夢奪われた劣等剣士は銀の姫の守護騎士となり悪徳貴族に叛逆する
公都銀行
公都銀行を中心としたアーケードの一画は完全崩壊し、復旧作業の最中であった。
「ロージアン伯の金庫を開けてほしい!? そ、そんなの無理です。そんな事をしたら何をされるか……」
「ですが、この通り裁判所より礼状が発行されております」
「で、でもですね……私一人では……」
アリシアの説得に男は渋る。男はこの銀行建物の一階にある、店舗区画の支店長であるという。しかし、頭取は銀行立て直しのため方々を駆け回っているため、自分一人では決められないという。
司法の手続きが確たる実行力を伴わない、その事実こそがこの国の貴族の力の大きさを物語っていた。
一行はどうしたものかと悩んでいると一人の男が一行に近付いてきた。
「失礼、話を聞いておりましたが、どうやらお困りの様子」
その男はエインズワースの右腕、ウェインライト侯爵であった。
「こ、これはウェインライト閣下!? 何か御用でしたか?」
「レオン少佐の見舞いと、国境警備隊への定時連絡のついでだ。改めて見るに酷い有様だ」
武人めいた素っ気なさでウェインライトが言うと、あたりを見回した。倒壊した建物も少なくはなく、瓦礫が辺り一面に散らばり、その瓦礫に押しつぶされた人のものか血痕も飛び散っている。そして、一階部分には大穴が空けられていた。
「それはさておき、令状が出ている以上、殿下の捜査を拒むのは筋が違うだろう。我々貴族とて法の支配を受けるべき存在だ。頭取とロージアン卿には話を通しておく。君は殿下達をご案内してくれ」
「はっ!! 直ちにその様に」
エインズワースの右腕と称されるほどの男の言葉だ。特に疑問もなく、支店長は従った。
「ウェインライト卿、何故このような?」
対立しているはずの男の協力に、アリシアは疑問を口にした。
「法に明記された手続きに従ったまでです。では私はこれで、殿下がどの様な一手を打たれるのか楽しみにしておりますよ」
そう言ってウェインライトはその場を辞去した。
「あのおっさん、何考えてるんだ」
カイムが素直な感想を口にした。カイムに限らず、その場に居たものは皆、同様に疑問を浮かべていた。
「彼については私もよく分かりません。規則や法に厳しい方であると聞いておりましたし、帝国との和平協定にもご協力いただいていますが、なぜエインズワース卿に付き従うのかその理由は分かりません」
「でもあの身のこなし、噂通り相当な実力者みたいだ」
エルドは立ち去るウェインライトの背中に視線を向けた。
「へぇ、貴族の権力を振りかざして第二国境警備隊のトップに就いたもんだと思ったが、有名な武人なのか?」
「うん。この国で最高の騎士はレオンだって言われてるけど、最強の騎士となると候補は他にもたくさんいる。その中に名を連ねるのがあのウェインライト少将だ」
「なるほどな。さすがに元第二国境警備隊志望だけあって詳しいな」
「その真意はともかく、彼のおかげで助かりました。早速ロージアン卿の金庫を探りましょう」
支店長に案内されたのは、襲撃事件の際に獣が破壊を試みようとしていた金庫であった。それは貸し金庫のようで、ずらりと小さな金庫が網の目状に並んでいた。
支店長は慣れた手付きでその内の一つを開ける。
「これがロージアン伯の金庫です」
「ありがとうございます」
アリシアは手袋をはめると中を精査した。
「あれ?」
しかし、その中には金塊が並べられているだけでこれといった何かが入っているわけではなかった。
「どれどれ、俺にも見せてみろ」
カイムも中を調べるがやはり何も見つからない。
「二重底ってわけじゃなさそうだ。本当に金塊以外何も入ってないぞこれ。そのイスマイルってやつ嘘ついてたんじゃないか?」
「うーん、確かに人を小馬鹿にしたような態度だったし、その可能性はあるかもしれない」
一同は肩透かしを食らったようで落胆する。それを見かねたのか、支店長が口を開く。
「もしかしたら地下の金庫かも……」
「地下ですか?」
「ええ殿下、実は公都の地下には旧い地下墳墓があるのですが、そこに至るまでの地下道を金庫として利用しているんです」
「おいおい、罰当たりじゃないのかそれ?」
「ま、まあ。道を使っているだけですから」
「もしかして、そこにロージアンの金庫があるんですか?」
エルドが尋ねた。
「はい。ただ……」
支店長が口籠る。
「今朝から魔獣のうめき声のようなものが響いてまして」
「魔獣? 公都の地下にそんなのがいるなんて聞いたこと無いよね」
フィリアが思案げにそう言った。
