暗黒騎士と堕ちた戦乙女達 ~女神に見放されたので姫と公女たちに魔神の加護を授けて闇堕ちさせてみた~
神器の力
塔の前に広がる平野で、ジークリンデとバルデルが対峙していた。
しかし、その周囲を兵達が取り囲み、ジークリンデ達は劣勢に立たされていた。
「《剣姫》の名は聞きおよんでおります。しかし、実物は想像以上だ。紫電の如き一閃、確かに見事ですな」
しかし、バルデルはすぐに攻撃をさせるようなことはしなかった。
「あなたは何故この様な行いを」
「ふむ。この様なとは?」
「村を焼き、暴虐の限りを尽くし、今このような非道を行っていることです」
直接対峙するのは初めてであるが、その蛮行はアベルから聞いていた。
「貴女ならば理解できると思いますがね。その身に宿る力、ベルセビュアの加護を受けたあなたならば」
「ベルセビュア……?」
「既に地上から名も失われた神だ。知らないのも無理はない」
「何を言っているのですか。神はこの世にただ一柱、女神エリュセイアの他に存在しません」
この世界においては常識とも言える事実だ。
かつて悪しき存在が地上を覆ったとき、この世界に降臨し、人々に戦うための術を与えたという。
以来、女神は唯一の神としてこの地上を見守ってきた。
「よく言う。その身を包む漆黒の戦衣こそ、その証左にして、女神の作り出した偽りの秩序を否定するものだというのに」
「偽りの秩序……?」
「かつて女神は自分以外の神を排斥し、自身の独善的な価値観を人類に押しつけた。僕はね、そんなつまらない価値観に縛られることは無意味だと思うんだ」
「世迷い言を……たとえ偽りの秩序の上でも越えてはならない一線はあります」
ジークリンデは剣を構えると、白刃を閃かせた。
「残念だ。数少ない同志に出会う良い機会だと思ったんだがね」
バルデルはもう一振りの戦斧を現出させると、高く跳躍して得物を振り下ろした。
ジークリンデは即座に身を翻して後退すると、それを躱して振り向きざまに斬撃を見舞った。
「疾いな……!!」
一太刀喰らったと思ったら、次の瞬間には無数の斬撃が迫り来る。
力と速さを高めた、ジークリンデの猛攻にバルデルは瞬く間に防戦一方となった。
「これで終いです!!」
高く振り上げた彼女の剣が、雷光を纏って真一文字に振り下ろされた。
バルデルは両手の斧でそれを防ごうとしたが、白刃から繰り出される雷槌の如き一撃が爆ぜた瞬間、バルデルの全身から雷が吹き上がった。
「かはっ……」
体内からの放電にバルデルは堪らず膝をついた。
迸る紫電は、両者が打ち合う度に、バルデルの体内に蓄積されたもので、彼女の繰り出した止めの一撃に反応して一気にその身体を駆け巡ったのだ。
「フ……大したものだ。不完全だが、その力制御しつつあるようだ」
「な、バルデル殿がやられた?」
騎士団でも屈指の実力者達が膝を折った事実に、兵達は動揺した。
「くっ……だが、数は圧倒的にこちらが有利だ。魔獣達を動員して、押し潰せ!!」
一人の騎士の言葉を切っ掛けに、兵達が一斉にジークリンデ達に襲いかかった。
しかし、次の瞬間、ジークリンデの撒いた雷撃が吸い寄せられるように天に集い、雷球を生成すると、天雷となって周囲の兵達と魔獣を焼いた。
「タイミングは完璧だね」
それは、ジークリンデの魔力を借りたアイリスによる攻撃であった。
彼女の一撃によって兵達は気絶し、魔獣達も次々と身体をよろめかせた。
「ごめんなさい……私先走って……」
やがて、気絶していたフローラが目を覚まし、体勢を立て直した。
「本来なら力を温存して臨みたかったのですが、仕方ありません。今はあの男の暴虐から市民達を守るために戦いましょう」
周囲にはまだ魔獣が蠢いている。
未だ不利ではあったが、アイリスの攻撃によって、ダメージを与えることは出来た。
三人は得物を構えてバルデルと対峙した。
「確かにその力があれば魔獣共を蹴散らすことは容易だろう。しかし、たった三人で僕に挑むのは愚策だったな」
「黒焦げのくせによく言う」
アイリスは魔道書を開くと、魔力を放出した。
実際、バルデルはジークリンデの一撃で息も絶え絶えと言う様子であった。
しかし、それでもなお彼は笑みを浮かべて、どこか余裕を見せていた。
「確かに君たちは強い。本来の実力と、ベルセビュアの加護、それらが合わさることで、比類なき力を身につけた。だが――」
