夢奪われた劣等剣士は銀の姫の守護騎士となり悪徳貴族に叛逆する
人の起源
門の先には以前見かけたそれとよく似た階段があり、やはり中央の回廊に続いていた。階層こそ違うものの間違いなく同じ空間だろう。
「何度見ても驚くだろう? ここには人が暮らすためのあらゆる機能が凝縮されている。水を浄化し、空気の組成や気温などを人の暮らしや動植物の飼育に適した環境を構築するシステム、あらゆるものの腐敗や劣化を防ぐ保存魔法、そして何よりも人の居住者の数に合わせて無限に伸長する空間、ここはすべてが完結した理想の方舟だ」
イスマイルに案内されたのは何かの液体で満たされた無数の容器が林立する不思議な部屋であった。
目を凝らすとそれぞれの容器には動植物が眠るように収められていた。それは錬金術師たちが生きたまま生物を保存する培養槽のようで、酷く不気味であった。
「さてここがどこかは分かるかな?」
「先史文明時代の遺跡じゃないのか?」
イスマイルの問いにレオンが答える。
「そう。ここは古代人たちが築き上げた居住施設だ。彼らは長らくここで暮らしていた。だが不思議に思わないかい。この世界の各地で発見される遺構に眠る技術は驚愕に値する。およそ今の人類には到底再現し得ない夢の技術の結晶だ。なのに彼らはどこに消えたのか、今の我々との連続性は、なぜ技術は継承されなかった、疑問は尽きないよ」
まるで探求者のような口ぶりでイスマイルは語る。
「かつてこの世界は人智を超えた大きな災厄に見舞われた。その後、女神イルフェミア様が降臨し、大地を貫く巨大な神樹を築いて砕けた大地をつなぎ合わせた。古代人達はその過程で文明を失ったというのが聖典の記述だ」
レオンの答えた内容は、この世界の者なら誰でも知っている伝承である。
「さすがイルフェミア教国の信任厚い聖騎士殿だ。聖典の内容もよくご存知だ」
「嫌味はよしてくれ。敬虔なイルフェミア教徒であれば子供でも知っていることだ。それよりも神学の講義をするためにわざわざ僕たちを招き入れたのか?」
「まさか。本題はこれからだ。さて、我らが敬愛する女神様は祖先を救い、地上の生物たちは女神の大いなる祝福を授けられた。それが教国の伝える歴史だ。だが、そこには意図的に語られない存在がいる」
「語られない存在……?」
「君たちがフィーンドと呼ぶ存在だ。彼らはロンディニアの民が入植する以前からこの地に住んでいた。では彼らの起源は? 君たちは彼らを伝承に記された悪魔と同一視し、排除した。だが彼らはどこから来たのだろうか?」
「それは……」
エルドが押し黙る。
「世の中には不思議なことがある。我々と起源を同じくするイシュメル人は、伝承の獣と呼ばれる存在へと変貌し、破壊の限りを尽くした。聖典において獣は、やがて悪魔へと進化を果たし、我ら人と敵対した。おかしいと思わないかい? フィーンドは我々人とは異なる存在であるとしてきたのに、我々は彼らに近い存在へと変貌する可能性を秘めていたんだ。それは果たして偶然か?」
「彼らの変貌はあなた達がそう仕向けたんでしょう? 一体何が言いたいんですか」
焦れたようにエルドが問いかけた。
「そう、確かに我々は彼らに変貌を促した。だが、それによって生まれた姿形は決して我々がデザインしたものではない。そう。それは人の因子に予め組み込まれたものが発現しただけに過ぎない。我々人類とフィーンドもまた、起源を共通させている。そう、推測できないかい?」
「馬鹿なことを。誇大妄想ってやつかな」
レオンはイスマイルの主張を一笑に付す。イルフェミア教の敬虔な信徒であるレオンにとって、目の前の男が吐く妄言など聞くに値しなかった。
「だが、君の弟君はそうは思っていないようだね」
「だ、黙れ……」
エルドはその顔面を真っ青にさせていた。
「エルド? こんな奴の言うことなんか――」
「エルドくん、君はよくわかっている。私の立てた推測があながち間違いではないと。だってそうだろう? もし彼らフィーンドが、我々人類と同じ因子を持っていなければ……」
エルドの胸が早鐘を打つ。イスマイルの言葉を聞いてはいけない。間違いなくそう感じている。しかし、イスマイルの言葉は止まらない。
――――人と彼らが子を成すことなどできないだろう?