「ですが、手がかりがあるかもしれないというのなら行かないわけには行きません。支店長さん、手前まででいいのでご案内していただけますか?」
支店長はアリシアの要請に了承し、一行を地下へと案内した。
「ロージアン伯の金庫を開けてほしい!? そ、そんなの無理です。そんな事をしたら何をされるか……」
「ですが、この通り裁判所より礼状が発行されております」
「で、でもですね……私一人では……」
アリシアの説得に男は渋る。男はこの銀行建物の一階にある、店舗区画の支店長であるという。しかし、頭取は銀行立て直しのため方々を駆け回っているため、自分一人では決められないという。
司法の手続きが確たる実行力を伴わない、その事実こそがこの国の貴族の力の大きさを物語っていた。
一行はどうしたものかと悩んでいると一人の男が一行に近付いてきた。
「失礼、話を聞いておりましたが、どうやらお困りの様子」
その男はエインズワースの右腕、ウェインライト侯爵であった。
「こ、これはウェインライト閣下!? 何か御用でしたか?」
「レオン少佐の見舞いと、国境警備隊への定時連絡のついでだ。改めて見るに酷い有様だ」
武人めいた素っ気なさでウェインライトが言うと、あたりを見回した。倒壊した建物も少なくはなく、瓦礫が辺り一面に散らばり、その瓦礫に押しつぶされた人のものか血痕も飛び散っている。そして、一階部分には大穴が空けられていた。
「それはさておき、令状が出ている以上、殿下の捜査を拒むのは筋が違うだろう。我々貴族とて法の支配を受けるべき存在だ。頭取とロージアン卿には話を通しておく。君は殿下達をご案内してくれ」
「はっ!! 直ちにその様に」
エインズワースの右腕と称されるほどの男の言葉だ。特に疑問もなく、支店長は従った。
「ウェインライト卿、何故このような?」
対立しているはずの男の協力に、アリシアは疑問を口にした。
「法に明記された手続きに従ったまでです。では私はこれで、殿下がどの様な一手を打たれるのか楽しみにしておりますよ」
そう言ってウェインライトはその場を辞去した。
「あのおっさん、何考えてるんだ」
カイムが素直な感想を口にした。カイムに限らず、その場に居たものは皆、同様に疑問を浮かべていた。
「彼については私もよく分かりません。規則や法に厳しい方であると聞いておりましたし、帝国との和平協定にもご協力いただいていますが、なぜエインズワース卿に付き従うのかその理由は分かりません」
「でもあの身のこなし、噂通り相当な実力者みたいだ」
エルドは立ち去るウェインライトの背中に視線を向けた。
「へぇ、貴族の権力を振りかざして第二国境警備隊のトップに就いたもんだと思ったが、有名な武人なのか?」
「うん。この国で最高の騎士はレオンだって言われてるけど、最強の騎士となると候補は他にもたくさんいる。その中に名を連ねるのがあのウェインライト少将だ」
「なるほどな。さすがに元第二国境警備隊志望だけあって詳しいな」
「その真意はともかく、彼のおかげで助かりました。早速ロージアン卿の金庫を探りましょう」
支店長に案内されたのは、襲撃事件の際に獣が破壊を試みようとしていた金庫であった。それは貸し金庫のようで、ずらりと小さな金庫が網の目状に並んでいた。
支店長は慣れた手付きでその内の一つを開ける。
「これがロージアン伯の金庫です」
「ありがとうございます」
アリシアは手袋をはめると中を精査した。
「あれ?」
しかし、その中には金塊が並べられているだけでこれといった何かが入っているわけではなかった。
「どれどれ、俺にも見せてみろ」
カイムも中を調べるがやはり何も見つからない。
「二重底ってわけじゃなさそうだ。本当に金塊以外何も入ってないぞこれ。そのイスマイルってやつ嘘ついてたんじゃないか?」
「うーん、確かに人を小馬鹿にしたような態度だったし、その可能性はあるかもしれない」
一同は肩透かしを食らったようで落胆する。それを見かねたのか、支店長が口を開く。
「もしかしたら地下の金庫かも……」
「地下ですか?」
「ええ殿下、実は公都の地下には旧い地下墳墓があるのですが、そこに至るまでの地下道を金庫として利用しているんです」
「おいおい、罰当たりじゃないのかそれ?」
「ま、まあ。道を使っているだけですから」
「もしかして、そこにロージアンの金庫があるんですか?」
エルドが尋ねた。
「はい。ただ……」
支店長が口籠る。
「今朝から魔獣のうめき声のようなものが響いてまして」
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