バルデルは戦斧を構えると、仁王立ちとなって一向に立ちはだかった。
「所詮それは神の力の一端に過ぎない」
バルデルは全身から瘴気を吹き上げると、紫紺の鎧を召喚して身に纏った。
その瞬間、周囲をおびただしい魔力の圧が包み込み、漆黒の旋風が巻き上がった。
常人では立つことすら困難な暴風の中、バルデルは悠然と立ち尽くしていた。
「そ、それはアベルの……」
彼の鎧は、アベルの纏う漆黒の鎧に酷く酷似していた。
しかし、その見た目はより禍々しく、竜をかたどった意匠が見られるおぞましい鎧であった。
「さて、どこまで耐えられるかな」
バルデルは兜の奥の瞳を妖しく光らせると、疾風を纏った戦斧を振り下ろした。
そこから放たれる衝撃はやがて、竜の形をした巨大な旋風となり、ジークリンデ達を襲った。
「散って!」
彼女の指示で一行は、即座に散開した。
直後通り過ぎた旋風が、大地を穿った。
ジークリンデ達はかろうじてそれを躱したが、その余波に巻き込まれ、まるで塵屑のように身体を吹き飛ばされ、地面に叩き付けられる。
「かはっ……」
魔力で身体を強化してはいるものの、一際高いところからたたき落とされたジークリンデは吐血する。
「どうした? まだ小手調べだぞ?」
次にバルデルは地面を削りながら戦斧を切り上げると、倒れ込んだジークリンデ目がけて衝撃波を飛ばした。
「リンデ!」
アイリスは咄嗟に土壁を生成して、それを防ごうとする。
しかし、それは一瞬で打ち砕かれ、威力を減衰させることしか出来なかった。
その様子を見て、即座にフローラが激流を纏った拳を叩き付けた。
迫る衝撃とフローラの拳が拮抗する。
「くっ……」
フローラは身体を根こそぎ持って行かれそうな衝撃に耐えながら、それを何とか抑えようとする。
しかし、やがて互いに反発する魔力は混ざり合うように膨れ上がり、爆発のような現象を引き起こした。
*
塔での激闘の一方、フライフォーゲル城では、竜を撃破したシャルがステファンを抱えて落下していた。
「お姉様、どうして?」
落下していく景色の中で、ステファンが疑問をぶつけた。
「どんなにおかしくなっても、弟を助けるのが姉の役目よ」
しかし、シャルはきっぱりと言い切った。
「でも僕は……」
「そう、あんたは罪を犯した。でも、それは死んで解消されるものじゃ無いわ。しっかりと生き延びて、償いなさい」
そう言って、シャルはステファンの額を小突いた。
「あれは……?」
その時、シャルの眼が《導きの塔》を捉えた。
そこには、人の五倍はあろうかという数十の巨大な魔獣、そして地面に倒れ伏した無数の兵達がいた。
「!?」
《遠見の魔眼》を発動させてよく目を凝らす。
それは間違いなく、塔の攻略のために付近の森に潜伏していたジークリンデ達であった。
神弓を奪取し、正面の敵を一掃してから乗り込むという手はずであったのが、一行は既に交戦を始め、一人の鎧の男の前に膝を折っていた。
「一体どうして……いえ、今はみんなを助けないと」
シャルはその包囲を解くために、再び神弓を輝かせた。
「ステファン、あんたはちゃんとしがみついてなさい」
シャルを中心に解き放たれた冷気が弓の先端に集っていく。
それは螺旋を描くように鋭利な槍を形成すると、一気に解き放たれた。
*
「やはり《理》を外れるには至っていないか。少々期待外れだな」
バルデルはゆっくりとジークリンデ達の前へと歩いて行くと、失望を声にした。
「別に教会に従う義理もないが……どうしたものかね」
バルデルは逡巡する。
しかし、その瞬間、遠くフライフォーゲル城より放たれた氷槍がバルデルを襲った。
「!?」
咄嗟にバルデルは戦斧を振るってその氷槍を受け止める。
しかし、相当の威力だったのか、その衝撃でバルデルはじりじりと後退させられていく。
「っ……ぐぅ……そうか、これは神器の力か。大したものだ」
やがて、バルデルの戦斧に亀裂が走る。
しかし、その危機に対して、バルデルは喜悦の表情を浮かべていた。
やがて、槍の衝撃に耐えかねたバルデルの斧が爆ぜ散る。
「っ……かはっ……良い、とても良いぞ……これほどの力を秘めうるのであれば、これからの戦いも楽しめるというもの……」
バルデルは氷槍に貫かれながら、自分と比肩しうる存在が現れた事実に歓喜する。
遅れて凄まじい冷気の奔流が一帯を呑み込んだ。
それは周囲の魔獣を地形ごと凍結させ、一帯を極寒の世界へと変容させた。
