暗黒騎士と堕ちた戦乙女達 ~女神に見放されたので姫と公女たちに魔神の加護を授けて闇堕ちさせてみた~
氷獄の聖槍
モンシャウ村の外れ、そこでは連行されてきた村民達が縛られ、何人もの兵達に見張られながら、座り込んでいた。
「隊長! 例の者達が村民を襲っているとの報せが」
「なんだと?」
一人の兵士が、兵達の人波をかき分け、その奥で待つ白鎧を纏った男の元に駆け寄ってきた。
白鎧の騎士は、随分と慌てた様子の兵士から報告を受け取ると、表情を一変させた。
「くっ、やはりあの様な者らを帯同させるなど反対であったのだ。それを騎士に登用するなど、一体、枢機卿猊下らは何を考えておられるのだ……」
「どうされますか、イザーク隊長」
「即刻、連中を捕縛する。目的は皇女達をあぶり出すことだ。不要な犠牲は看過できない」
イザークは円錐型の巨大なランスを携えると、その場を後にした。
*
「まったく今日も月が綺麗だねえ」
いつの間にか紅に染まった月を眺めながら、バルデルはしみじみと呟いた。
そして、彼の所属する聖教国の建てた礼拝堂の屋根を尻に敷くと、葉巻をくゆらせる。
一方、その足下では、欲に駆られた彼の部下達が、その穢れた淫情をむき出しにしていた。
そこでは、栗の花のような匂いが、血の匂いと硝煙に混ざり合って、不快感に満ちた空間へと変貌していた。
「貴様ら……」
怒りに震えた男の声が響いた。
同時に、凍てついた冷気が吹きすさぶと、ならず者達だけを瞬時に凍り付かせた。
そして、風のような速さで飛び込んできたイザークが無数の刺突を繰り出すと、凍り付いたならず者達はこどごとく砕き散って、無残な凍った死体に成り果てた。
「…………」
部下を殺されたというのに、バルデルは冷めた視線でただイザークを見下ろしていた。
「降りてこい。今すぐ貴様の首を刎ねてやる!!」
「……フッ」
イザークが激情を露わにすると、ふとバルデルが笑みを浮かべた。
「イザークくん、君は随分と生真面目でつまらない男だと思ったが、存外良い表情をするねえ。やはり、人は欲するまま求むるままに生きている時が、最高に輝いている」
どうやらイザークの態度がいたく気に入ったようで、バルデルは上機嫌な様子で言った。
「黙れ! 罪のない人間を己が欲望のために穢すとは、女神が決して許しはせんぞ」
「やれやれ、骨の髄はあくまで聖職者というわけだ。自分たちの正義を疑いもしない」
バルデルは少しがっかりしたようにため息を吐くと、礼拝堂の屋根から飛び降り、音もなく着地した。
「さて、実力差は明らかだと思うけど、挑んでくるのであれば仕方が無い。少し、相手をしてあげよう」
バルデルはだらしなく戦斧を構えた。
構えと言っても、攻撃の意志も防御の意志も感じられない、雑な構えであった。
「隙だらけだな。所詮はならず者か。では我が槍術で、せめて苦しまずに逝かせてやろう」
イザークは声高に叫んで天にランスを掲げると、魔力を練って冷気を発した。
周囲は燃えさかっているというのに、イザークの発する冷気はそれを瞬時に凍り付かせながら、やがてランスへと集っていく。
「氷獄の冷気よりもなお冷たい氷雪だ。防げると思うなよ」
イザークに与えられた加護は《氷獄の聖槍》と呼ばれるものである。
氷属性のスキルの中でもトップクラスの性能であり、天変地異の吹雪を操ることはもちろん、人の細胞を一瞬で壊死させる強力な冷気を操ることまで可能とする。
その得物であるランスから繰り出される冷気で、教義に反した大罪人を容赦なく死に至らしめてきたその姿から、死後に罪人を裁く地獄の一つ《氷獄》の名を与えられている。
イザークは冷気を纏うランスを振るい、氷雪の奔流をバルデルに見舞った。
放たれた冷風は渦を巻きながら、徐々に膨れ上がり、やがて礼拝堂をまるごと呑み込むほどの猛吹雪へと変化していった。
「…………」
しかし、その冷気はバルデルに届く前に、彼の斧の一撃で容易くかき消されてしまった。
「君は確かに強い。魔力は膨大、技の冴えも優れている。だけどね」
バルデルは戦斧を頭上で振り回すと、天を突くほどの漆黒の旋風を生み出した。
「女神の加護では僕には勝てない」
そう言って戦斧の先に黒風を纏わせると、バルデルは姿を消した。
「!?」
そして、イザークの目では追えないほどの速度でその目の前に現れたかと思うと、バルデルは思い切り戦斧を振り下ろした。
