夢奪われた劣等剣士は銀の姫の守護騎士となり悪徳貴族に叛逆する
決別
「パ……パ……?」
「ライラ、お前どうして?」
先程まで重傷を負っていた娘が眼の前に現れたことにジャファルは驚いているようであった。
「ライラさんは霊気の満ちた水場に浸かり無事に回復しました」
ライラの側にはエルドとアリシアもいた。
「そんなところがまだあったのか? 俺はてっきりこの水源が汚染されてもう望みはないのかと……」
「見つけたのは偶然です。僕らが崩落に巻き込まれた先に清水の湧き出す地底湖があったんです」
「そう……か……」
ジャファルは一人娘の無事に安堵したのか、目の端にうっすらと涙を浮かべた。
「でもこれは一体どういうことですか? あれだけイシュメルのことを考えていたあなたがその男に協力するなんて」
エルドたちもまた先程の話を聞いていた。それ故、ジャファルの翻意に納得がいかなかった
「宗旨を替えただけのことだ。イシュメルを、娘を守るためには俺は何だってやる。だがそのために必要な手段は忍従じゃなかったってことだ」
「そんな……そんなの間違ってます……」
「間違ってるだと? ならお前が保証してくれるのか? 俺たちが安心して暮らせる保証を?」
エルドの言葉を聞いてジャファルは激昂した。
「冤罪、土地の収奪程度ならまだ可愛い。だが、やつらは何の力も持たない女子供を盾に俺たちを戦争へと駆り立てた。その戦功は全て揉み消され、全ては貴族共の手柄だ。俺はトラファルガーで起こったことを一度たりとも忘れたことはなかった。俺の愛する者達を矢避けにして自分たちの命を守ろうとしたクソッタレどものことをな!」
ジャファルは今まで溜め込んでいたものをすべて吐き出すように言い放った。エルドに怒るのは筋違いではあったが、それでもたまらずジャファルは胸の内を露わにする。その告白に一同はただただ押し黙るしかなかった。キシュワードもまた何か思うところがあったのか目を伏せていた。
「それでも未来の子らのためと、すべて水に流し公国の再建に力を尽くした。だが、どうだ? 街は焼かれ、娘は死にかけた。結果的に助かったが、許せるか? 確かに俺達の同胞は決して許されないことをした。だが、あの街に居たのは善良な連中と女子供だけだ! それを……それを、無抵抗な連中に火をかけたんだぞ? なぜそんな非道なことができる。これがアイシャとレイラ姉さんを犠牲にしてまで守った国なのか? あまりにも無念過ぎる……故郷に帰れず当て所無く大陸を彷徨ったその最後が、俗な人間どもの醜悪な欲望の培養槽を守る盾だ。ふざけるな……!!」
「パパ……」
父の痛烈な心の痛みがライラにも伝わってきたようだ。溢れんばかりの涙を流し、ライラは顔をくしゃくしゃにさせた。
そう、彼はずっと堪え、アルビオンに尽くし続けていたのだ。イシュメル人の未来のために。そうだというのにこの国は彼の、いやイシュメル人のために何をしてきたというのか?
都合よく戦争に徴用し、犠牲を強いた挙げ句、自分たちの都合で住む場所を奪おうとする。邪魔であれば火をかけて追い出そうとする。とても同じ人間相手の所業とは思えない。
「叔父様……ずっとそんな想いを抱えて……」
叔父がそのような苦悩を抱えていたこと、フィリアはまったく知らなかった。ぶっきらぼうだが優しく、常にイシュメルの未来を案じる思慮深い男、それが彼女にとってのジャファルの印象であった。だが、激昂するジャファルを前に、己がいかに叔父の表面しか見てこなかったかを痛感する。
「お前たちには感謝している。俺たちへの風評を晴らそうと真実を探してくれた。だがここまでだ。もはや真実は必要ない。俺たちは、俺たちをないがしろにしたことをこの国の貴族どもに後悔させてやる」
「ジャファル……あんた、駄目だそれじゃ。怒りに身を任せて行動したって――」
「そこまでだ」
カイムの言葉を遮ったのはカーティスだった。
「アルビオン人の君たちでは彼の心の奥深くは理解できない。ならばこれ以上どんな言葉をかけられる?」
「それは……」
カーティスの言葉に皆黙り込む。
そう。ジャファルからすればこちらはアルビオン人だ。今まで自分達を虐げてきた者の言葉、どれほどの価値を持とうか。
「父さん、一つ聞かせてよ」
「どうしたキシュワード」
「父さんは本当に彼の計画に乗ることがイシュメル人とライラのためになると思ってるの? あのイシュメル人たちのように」
「そうだ。それしか道はない」
「そう……なら僕から言うことはなにもない」
ジャファルの決意を前に、キシュワードもまた説得することはできなかった。
「既に言葉は尽くした。ならば後は互いに雌雄を決するのみだろう。私達を止めるのも良い。真実を明らかにして、別の道を模索するのも良いだろう。だが私たちはそれを待つつもりはない。次の計画に移らせてもらう」
カーティスはエルド達の側を抜け、立ち去ろうとする。
「ま、待て」
しかし、それを見過ごす訳にはいかない。エルドはとっさに剣を抜こうとする。しかし、まるで縫い付けられたかのように体が動かなかった。
「え!?」
「"影"を縛らせてもらった。すまないがここで捕まるわけにはいかんのでな」
そう言ってカーティスはジャファルを引き連れて、立ち去っていった。
「パパ、いか、ないで!」
その後姿を見送りながら、ライラは拙い言葉で哀願した。しかし、ジャファルは振り返ることはせずそのまま消え去っていく。