しかし、その周囲を兵達が取り囲み、ジークリンデ達は劣勢に立たされていた。
「《剣姫》の名は聞きおよんでおります。しかし、実物は想像以上だ。紫電の如き一閃、確かに見事ですな」
しかし、バルデルはすぐに攻撃をさせるようなことはしなかった。
「あなたは何故この様な行いを」
「ふむ。この様なとは?」
「村を焼き、暴虐の限りを尽くし、今このような非道を行っていることです」
直接対峙するのは初めてであるが、その蛮行はアベルから聞いていた。
「貴女ならば理解できると思いますがね。その身に宿る力、ベルセビュアの加護を受けたあなたならば」
「ベルセビュア……?」
「既に地上から名も失われた神だ。知らないのも無理はない」
「何を言っているのですか。神はこの世にただ一柱、女神エリュセイアの他に存在しません」
この世界においては常識とも言える事実だ。
かつて悪しき存在が地上を覆ったとき、この世界に降臨し、人々に戦うための術を与えたという。
以来、女神は唯一の神としてこの地上を見守ってきた。
「よく言う。その身を包む漆黒の戦衣こそ、その証左にして、女神の作り出した偽りの秩序を否定するものだというのに」
「偽りの秩序……?」
「かつて女神は自分以外の神を排斥し、自身の独善的な価値観を人類に押しつけた。僕はね、そんなつまらない価値観に縛られることは無意味だと思うんだ」
「世迷い言を……たとえ偽りの秩序の上でも越えてはならない一線はあります」
ジークリンデは剣を構えると、白刃を閃かせた。
「残念だ。数少ない同志に出会う良い機会だと思ったんだがね」
バルデルはもう一振りの戦斧を現出させると、高く跳躍して得物を振り下ろした。
ジークリンデは即座に身を翻して後退すると、それを躱して振り向きざまに斬撃を見舞った。
「疾いな……!!」
一太刀喰らったと思ったら、次の瞬間には無数の斬撃が迫り来る。
力と速さを高めた、ジークリンデの猛攻にバルデルは瞬く間に防戦一方となった。
「これで終いです!!」
高く振り上げた彼女の剣が、雷光を纏って真一文字に振り下ろされた。
バルデルは両手の斧でそれを防ごうとしたが、白刃から繰り出される雷槌の如き一撃が爆ぜた瞬間、バルデルの全身から雷が吹き上がった。
「かはっ……」
体内からの放電にバルデルは堪らず膝をついた。
迸る紫電は、両者が打ち合う度に、バルデルの体内に蓄積されたもので、彼女の繰り出した止めの一撃に反応して一気にその身体を駆け巡ったのだ。
「フ……大したものだ。不完全だが、その力制御しつつあるようだ」
「な、バルデル殿がやられた?」
騎士団でも屈指の実力者達が膝を折った事実に、兵達は動揺した。
「くっ……だが、数は圧倒的にこちらが有利だ。魔獣達を動員して、押し潰せ!!」
一人の騎士の言葉を切っ掛けに、兵達が一斉にジークリンデ達に襲いかかった。
しかし、次の瞬間、ジークリンデの撒いた雷撃が吸い寄せられるように天に集い、雷球を生成すると、天雷となって周囲の兵達と魔獣を焼いた。
「タイミングは完璧だね」
それは、ジークリンデの魔力を借りたアイリスによる攻撃であった。
彼女の一撃によって兵達は気絶し、魔獣達も次々と身体をよろめかせた。
「ごめんなさい……私先走って……」
やがて、気絶していたフローラが目を覚まし、体勢を立て直した。
「本来なら力を温存して臨みたかったのですが、仕方ありません。今はあの男の暴虐から市民達を守るために戦いましょう」
周囲にはまだ魔獣が蠢いている。
未だ不利ではあったが、アイリスの攻撃によって、ダメージを与えることは出来た。
三人は得物を構えてバルデルと対峙した。
「確かにその力があれば魔獣共を蹴散らすことは容易だろう。しかし、たった三人で僕に挑むのは愚策だったな」
「黒焦げのくせによく言う」
アイリスは魔道書を開くと、魔力を放出した。
実際、バルデルはジークリンデの一撃で息も絶え絶えと言う様子であった。
しかし、それでもなお彼は笑みを浮かべて、どこか余裕を見せていた。
「確かに君たちは強い。本来の実力と、ベルセビュアの加護、それらが合わさることで、比類なき力を身につけた。だが――」
バルデルは戦斧を構えると、仁王立ちとなって一向に立ちはだかった。
「所詮それは神の力の一端に過ぎない」
バルデルは全身から瘴気を吹き上げると、紫紺の鎧を召喚して身に纏った。
