暗黒騎士と堕ちた戦乙女達 ~女神に見放されたので姫と公女たちに魔神の加護を授けて闇堕ちさせてみた~
神弓の行方
城館内の会議室に、アベルとシャーロット、そして反乱軍の主要メンバーが集まっていた。
「シャーロット様達の推測を裏付けるように、このモンシャウ各地で人が失踪しているようです」
騎士団長のラルフが部下から上げられた報告を読み上げていた。
「以前、モンシャウ村で聖教騎士が住人達を連行しようとしていたことがあった。いまいち理由が分からなかったが、すべてはあのおぞましい"何か"のためって訳か」
「なあ、ユリウス卿。あんたは、このこと知っていたのか?」
ラルフ団長が話を振った。
それを受けて、ユリウス卿は険しい表情を浮かべた。
「《導きの塔》へと人が運び込まれていることは知っておりました。しかし、中でどのようなことが行われているかまでは……」
「領民達があの様な目に遭っているのに、あなたはそれを見過ごしたのですか!?」
その回答にシャーロットは静かな怒りを露わにした。
「……返す言葉もありません。聖教騎士はそのことに何の疑問も抱いては居なかった。ただ、それが聖教国に必要なことだと言われて、皆それを信じ切っていました。私も、村に火をかけるという令を下されたその日まで、何の疑問も抱くことはありませんでした……」
「っ!? ふざけないで!? 仮にも聖教騎士を統括する立場にありながら、その様な無責任なことを!!」
その言葉に憤慨したのか、シャーロットは勢いよく立ち上がり激昂した。
「シャーロット?」
確かに彼は聖教騎士を指揮する地位にあった。その責を問いたくなるのは無理も無いことだ。
しかし、今のシャーロットは理屈を超えた、やり場のない感情をぶつけているだけに思えた。
「どうしたんだ? 君は確かに短気だが、今はそうしてユリウス卿を責めても仕方ないだろう」
この場で理に適わない叱声を浴びせかけるその様に、アベルは違和感を覚え、彼女を諫めた。
「っ……」
すると、頭に激痛でも走ったかのように、シャーロットが頭を抑えた。
「そう……ね。私としたことが取り乱してしまったわ……」
シャーロットは冷静さを取り戻すと席に着いた。
「シャーロット様もお疲れのようです。少しお休みになりますか?」
その様子を心配したのか、ラルフ団長が休息を提案した。
「いえ、大丈夫よ。特に疲れを感じているわけではないから」
そうして、シャーロットは報告の続きを促した。
「わかりました。残りの報告ですが、《導きの塔》の陣容が判明しました。30の歩兵に10の弓兵、そして5の魔導砲兵が随時、警備に当たっているようです」
「以前よりも警備の数は落ち着きましたな。かの塔は正面入口しかありませんが、実力差と戦法次第では、突入も可能な数ですな」
「ああ、確かに人の警備は大したことが無い」
ラルフは意味深な物言いをした。
「つまり、それが目じゃないほど厄介な門番がいるってことですか」
アベルは先日遭遇した古代竜を思い浮かべた。
「その通りだ。古代竜が一体、門の前に鎮座している。一体どこからあんなの連れてきたのやら」
「やはりそうですか。あのステファンとか言う奴が、常時連れ回している可能性も考えたが……そうなると神器の確保は必須か」
「だけど、さっきの異形の様子を考えると、神器は塔の中で研究の対象にされているはずよね……」
宝箱を開く鍵が、その箱の中に保管されているような状況に、一同は考えあぐねた。
「だが、その神器ならどうにかなりそうです」
その沈黙を割くようにラルフが口を開いた。
「本当?」
「はい。先ほど、塔から城にある物が運び込まれました。そして、同時にステファン様はある宣言をしました」
「まさか、それって……」
「神弓ウル。フライフォーゲル家に伝わる神器にして、後継者の証です。ステファン様はそれを天に掲げ、光り輝かせると、自分こそが真の公爵の後継者であると宣言しました」
「そんな馬鹿な!? あれは、ステファンを使い手として認めなかった。だから、私が……なのにどうして!?」
シャーロットはその報告に困惑していた。
どうやら、二人の姉弟、そして神器の継承に関しては複雑な事情があるようであった。
「理屈は分かりません。ですが、ウルは力と為政者としての気風、そして民への慈悲深さに溢れた者を持ち手に選びます。とても、ステファン様にそれらが備わっているとは思えません。ですから何か裏があると」
「シャーロット、弓との繋がりはどうだ?」
「それが……」
シャーロットは暗い表情を浮かべた。
「今は何も感じないの。いつの間にかウルとの絆のようなものが感じられなくなって……」
