周囲を取り囲む壁のくぼみには遺骨がずらりと横たえられ、ともすれば不気味な印象を与えていた。
そして大きく崩落した奥の巨大な門から這いずるように巨大なウツボカズラが出現した。触手のような蔦をうねらせ、優に人の五倍はあろうかという巨体からは禍々しいほどの邪気が溢れ出していた。
「エスメラス・ネペンテス……なのか? それにしてもでかすぎないか?」
一般的なエスメラス・ネペンテスは精々人の二倍程度の大きさしか無い。ヒカリ茸を使役して洞窟に住むコウモリなどをおびき寄せて捕食したりはするが、基本的に洞窟の奥でじっとしていることが多い生き物である。
「支店長はこれを見て逃げ出したのかな?」
フィリアは二挺の拳銃を構えて前に出た。この四人で前衛を主に務めるのはエルドとフィリアの二人だ。
「そうだといいけどね。どうしてこんなとこに迷い込んできたのかわからないけど、ここで倒すよ」
エルドの合図を皮切りに、エルドとフィリアの二人が駆け出した。ネペンテスの触手が襲うが、二人は地を蹴り宙を舞い、鮮やかに躱すとその太い触手に乗って駆け上がる。
一気に間合いを詰めると、エルドはその胴を真上から叩き斬り、フィリアは宙を舞いながら天に向いたネペンテスの口の部分にありったけの銃弾を叩きつけた。
その連携攻撃がやむと、今度は後ろで控えていたカイムとアリシアがありったけの風刃と光の矢を叩き込む。
その一連の攻撃にたまらず、ネペンテスが断末魔をあげて倒れ込んだ。
「ふぅ、良い連携だったな。だが、余りにもあっさり倒せて拍子抜けした」
「…………」
エルドはネペンテスの死体を見て佇んでいた。
「どうしたエルド?」
「どうやら最初から瀕死だったのかもしれない」
エルドが遺体を示す。その全身には無数の傷が刻まれ、よく見るとろくに栄養が摂れなかったのか身体の端々が黒ずんでいた。
「少しかわいそうな気もするかも」
「そうですね。だからといって地上に出すわけには行きませんけど。それにしてもこの大きさ、もしかして幻獣化したのでしょうか?」
魔獣の中には、自然界にある霊子を、限界を超えて吸収してその身を変質させる個体がいる。それらは幻獣と呼称されるが、目の前の常識はずれに肥大化したウツボカズラもその一種なのかもしれない。
「ふむ、こんなところに居たのか」
突如、空間全体に響き渡るような声がした。直後、エルド達の前にイスマイルが転移してきた。
「イスマイル!?」
エルドが敵意を剥き出しにする。
「イスマイル、この方がさっき言っていた」
「おいおい、転移は霊子の濃い場所でしか使えないって話じゃなかったのか?」
「おや? そこまで気付いていたのかい。たしかにその通りだけど、僕だけは特別なんだ」
そういって、イスマイルはエルド達の下へと近付いてきた。特に敵意を発する様子はなかったが、一行が警戒を解くことはなかった。
「姫殿下に、カイムくんとフィリアくんだね。お初にお目にかかる。僕の名前はイスマイル。カーティスくんやジークくんの仲間をやらせてもらっているよ」
イスマイルは丁寧に礼をした。
「なんで俺らの名前まで知ってるのか知らんが、そこの魔獣はあんたがけしかけたのか?」
「まさか。私が彼を管理していたのは事実だけど、数日前に逃げ出したんだ。まさか、こんなところに来ていたとはね。死んでいるのは残念だが、回収だけはしておこう」
そういうと球体状の容器を掲げた。それはぼうっと黒く光ると、ネペンテスの死体から黒ずんだ靄のようなものが漏れ出した。
「させない!!」
エルドはその怪しげな行動を止めようと剣を抜いて駆け出したが、その剣は結界のような防壁に止められた。
「少し待っていてほしいな」
イスマイルはエルドの方を振り向きもせずに容器を掲げ続けると、やがて黒い靄はその球体へと吸収されていった。
一方のネペンテスは靄が吸収される度に縮んでいき、最終的に完全に干上がったような小さな死体へと変貌した。後に残ったのは一般的なエスメラス・ネペンテスとほとんど変わらない大きさの死体であった。
「一体何をしていたんだ?」
エルドが問い掛けた。
「気になるかい? これは彼の憎悪によって変質させられた黒い霊子だよ」
「そんなものを集めて何をするつもりなんだ」
「それは企業秘密というやつさ。さて、僕はここで御暇させてもらうよ」
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