その瞬間、周囲をおびただしい魔力の圧が包み込み、漆黒の旋風が巻き上がった。
常人では立つことすら困難な暴風の中、バルデルは悠然と立ち尽くしていた。
「そ、それはアベルの……」
彼の鎧は、アベルの纏う漆黒の鎧に酷く酷似していた。
しかし、その見た目はより禍々しく、竜をかたどった意匠が見られるおぞましい鎧であった。
「さて、どこまで耐えられるかな」
バルデルは兜の奥の瞳を妖しく光らせると、疾風を纏った戦斧を振り下ろした。
そこから放たれる衝撃はやがて、竜の形をした巨大な旋風となり、ジークリンデ達を襲った。
「散って!」
彼女の指示で一行は、即座に散開した。
直後通り過ぎた旋風が、大地を穿った。
ジークリンデ達はかろうじてそれを躱したが、その余波に巻き込まれ、まるで塵屑のように身体を吹き飛ばされ、地面に叩き付けられる。
「かはっ……」
魔力で身体を強化してはいるものの、一際高いところからたたき落とされたジークリンデは吐血する。
「どうした? まだ小手調べだぞ?」
次にバルデルは地面を削りながら戦斧を切り上げると、倒れ込んだジークリンデ目がけて衝撃波を飛ばした。
「リンデ!」
アイリスは咄嗟に土壁を生成して、それを防ごうとする。
しかし、それは一瞬で打ち砕かれ、威力を減衰させることしか出来なかった。
その様子を見て、即座にフローラが激流を纏った拳を叩き付けた。
迫る衝撃とフローラの拳が拮抗する。
「くっ……」
フローラは身体を根こそぎ持って行かれそうな衝撃に耐えながら、それを何とか抑えようとする。
しかし、やがて互いに反発する魔力は混ざり合うように膨れ上がり、爆発のような現象を引き起こした。
*
塔での激闘の一方、フライフォーゲル城では、竜を撃破したシャルがステファンを抱えて落下していた。
「お姉様、どうして?」
落下していく景色の中で、ステファンが疑問をぶつけた。
「どんなにおかしくなっても、弟を助けるのが姉の役目よ」
しかし、シャルはきっぱりと言い切った。
「でも僕は……」
「そう、あんたは罪を犯した。でも、それは死んで解消されるものじゃ無いわ。しっかりと生き延びて、償いなさい」
そう言って、シャルはステファンの額を小突いた。
「あれは……?」
その時、シャルの眼が《導きの塔》を捉えた。
そこには、人の五倍はあろうかという数十の巨大な魔獣、そして地面に倒れ伏した無数の兵達がいた。
「!?」
《遠見の魔眼》を発動させてよく目を凝らす。
それは間違いなく、塔の攻略のために付近の森に潜伏していたジークリンデ達であった。
神弓を奪取し、正面の敵を一掃してから乗り込むという手はずであったのが、一行は既に交戦を始め、一人の鎧の男の前に膝を折っていた。
「一体どうして……いえ、今はみんなを助けないと」
シャルはその包囲を解くために、再び神弓を輝かせた。
「ステファン、あんたはちゃんとしがみついてなさい」
シャルを中心に解き放たれた冷気が弓の先端に集っていく。
それは螺旋を描くように鋭利な槍を形成すると、一気に解き放たれた。
*
「やはり《理》を外れるには至っていないか。少々期待外れだな」
バルデルはゆっくりとジークリンデ達の前へと歩いて行くと、失望を声にした。
「別に教会に従う義理もないが……どうしたものかね」
バルデルは逡巡する。
しかし、その瞬間、遠くフライフォーゲル城より放たれた氷槍がバルデルを襲った。
「!?」
咄嗟にバルデルは戦斧を振るってその氷槍を受け止める。
しかし、相当の威力だったのか、その衝撃でバルデルはじりじりと後退させられていく。
「っ……ぐぅ……そうか、これは神器の力か。大したものだ」
やがて、バルデルの戦斧に亀裂が走る。
しかし、その危機に対して、バルデルは喜悦の表情を浮かべていた。
やがて、槍の衝撃に耐えかねたバルデルの斧が爆ぜ散る。
「っ……かはっ……良い、とても良いぞ……これほどの力を秘めうるのであれば、これからの戦いも楽しめるというもの……」
バルデルは氷槍に貫かれながら、自分と比肩しうる存在が現れた事実に歓喜する。
遅れて凄まじい冷気の奔流が一帯を呑み込んだ。
それは周囲の魔獣を地形ごと凍結させ、一帯を極寒の世界へと変容させた。
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