「ライラ、お前どうして?」
先程まで重傷を負っていた娘が眼の前に現れたことにジャファルは驚いているようであった。
「ライラさんは霊気の満ちた水場に浸かり無事に回復しました」
ライラの側にはエルドとアリシアもいた。
「そんなところがまだあったのか? 俺はてっきりこの水源が汚染されてもう望みはないのかと……」
「見つけたのは偶然です。僕らが崩落に巻き込まれた先に清水の湧き出す地底湖があったんです」
「そう……か……」
ジャファルは一人娘の無事に安堵したのか、目の端にうっすらと涙を浮かべた。
「でもこれは一体どういうことですか? あれだけイシュメルのことを考えていたあなたがその男に協力するなんて」
エルドたちもまた先程の話を聞いていた。それ故、ジャファルの翻意に納得がいかなかった
「宗旨を替えただけのことだ。イシュメルを、娘を守るためには俺は何だってやる。だがそのために必要な手段は忍従じゃなかったってことだ」
「そんな……そんなの間違ってます……」
「間違ってるだと? ならお前が保証してくれるのか? 俺たちが安心して暮らせる保証を?」
エルドの言葉を聞いてジャファルは激昂した。
「冤罪、土地の収奪程度ならまだ可愛い。だが、やつらは何の力も持たない女子供を盾に俺たちを戦争へと駆り立てた。その戦功は全て揉み消され、全ては貴族共の手柄だ。俺はトラファルガーで起こったことを一度たりとも忘れたことはなかった。俺の愛する者達を矢避けにして自分たちの命を守ろうとしたクソッタレどものことをな!」
ジャファルは今まで溜め込んでいたものをすべて吐き出すように言い放った。エルドに怒るのは筋違いではあったが、それでもたまらずジャファルは胸の内を露わにする。その告白に一同はただただ押し黙るしかなかった。キシュワードもまた何か思うところがあったのか目を伏せていた。
「それでも未来の子らのためと、すべて水に流し公国の再建に力を尽くした。だが、どうだ? 街は焼かれ、娘は死にかけた。結果的に助かったが、許せるか? 確かに俺達の同胞は決して許されないことをした。だが、あの街に居たのは善良な連中と女子供だけだ! それを……それを、無抵抗な連中に火をかけたんだぞ? なぜそんな非道なことができる。これがアイシャとレイラ姉さんを犠牲にしてまで守った国なのか? あまりにも無念過ぎる……故郷に帰れず当て所無く大陸を彷徨ったその最後が、俗な人間どもの醜悪な欲望の培養槽を守る盾だ。ふざけるな……!!」
「パパ……」
父の痛烈な心の痛みがライラにも伝わってきたようだ。溢れんばかりの涙を流し、ライラは顔をくしゃくしゃにさせた。
そう、彼はずっと堪え、アルビオンに尽くし続けていたのだ。イシュメル人の未来のために。そうだというのにこの国は彼の、いやイシュメル人のために何をしてきたというのか?
都合よく戦争に徴用し、犠牲を強いた挙げ句、自分たちの都合で住む場所を奪おうとする。邪魔であれば火をかけて追い出そうとする。とても同じ人間相手の所業とは思えない。
「叔父様……ずっとそんな想いを抱えて……」
叔父がそのような苦悩を抱えていたこと、フィリアはまったく知らなかった。ぶっきらぼうだが優しく、常にイシュメルの未来を案じる思慮深い男、それが彼女にとってのジャファルの印象であった。だが、激昂するジャファルを前に、己がいかに叔父の表面しか見てこなかったかを痛感する。
「お前たちには感謝している。俺たちへの風評を晴らそうと真実を探してくれた。だがここまでだ。もはや真実は必要ない。俺たちは、俺たちをないがしろにしたことをこの国の貴族どもに後悔させてやる」
「ジャファル……あんた、駄目だそれじゃ。怒りに身を任せて行動したって――」
「そこまでだ」
カイムの言葉を遮ったのはカーティスだった。
「アルビオン人の君たちでは彼の心の奥深くは理解できない。ならばこれ以上どんな言葉をかけられる?」
「それは……」
カーティスの言葉に皆黙り込む。
そう。ジャファルからすればこちらはアルビオン人だ。今まで自分達を虐げてきた者の言葉、どれほどの価値を持とうか。
「父さん、一つ聞かせてよ」
「どうしたキシュワード」
「父さんは本当に彼の計画に乗ることがイシュメル人とライラのためになると思ってるの? あのイシュメル人たちのように」
「そうだ。それしか道はない」
「そう……なら僕から言うことはなにもない」
ジャファルの決意を前に、キシュワードもまた説得することはできなかった。
「既に言葉は尽くした。ならば後は互いに雌雄を決するのみだろう。私達を止めるのも良い。真実を明らかにして、別の道を模索するのも良いだろう。だが私たちはそれを待つつもりはない。次の計画に移らせてもらう」
カーティスはエルド達の側を抜け、立ち去ろうとする。
「ま、待て」
しかし、それを見過ごす訳にはいかない。エルドはとっさに剣を抜こうとする。しかし、まるで縫い付けられたかのように体が動かなかった。
「え!?」
「"影"を縛らせてもらった。すまないがここで捕まるわけにはいかんのでな」
そう言ってカーティスはジャファルを引き連れて、立ち去っていった。
「パパ、いか、ないで!」
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