「何も感じないと? それは妙ですな。神器の使い手がその資格を失った時、はっきりとその断絶が感じ取れると言います。それは心の臓を鷲づかみにされるような圧迫感で、一瞬とはいえとてつもない苦痛であると」
教会関係者として、ユリウス卿はそれなりに神器に関する知識を持ち合わせているが、その彼をもってしても現在のシャーロットの様子は妙であるようだ。
「神器を用いた実験、選ばれるはずのない使い手、いつの間にか途絶えたシャーロット様と神器との繋がり……一体どういうことだ?」
今回の作戦の要は神器である。
その真の使い手は、想像を絶する力を発揮する。あの古代竜にも対抗できうるほどに。
しかし、その神器にまつわる不可解な出来事が、一行の不安をかき立てた。
「だが……」
しかし、その中で一人だけ不安を全く感じていない者が居た。
「ユリウス卿の言うことが確かなら、シャーロットと神器との繋がりは絶たれていない。ただ、気配を感じられなくなっただけだ。それに神弓の使い手が為政者としての気風と民への慈悲深さを持つ者であるならば、あんな小僧よりもシャーロットの方が遙かに使い手にふさわしい。俺はそう信じている」
「アベル……」
「なら、やるべきことは一つです。神器の奪還。そして、それが塔ではなく城に移されたであれば、あの古代竜を相手にしなくて良い分、事態は好転している。そうではないでしょうか」
アベルはきっぱりと言い切った。
「……ふむ。アベル殿の言う通りかもしれませんな」
「ああ。不可解な出来事の理由は実際にシャーロット様が神器に触れれば分かるかもしれない。当初の予定通り、城への潜入を検討しましょう」
*
城への侵入経路、現在の城の防護体制など様々な報告を確認した後、アベルとシャーロットの二人は一度仙境へと戻ることした。
そしてジークリンデ達への報告を済ませると、割り当てられた個室へと戻っていた。
「例の期限まであと五日か。準備はしっかりとしないとな」
アベルはシャーロットと共に城への潜入を担うこととなった。城の防護体制を破るにはアベルのある力が必要であるという理由からだ。
――コンコン。
装備の確認をしていると、戸を叩く音がした。
「鍵は開いている。勝手に入ってくれ」
アベルが入室を促すと、ガチャリと扉が開かれた。
「失礼するわ」
扉の向こうから現れたのはシャーロットであった。
「シャーロット様達の推測を裏付けるように、このモンシャウ各地で人が失踪しているようです」
騎士団長のラルフが部下から上げられた報告を読み上げていた。
「以前、モンシャウ村で聖教騎士が住人達を連行しようとしていたことがあった。いまいち理由が分からなかったが、すべてはあのおぞましい"何か"のためって訳か」
「なあ、ユリウス卿。あんたは、このこと知っていたのか?」
ラルフ団長が話を振った。
それを受けて、ユリウス卿は険しい表情を浮かべた。
「《導きの塔》へと人が運び込まれていることは知っておりました。しかし、中でどのようなことが行われているかまでは……」
「領民達があの様な目に遭っているのに、あなたはそれを見過ごしたのですか!?」
その回答にシャーロットは静かな怒りを露わにした。
「……返す言葉もありません。聖教騎士はそのことに何の疑問も抱いては居なかった。ただ、それが聖教国に必要なことだと言われて、皆それを信じ切っていました。私も、村に火をかけるという令を下されたその日まで、何の疑問も抱くことはありませんでした……」
「っ!? ふざけないで!? 仮にも聖教騎士を統括する立場にありながら、その様な無責任なことを!!」
その言葉に憤慨したのか、シャーロットは勢いよく立ち上がり激昂した。
「シャーロット?」
確かに彼は聖教騎士を指揮する地位にあった。その責を問いたくなるのは無理も無いことだ。
しかし、今のシャーロットは理屈を超えた、やり場のない感情をぶつけているだけに思えた。
「どうしたんだ? 君は確かに短気だが、今はそうしてユリウス卿を責めても仕方ないだろう」
この場で理に適わない叱声を浴びせかけるその様に、アベルは違和感を覚え、彼女を諫めた。
「っ……」
すると、頭に激痛でも走ったかのように、シャーロットが頭を抑えた。
「そう……ね。私としたことが取り乱してしまったわ……」
シャーロットは冷静さを取り戻すと席に着いた。
「シャーロット様もお疲れのようです。少しお休みになりますか?」
その様子を心配したのか、ラルフ団長が休息を提案した。
「いえ、大丈夫よ。特に疲れを感じているわけではないから」
そうして、シャーロットは報告の続きを促した。
