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夢奪われた劣等剣士は銀の姫の守護騎士となり悪徳貴族に叛逆する

水都 蓮

《劣等剣士》

 それはアリシアの糾弾より遡ること一ヶ月前のことだ。


 騎士学校の卒業を控えるエルドは、公都アルスターの南方近くに位置する王立騎士学校、その城塞の天守にある会議場に招聘されていた。


「残念だが、魔法の扱えない《劣等剣士》である君が騎士となることは認められない」


 そこでエルドに宣告されたのは、これまでの学生生活における努力の全てを無に帰す容赦のない言葉であった。


「そ、そんな、卒業規定にはそのような文言は一言も……」


 エルドは反駁はんばくした。その様な一方的な決定、当然受け入れられるはずがなかった。


「これは決定だ。騎士とは単なる軍人にあらず。公国を守護し、その力と統率力をもって兵を率いる名誉ある地位である。それが魔法も扱えない未熟者であれば他の者達に示しがつかない。故に今回の措置を執らせてもらった」


 エルドの亡くなった両親は騎士であった。国の重鎮として陰に日向になりこの国を支えてきた。エルドにとって彼らは、幼い頃からの目標で憧れであり、自分もそうであろうと研鑽を積んできた。


 確かに魔法に関しては、基礎的な魔術しか扱えないのは確かだ。しかし、それを補おうと剣の腕は磨いてきたのだ、それを未熟と断じられるのは納得がいかなかった。


「お言葉ですが彼は、今年の卒業生の中でも武芸で右に出る者のいない剣士です。座学も申し分ない。演習では自ら率先して、事件の対処に当たるなど騎士の資格は十二分に満たしていると思われます。それを一方的に卒業取り消しにするなど、伝統ある騎士学校が執るべき措置ではありません……」


 そんなエルドの声を代弁するように、側に居た女性騎士が異を唱えた。


「イーグルトン少佐、いくら弟君とはいえ、そのように公私混同されるのはいかがなものか」


「な!? そのようなつもりは」


 理事の矛先は女性騎士へと向かった。彼女の名はフレイヤ・イーグルトン、伯爵家の令嬢にしてエルド達の担当教官でもあった女性で、エルドの姉でもある。


「弟とは言え、愛妾の息子などを迎えるからだ」
「下賤な血を持つ者を貴族に迎えるだけでもおぞましいというのに、よりによって魔法の扱えないものが騎士に名を連ねるなど、公国の恥だ」
「どうせ武術の授業でも不正を働いたのだろう」


 理事は皆、爵位を持つ貴族である。だが彼らはその気品を微塵も感じさせること無く、口さがなく騒ぎ立てた。


 この国ではどれだけ能力を持っていても、身分や血脈、魔法の資質で差別される。民のために命を懸け義務を果たす者達こそが、貴族と称されていた時代は既に終わっていた。
 エルドはそのことがたまらなく悔しかった。


(ごめん父さん、母さん、僕は騎士にはなれないみたいだ……)


 エルドには野望があった、亡くなった両親の死の真相を明かす。
 そのためには両親の死の秘密を握る上級貴族に近付く必要があり、彼らの側に仕えるために騎士学校を優秀な成績で卒業しなければならなかった。そのために武芸に勉学にと励んできたのだ。


「全くこの様な不正者が、エインズワース公のご子息を差し置いて主席とはな」


「くっ、そういうことですか……」


 フレイヤは歯噛みした。
 エインズワースとは、公爵位にあるこの国の筆頭貴族である。
 あまりにも不公正な今回の決定、その真相は彼の取り巻きが、余計な気を利かせてエルドを排斥したという実にくだらないものであった。


 実力の差は無視して、血筋や地位によって貴族の面目を保つ、それは民に対する貴き者の義務を忘れ、この国にのさばる彼ら貴族の現状をよく表していた。


こうした貴族の腐敗が顕在化し、エルドは騎士の道を閉ざされてしまった。

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