次の瞬間、禍々しいほどに黒い旋風が、イザークを呑み込んだ。
「隊長! 例の者達が村民を襲っているとの報せが」
「なんだと?」
一人の兵士が、兵達の人波をかき分け、その奥で待つ白鎧を纏った男の元に駆け寄ってきた。
白鎧の騎士は、随分と慌てた様子の兵士から報告を受け取ると、表情を一変させた。
「くっ、やはりあの様な者らを帯同させるなど反対であったのだ。それを騎士に登用するなど、一体、枢機卿猊下らは何を考えておられるのだ……」
「どうされますか、イザーク隊長」
「即刻、連中を捕縛する。目的は皇女達をあぶり出すことだ。不要な犠牲は看過できない」
イザークは円錐型の巨大なランスを携えると、その場を後にした。
*
「まったく今日も月が綺麗だねえ」
いつの間にか紅に染まった月を眺めながら、バルデルはしみじみと呟いた。
そして、彼の所属する聖教国の建てた礼拝堂の屋根を尻に敷くと、葉巻をくゆらせる。
一方、その足下では、欲に駆られた彼の部下達が、その穢れた淫情をむき出しにしていた。
そこでは、栗の花のような匂いが、血の匂いと硝煙に混ざり合って、不快感に満ちた空間へと変貌していた。
「貴様ら……」
怒りに震えた男の声が響いた。
同時に、凍てついた冷気が吹きすさぶと、ならず者達だけを瞬時に凍り付かせた。
そして、風のような速さで飛び込んできたイザークが無数の刺突を繰り出すと、凍り付いたならず者達はこどごとく砕き散って、無残な凍った死体に成り果てた。
「…………」
部下を殺されたというのに、バルデルは冷めた視線でただイザークを見下ろしていた。
「降りてこい。今すぐ貴様の首を刎ねてやる!!」
「……フッ」
イザークが激情を露わにすると、ふとバルデルが笑みを浮かべた。
「イザークくん、君は随分と生真面目でつまらない男だと思ったが、存外良い表情をするねえ。やはり、人は欲するまま求むるままに生きている時が、最高に輝いている」
どうやらイザークの態度がいたく気に入ったようで、バルデルは上機嫌な様子で言った。
「黙れ! 罪のない人間を己が欲望のために穢すとは、女神が決して許しはせんぞ」
「やれやれ、骨の髄はあくまで聖職者というわけだ。自分たちの正義を疑いもしない」
バルデルは少しがっかりしたようにため息を吐くと、礼拝堂の屋根から飛び降り、音もなく着地した。
「さて、実力差は明らかだと思うけど、挑んでくるのであれば仕方が無い。少し、相手をしてあげよう」
バルデルはだらしなく戦斧を構えた。
構えと言っても、攻撃の意志も防御の意志も感じられない、雑な構えであった。
「隙だらけだな。所詮はならず者か。では我が槍術で、せめて苦しまずに逝かせてやろう」
イザークは声高に叫んで天にランスを掲げると、魔力を練って冷気を発した。
周囲は燃えさかっているというのに、イザークの発する冷気はそれを瞬時に凍り付かせながら、やがてランスへと集っていく。
「氷獄の冷気よりもなお冷たい氷雪だ。防げると思うなよ」
イザークに与えられた加護は《氷獄の聖槍》と呼ばれるものである。
氷属性のスキルの中でもトップクラスの性能であり、天変地異の吹雪を操ることはもちろん、人の細胞を一瞬で壊死させる強力な冷気を操ることまで可能とする。
その得物であるランスから繰り出される冷気で、教義に反した大罪人を容赦なく死に至らしめてきたその姿から、死後に罪人を裁く地獄の一つ《氷獄》の名を与えられている。
イザークは冷気を纏うランスを振るい、氷雪の奔流をバルデルに見舞った。
放たれた冷風は渦を巻きながら、徐々に膨れ上がり、やがて礼拝堂をまるごと呑み込むほどの猛吹雪へと変化していった。
「…………」
しかし、その冷気はバルデルに届く前に、彼の斧の一撃で容易くかき消されてしまった。
「君は確かに強い。魔力は膨大、技の冴えも優れている。だけどね」
バルデルは戦斧を頭上で振り回すと、天を突くほどの漆黒の旋風を生み出した。
「女神の加護では僕には勝てない」
そう言って戦斧の先に黒風を纏わせると、バルデルは姿を消した。
「!?」
そして、イザークの目では追えないほどの速度でその目の前に現れたかと思うと、バルデルは思い切り戦斧を振り下ろした。
次の瞬間、禍々しいほどに黒い旋風が、イザークを呑み込んだ。
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