「何度見ても驚くだろう? ここには人が暮らすためのあらゆる機能が凝縮されている。水を浄化し、空気の組成や気温などを人の暮らしや動植物の飼育に適した環境を構築するシステム、あらゆるものの腐敗や劣化を防ぐ保存魔法、そして何よりも人の居住者の数に合わせて無限に伸長する空間、ここはすべてが完結した理想の方舟だ」
イスマイルに案内されたのは何かの液体で満たされた無数の容器が林立する不思議な部屋であった。
目を凝らすとそれぞれの容器には動植物が眠るように収められていた。それは錬金術師たちが生きたまま生物を保存する培養槽のようで、酷く不気味であった。
「さてここがどこかは分かるかな?」
「先史文明時代の遺跡じゃないのか?」
イスマイルの問いにレオンが答える。
「そう。ここは古代人たちが築き上げた居住施設だ。彼らは長らくここで暮らしていた。だが不思議に思わないかい。この世界の各地で発見される遺構に眠る技術は驚愕に値する。およそ今の人類には到底再現し得ない夢の技術の結晶だ。なのに彼らはどこに消えたのか、今の我々との連続性は、なぜ技術は継承されなかった、疑問は尽きないよ」
まるで探求者のような口ぶりでイスマイルは語る。
「かつてこの世界は人智を超えた大きな災厄に見舞われた。その後、女神イルフェミア様が降臨し、大地を貫く巨大な神樹を築いて砕けた大地をつなぎ合わせた。古代人達はその過程で文明を失ったというのが聖典の記述だ」
レオンの答えた内容は、この世界の者なら誰でも知っている伝承である。
「さすがイルフェミア教国の信任厚い聖騎士殿だ。聖典の内容もよくご存知だ」
「嫌味はよしてくれ。敬虔なイルフェミア教徒であれば子供でも知っていることだ。それよりも神学の講義をするためにわざわざ僕たちを招き入れたのか?」
「まさか。本題はこれからだ。さて、我らが敬愛する女神様は祖先を救い、地上の生物たちは女神の大いなる祝福を授けられた。それが教国の伝える歴史だ。だが、そこには意図的に語られない存在がいる」
「語られない存在……?」
「君たちがフィーンドと呼ぶ存在だ。彼らはロンディニアの民が入植する以前からこの地に住んでいた。では彼らの起源は? 君たちは彼らを伝承に記された悪魔と同一視し、排除した。だが彼らはどこから来たのだろうか?」
「それは……」
エルドが押し黙る。
「世の中には不思議なことがある。我々と起源を同じくするイシュメル人は、伝承の獣と呼ばれる存在へと変貌し、破壊の限りを尽くした。聖典において獣は、やがて悪魔へと進化を果たし、我ら人と敵対した。おかしいと思わないかい? フィーンドは我々人とは異なる存在であるとしてきたのに、我々は彼らに近い存在へと変貌する可能性を秘めていたんだ。それは果たして偶然か?」
「彼らの変貌はあなた達がそう仕向けたんでしょう? 一体何が言いたいんですか」
焦れたようにエルドが問いかけた。
「そう、確かに我々は彼らに変貌を促した。だが、それによって生まれた姿形は決して我々がデザインしたものではない。そう。それは人の因子に予め組み込まれたものが発現しただけに過ぎない。我々人類とフィーンドもまた、起源を共通させている。そう、推測できないかい?」
「馬鹿なことを。誇大妄想ってやつかな」
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