夢奪われた劣等剣士は銀の姫の守護騎士となり悪徳貴族に叛逆する
公都の日常(2)
ごぉんごぉんと正午の鐘が鳴った。間近で耳にするアルスター大聖堂の鐘の音は圧倒的で、エルドを腹の底から揺さぶった。鐘の音を聞き終えるとエルドは本から目を離してうーんと伸びをする。
「やっぱりか」
思った通り待ち人が来る気配はなかった。ふと聖堂の方を見やる。
建国と同時に建造されたアルスター大聖堂は公都で最も古い建物の一つだ。大
陸中央にそびえる神樹を背に建造され、城壁もかくやという威容に過剰とも言えるほど精緻な女神と十二の聖人の彫刻が掘られ、その外観は大陸でも有数の美しさを誇ると言われている。
大聖堂の放つ荘厳さは広場全体を包み、広場を彩る自然庭園と相まって穏やかな空間を生み出していた。
エルドはこの広場の静けさが好きだ。
裕福な商人夫人がペットの散歩をし、旅芸人が耳に安らぐ音楽を奏でる。ここでは誰もがそれぞれの日常を謳歌し、決して他人を侵すことはない。
エルドにとってそこで過ごす一時ははとても心地の良いものだった。
しかし、その安穏とした空気の中に喧騒が混じっていることにふと気づいた。読書に夢中で気付かなかったが、辺りを見回してみると公都守備隊の兵士が忙しく駆け回っていた。
どうやら喧騒の原因は彼らのようだ。公都の治安維持が彼らの任務だが、彼らが職務よりも汚職に熱心だということは公都中に知れ渡っている。
それだけにこうして慌ただしくしている様子は珍しく、新鮮な光景としてエルドの目に写った。
「随分と仕事熱心みたいだな。何か起こったのか?」
しばらく兵士たちを眺めていると、背後から気の抜けたような声がかけられた。赤髪の気だるげな目をした青年、それはエルドの待ち望んでいた青年であった。
「カイム、今日はいつもより早いね」
「……毎度遅刻して悪いな」
素直に感心したつもりなのだが、どうやらいやみにとられてしまったようだ。
「いや、あと一冊は読み切るつもりだったし。無駄になっちゃったかな」
そう言いながらエルドは本に栞を挟むと、丁寧に閉じて懐にしまう。
「だから悪かったって……」
さして気にしたつもりはないのだが、こうして余計な一言が漏れ出てしまう辺り、実際は彼の遅刻癖に辟易していたのかもしれない。
いや、本当は自分だけ卒業できないことへの苛立ちが言葉に現れてしまったのだろうか……?
その本心は自分でもわからなかったが、とはいえ今更それで気を悪くする様な男ではない。たまには彼にその悪癖を省みてもらうのも悪くはないだろう。そう心で言い訳しておく。
「それよりも早く剣の受け取りに行こうか。慣れた得物を提げてないと落ち着かないし」
「お前今めちゃくちゃ物騒なこと言ってるぞ」
軽口を叩き合いながら二人はアーケード街の方へと歩いていく。最初の目的地は行きつけの魔導工房だ。
「やっぱりか」
思った通り待ち人が来る気配はなかった。ふと聖堂の方を見やる。
建国と同時に建造されたアルスター大聖堂は公都で最も古い建物の一つだ。大
陸中央にそびえる神樹を背に建造され、城壁もかくやという威容に過剰とも言えるほど精緻な女神と十二の聖人の彫刻が掘られ、その外観は大陸でも有数の美しさを誇ると言われている。
大聖堂の放つ荘厳さは広場全体を包み、広場を彩る自然庭園と相まって穏やかな空間を生み出していた。
エルドはこの広場の静けさが好きだ。
裕福な商人夫人がペットの散歩をし、旅芸人が耳に安らぐ音楽を奏でる。ここでは誰もがそれぞれの日常を謳歌し、決して他人を侵すことはない。
エルドにとってそこで過ごす一時ははとても心地の良いものだった。
しかし、その安穏とした空気の中に喧騒が混じっていることにふと気づいた。読書に夢中で気付かなかったが、辺りを見回してみると公都守備隊の兵士が忙しく駆け回っていた。
どうやら喧騒の原因は彼らのようだ。公都の治安維持が彼らの任務だが、彼らが職務よりも汚職に熱心だということは公都中に知れ渡っている。
それだけにこうして慌ただしくしている様子は珍しく、新鮮な光景としてエルドの目に写った。
「随分と仕事熱心みたいだな。何か起こったのか?」
しばらく兵士たちを眺めていると、背後から気の抜けたような声がかけられた。赤髪の気だるげな目をした青年、それはエルドの待ち望んでいた青年であった。
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素直に感心したつもりなのだが、どうやらいやみにとられてしまったようだ。
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