夢奪われた劣等剣士は銀の姫の守護騎士となり悪徳貴族に叛逆する
ジャファルの狙い
それぞれの調査を終え、エルド、アリシア、カイム、フィリア、フレイヤの五人は公会堂に集っていた。そして、互いに情報を交換すると、今後の動きについて話し合うこととなった。
「遺跡にいたイスマイル達は取り逃がしちゃったよ。ごめん、アリシア」
エルドが頭を下げる。
「いえ、レオン少佐と互角以上に渡り合う敵だったのです。加えて転移術を用いる相手であれば捕縛も難しいでしょう」
「問題はそこだ。一つ思ったんだが連中、物資の搬出搬入に転移術を用いてるんじゃないか?」
カイムは一つの疑問を呈した。
「よく気付いたな、カイム。ガラティアの調査隊からも同様の報告が上がっていた」
フレイヤによると、ガラティアの麓の宿場町での聞き込みで、ガラティアに何か荷を運ぶ見知らぬ者達の姿が見受けられたが、街道に出る商人は見知った顔の者だけであったという。
「遺跡内部の調査を始めたが、連中が持ち込んだ物資の類いは今の所見つかっていない。彼らが転移術を用いる以上、カイムや調査隊の推測もありえない話ではないだろう」
「でも転移術ってそんな誰もが使える魔法じゃないよね」
フィリアは疑問を抱いた。
古来より、数多くの探求者が転移術の汎用化に挑み続けていた。
しかし、魔法というものは人の常識と引き起こされる現象がかけ離れていれば離れているほど、発動が困難になる。
人が突如消えて、遠く離れた場所に瞬間移動するという現象を、どのようなプロセスで引き起こせばよいのかなど常人に理解できるものではないため、その使い手は限られていた。
実際に転移術を成功させた者達も、その発動方法については観念的で抽象的な説明をするばかりで、他人に伝承できるほどに確立されたものではなかった。
一方、先史文明文字を用いた呪文の開発を行う者も居たが、有効な術式の発見には至っていない。
「転移の発動は限定的……なのかもしれない。無制限に転移が使えるならそもそも遺跡に持ち込む必要がない。つまり転移術じゃなくて、転移陣があの遺跡にあるんじゃないかな」
エルドはふと頭に浮かんだ推測を口にした。
「なるほどな、転移陣ならある程度、霊子保有量の高い人間で発動キーを知ってれば簡単に扱える。連中も転移術を見せたのはあの遺跡の中だけだから、あの遺跡自体が一つの転移陣になってる可能性があるな」
転移陣とはカイムの言った通り、扱いやすいものだ。しかし、その作製と維持には膨大な霊子を必要とするため、広く用いられているものではない。
「でも問題が一つあるんじゃないかな? 出口はどこに繋がってるの?」
フィリアが疑問を呈した通り、転移陣は入口と出口の二つを用意してセットで用いるものである。
「転移陣は維持が難しい。そのため、霊力の高い場所を用いることが多い。そうなると出口――つまり、彼らの拠点の候補はある程度絞られるかもしれない」
「この辺りで霊力の高い地と言えば、ガラティアを除くと北の古城街道に古びた遺跡が一つ、南の街道にもありますね。いずれも入り口がロックされていて内部の調査は行われていませんが。あとはソルテール側の峡谷地帯でしょうか?」
「なんだ意外と候補が少ないじゃねえか」
「とは言え、ガラティアのように存在の知られていなかった遺跡や、他の地方に逃れられたらお手上げだがな」
冗談めかしてフレイヤはそう言った。
「それにしても、守備隊の大半は公都の警備に充てられてこれ以上の動員は難しい……どこから調べたものか」
フレイヤが頭を悩ませる。
「それですけど、叔父様達の狙いはやっぱりロージアン伯にあると思います」
「確かに十年前と今回の件で、イシュメル人はロージアンに散々苦しめられた。その復讐ってのは十分考えられるっちゃ考えられるな」
「そうなると鉄道の竣工式でしょうか? 式典にはロージアン卿も参加するはずですし、この国に対して意を表すのであればこれ以上の場はないでしょう」
「…………」
「フィリア? どうかしました?」
フィリアはアリシアの推測を聞いて沈黙していた。
「私は叔父様の狙いは飽くまでもロージアン伯とその私兵にあると思う。式典には多くの見物客もやってくるし、叔父様は無差別に人を巻き込むようなことはしないと思う」
「他のイシュメル人ならともかく、あのおっさんならありえなくは無いか」
「うん。それに式典を襲えば、いよいよアルビオンとイシュメルの溝は修復できないほどに深まる。だから叔父様もそれは最終手段に残すと思うの」
それは飽くまでも推測でしかなかった。筋は通っているが、果たしてそれが正しいのかその場に居たものには判断がつかなかった。
「一理あるように私は思います」
しかし、その推測にアリシアは理解を示した。
「フレイヤ、ロージアン卿はもともと式典前に鉄道でアルスターに来訪する予定でしたよね?」
「ええ、その通りです。まさかそれを狙うと?」
「可能性はあります。そうすると彼らは峡谷地帯の細い街道を狙って、ロージアン卿の襲撃を企図するでしょう。いずれにせよさっき挙げた三ヶ所については調査せざるを得ませんから、先に峡谷地帯を調べていただけないでしょうか?」
「かしこまりました。その通り采配いたしましょう」