「わかりました。残りの報告ですが、《導きの塔》の陣容が判明しました。30の歩兵に10の弓兵、そして5の魔導砲兵が随時、警備に当たっているようです」
「以前よりも警備の数は落ち着きましたな。かの塔は正面入口しかありませんが、実力差と戦法次第では、突入も可能な数ですな」
「ああ、確かに人の警備は大したことが無い」
ラルフは意味深な物言いをした。
「つまり、それが目じゃないほど厄介な門番がいるってことですか」
アベルは先日遭遇した古代竜を思い浮かべた。
「その通りだ。古代竜が一体、門の前に鎮座している。一体どこからあんなの連れてきたのやら」
「やはりそうですか。あのステファンとか言う奴が、常時連れ回している可能性も考えたが……そうなると神器の確保は必須か」
「だけど、さっきの異形の様子を考えると、神器は塔の中で研究の対象にされているはずよね……」
宝箱を開く鍵が、その箱の中に保管されているような状況に、一同は考えあぐねた。
「だが、その神器ならどうにかなりそうです」
その沈黙を割くようにラルフが口を開いた。
「本当?」
「はい。先ほど、塔から城にある物が運び込まれました。そして、同時にステファン様はある宣言をしました」
「まさか、それって……」
「神弓ウル。フライフォーゲル家に伝わる神器にして、後継者の証です。ステファン様はそれを天に掲げ、光り輝かせると、自分こそが真の公爵の後継者であると宣言しました」
「そんな馬鹿な!? あれは、ステファンを使い手として認めなかった。だから、私が……なのにどうして!?」
シャーロットはその報告に困惑していた。
どうやら、二人の姉弟、そして神器の継承に関しては複雑な事情があるようであった。
「理屈は分かりません。ですが、ウルは力と為政者としての気風、そして民への慈悲深さに溢れた者を持ち手に選びます。とても、ステファン様にそれらが備わっているとは思えません。ですから何か裏があると」
「シャーロット、弓との繋がりはどうだ?」
「それが……」
シャーロットは暗い表情を浮かべた。
「今は何も感じないの。いつの間にかウルとの絆のようなものが感じられなくなって……」
「何も感じないと? それは妙ですな。神器の使い手がその資格を失った時、はっきりとその断絶が感じ取れると言います。それは心の臓を鷲づかみにされるような圧迫感で、一瞬とはいえとてつもない苦痛であると」
教会関係者として、ユリウス卿はそれなりに神器に関する知識を持ち合わせているが、その彼をもってしても現在のシャーロットの様子は妙であるようだ。
「神器を用いた実験、選ばれるはずのない使い手、いつの間にか途絶えたシャーロット様と神器との繋がり……一体どういうことだ?」
今回の作戦の要は神器である。
その真の使い手は、想像を絶する力を発揮する。あの古代竜にも対抗できうるほどに。
しかし、その神器にまつわる不可解な出来事が、一行の不安をかき立てた。
「だが……」
しかし、その中で一人だけ不安を全く感じていない者が居た。
「ユリウス卿の言うことが確かなら、シャーロットと神器との繋がりは絶たれていない。ただ、気配を感じられなくなっただけだ。それに神弓の使い手が為政者としての気風と民への慈悲深さを持つ者であるならば、あんな小僧よりもシャーロットの方が遙かに使い手にふさわしい。俺はそう信じている」
「アベル……」
「なら、やるべきことは一つです。神器の奪還。そして、それが塔ではなく城に移されたであれば、あの古代竜を相手にしなくて良い分、事態は好転している。そうではないでしょうか」
アベルはきっぱりと言い切った。
「……ふむ。アベル殿の言う通りかもしれませんな」
「ああ。不可解な出来事の理由は実際にシャーロット様が神器に触れれば分かるかもしれない。当初の予定通り、城への潜入を検討しましょう」
*
城への侵入経路、現在の城の防護体制など様々な報告を確認した後、アベルとシャーロットの二人は一度仙境へと戻ることした。
そしてジークリンデ達への報告を済ませると、割り当てられた個室へと戻っていた。
「例の期限まであと五日か。準備はしっかりとしないとな」
アベルはシャーロットと共に城への潜入を担うこととなった。城の防護体制を破るにはアベルのある力が必要であるという理由からだ。
――コンコン。
装備の確認をしていると、戸を叩く音がした。
「鍵は開いている。勝手に入ってくれ」
アベルが入室を促すと、ガチャリと扉が開かれた。
「失礼するわ」
扉の向こうから現れたのはシャーロットであった。
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