イシュメル人の拠点についての目処は現時点でフィリアの推測しか無い。そのためフレイヤもアリシアの方針に異を唱えることはなかった。
果たしてフィリアの推測が正しいか、それはわからないが、こうしてイシュメル人の拠点捜索についての方針はまとまった。
「遺跡にいたイスマイル達は取り逃がしちゃったよ。ごめん、アリシア」
エルドが頭を下げる。
「いえ、レオン少佐と互角以上に渡り合う敵だったのです。加えて転移術を用いる相手であれば捕縛も難しいでしょう」
「問題はそこだ。一つ思ったんだが連中、物資の搬出搬入に転移術を用いてるんじゃないか?」
カイムは一つの疑問を呈した。
「よく気付いたな、カイム。ガラティアの調査隊からも同様の報告が上がっていた」
フレイヤによると、ガラティアの麓の宿場町での聞き込みで、ガラティアに何か荷を運ぶ見知らぬ者達の姿が見受けられたが、街道に出る商人は見知った顔の者だけであったという。
「遺跡内部の調査を始めたが、連中が持ち込んだ物資の類いは今の所見つかっていない。彼らが転移術を用いる以上、カイムや調査隊の推測もありえない話ではないだろう」
「でも転移術ってそんな誰もが使える魔法じゃないよね」
フィリアは疑問を抱いた。
古来より、数多くの探求者が転移術の汎用化に挑み続けていた。
しかし、魔法というものは人の常識と引き起こされる現象がかけ離れていれば離れているほど、発動が困難になる。
人が突如消えて、遠く離れた場所に瞬間移動するという現象を、どのようなプロセスで引き起こせばよいのかなど常人に理解できるものではないため、その使い手は限られていた。
実際に転移術を成功させた者達も、その発動方法については観念的で抽象的な説明をするばかりで、他人に伝承できるほどに確立されたものではなかった。
一方、先史文明文字を用いた呪文の開発を行う者も居たが、有効な術式の発見には至っていない。
「転移の発動は限定的……なのかもしれない。無制限に転移が使えるならそもそも遺跡に持ち込む必要がない。つまり転移術じゃなくて、転移陣があの遺跡にあるんじゃないかな」
エルドはふと頭に浮かんだ推測を口にした。
「なるほどな、転移陣ならある程度、霊子保有量の高い人間で発動キーを知ってれば簡単に扱える。連中も転移術を見せたのはあの遺跡の中だけだから、あの遺跡自体が一つの転移陣になってる可能性があるな」
転移陣とはカイムの言った通り、扱いやすいものだ。しかし、その作製と維持には膨大な霊子を必要とするため、広く用いられているものではない。
「でも問題が一つあるんじゃないかな? 出口はどこに繋がってるの?」
フィリアが疑問を呈した通り、転移陣は入口と出口の二つを用意してセットで用いるものである。
「転移陣は維持が難しい。そのため、霊力の高い場所を用いることが多い。そうなると出口――つまり、彼らの拠点の候補はある程度絞られるかもしれない」
「この辺りで霊力の高い地と言えば、ガラティアを除くと北の古城街道に古びた遺跡が一つ、南の街道にもありますね。いずれも入り口がロックされていて内部の調査は行われていませんが。あとはソルテール側の峡谷地帯でしょうか?」
「なんだ意外と候補が少ないじゃねえか」
「とは言え、ガラティアのように存在の知られていなかった遺跡や、他の地方に逃れられたらお手上げだがな」
冗談めかしてフレイヤはそう言った。
「それにしても、守備隊の大半は公都の警備に充てられてこれ以上の動員は難しい……どこから調べたものか」
フレイヤが頭を悩ませる。
「それですけど、叔父様達の狙いはやっぱりロージアン伯にあると思います」
「確かに十年前と今回の件で、イシュメル人はロージアンに散々苦しめられた。その復讐ってのは十分考えられるっちゃ考えられるな」
「そうなると鉄道の竣工式でしょうか? 式典にはロージアン卿も参加するはずですし、この国に対して意を表すのであればこれ以上の場はないでしょう」
「…………」
「フィリア? どうかしました?」
フィリアはアリシアの推測を聞いて沈黙していた。
「私は叔父様の狙いは飽くまでもロージアン伯とその私兵にあると思う。式典には多くの見物客もやってくるし、叔父様は無差別に人を巻き込むようなことはしないと思う」
「他のイシュメル人ならともかく、あのおっさんならありえなくは無いか」
「うん。それに式典を襲えば、いよいよアルビオンとイシュメルの溝は修復できないほどに深まる。だから叔父様もそれは最終手段に残すと思うの」
それは飽くまでも推測でしかなかった。筋は通っているが、果たしてそれが正しいのかその場に居たものには判断がつかなかった。
「一理あるように私は思います」
しかし、その推測にアリシアは理解を示した。
「フレイヤ、ロージアン卿はもともと式典前に鉄道でアルスターに来訪する予定でしたよね?」
「ええ、その通りです。まさかそれを狙うと?」
「可能性はあります。そうすると彼らは峡谷地帯の細い街道を狙って、ロージアン卿の襲撃を企図するでしょう。いずれにせよさっき挙げた三ヶ所については調査せざるを得ませんから、先に峡谷地帯を調べていただけないでしょうか?」
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