暗黒騎士と堕ちた戦乙女達 ~女神に見放されたので姫と公女たちに魔神の加護を授けて闇堕ちさせてみた~
急転
「あの時、あなたが解毒をしてくれたのよね。あまりその時の状況を憶えていないのだけれど。でもよく解毒薬なんて持ってたわね」
「ん? ああ……まあな、あのときは運が良かった」
「あの毒は《聖霊樹の森》に住む毒蜘蛛から採取したものだから、解毒にはあの森で手に入る素材を使うしかない。それを運良く手にするなんて、何か持ってるのかも」
外気に触れて少し冷えた背中に、ぴとりとぬるい感触を覚えた。
「!?」
「ア、アア、アイリスちゃん!?」
動揺するフローラをよそに、そのぬるりとした感触はそのまま背筋を這っていった。
「それに私達を堕としたあの力、とても興味深い。私達を内側から塗り替えるような不思議な感覚。理が書き換えられ、力を引き出すプロセスがまるで別物になった」
つーっと背中をなぞった感触が二本三本と増え、まるで別の生き物みたいに肋骨を這い、徐々に前へ移っていく。
「ア、アイリスさん、一体な、何をしていらっしゃるんですか?」
「もし、アベルの加護を解明できたら、教会の覆い隠しているこの世界の真理が見えてくるかもしれない。だからその身体、検査させて」
やがて、アベルの背中にボタンのつぼみのような丸が触れたかと思うと、控えめで少しかたい膨らみがそれを包み込んだ。
「うわっ!? おい、これのどこが検査だ! ま、まずいって、こんなの」
「そ、そうよ、アイリスちゃん!」
フローラは顔を赤くさせて動揺しながら、眼を指で覆い隠した。
「じっとしてて、霊子回路がどうなってるのか調べたい」
しかし当人は、恥じらいもなく魔力を込めた指先でアベルの胸の周りをさすっていく。その感触が妙にくすぐったく、アベルが身をよじらせる。
その時、湯場につながる戸が思い切り開かれた。
「た、大変よ、あんた達!! あのトマスって人が――――え?」
勢いよく駆け込んできたシャーロットが凍り付いた。
「え、あんた達何をやって……え?」
フローラとアイリスが湯につかっていると事前に聞いていたシャーロットにとって、彼女らがアベルと混浴し、さらにその身体にアイリスが裸で抱きついている状態は、非常に不可解であった。
「ふ、不潔よ! 不潔!! アイリスから離れなさい!!!」
興奮したシャーロットは、動転して無数のエネルギーの矢を生成した。
「ま、待て! これには深いわけが!!」
「うるさああああああああああい」
次の瞬間、無数の矢の奔流が大量に降り注いだ。
*
城館にある饗応の間に、温泉にいた面々が集まっていた。
「ご、ごめんなさい、かっとなって矢を飛ばして……まさか、そんな経緯があったなんて」
シャーロットが深く頭を下げた。
頭に血が上りやすい彼女であるが、基本的には素直な性格である。フローラの不注意やアイリスの暴走を聞き、頭を下げた。
「ほんとほんと、シャルは少し怒りっぽいところがある」
アイリスはあっけらかんと言い放った。
「あんた達は少し反省しなさいよ……そそっかしいにもほどがあるし、一緒に入るなんておかしいわよ! 大体、アイリスあなたには恥じらいが……」
「シャル、うるさい」
「うーん、でもそうね、次はシャルちゃんも誘わないとね」
「そういうことじゃない!」
シャーロットとしては、フローラ達に非があると考えているようだ。おかげで、アベル自身が変質者とのそしりを受けることはなかった。
「でもあんたも、流されちゃ駄目よ。女子と温泉に入るなんて変なんだから。ちゃんと断りなさい」
実際、その通りであった。あの場は、早々に辞去するのが正解だったであろう。
「ああ、今度からそうするよ。それで、さっき言ってた大変なことって何なんだ」
「それはわしから説明させていただこう」
肝心な要件について尋ねると、ちょうどトマスがやってきて、シャーロットの代わりに答えた。
「ふむ、しかし、まだ皇女殿下がお見えになっていないようですな」
「すみません、遅れました」
トマスが辺りを見回すと同時に、ジークリンデが入ってきた。
見たところ、結構な汗をかき、頬は上気したようにほんのり赤くなっていた。何か激しい運動でもしていたのだろうか?
「おお、揃いましたか。では、こちらを見ていただきましょう」
トマスは一行を席に着かせ、懐から鏡を取り出すと、それに魔力を込めて宙に浮かせた。
そして、円を描くように手をかざすとその鏡が徐々に肥大化していった。
「これは《千里鏡》と言いまして、使い魔を通して遠くの様子を見通すことのできる品物です。帝都占拠の頃より各地に鷹をやって、見張っておりましたが、その内の一羽がこの様なものを捉えまして」
トマスが魔力を込めると、鏡面が揺らめき、像を映し出した。
「な!?」
鏡の中で、村が焼き払われていた。
豊かな緑は燃えさかり、小粋なレンガ造りの家々は火に包まれ、人々が逃げ惑う。そして、人々の悲鳴と怒号と共に、星夜が暁に染まっていく、そんな光景であった。
その最中、逃げ惑う人々が、武装した一団に捕らえられ、どこかへ連行されていく様子が見えた。
「待って……どういうことなの……?」
その光景を見て、シャーロットが立ち上がった。その表情は信じられないものでも見たかのように、青く染まっていた。
「お察しの通り、ここはシャーロット殿のフライフォーゲル家の治める地域にある、モンシャウ村です。鷹の聞ける範囲では、どうやらシャーロット殿とゆかりのある村故、彼らがその身を匿っているものと判断された様です。そして、いるはずのないシャーロット殿を燻り出そうと」
「そ、そんな……」
それを聞き、シャーロットは慌てた様子で、出口へと駆けだした。
「シャル、お待ちください。どちらへ?」
「決まってるわ。あいつらを追い払いに行くのよ」
背中を向けながら、シャーロットが言い放った。
「待て、それは駄目だ。これは俺たちを燻り出す――」
「わかってるわよ! でも……放ってはおけない」
シャーロットのその拳は固く握られ、肩はわずかに震えていた。
自分の領地での凶行というだけではない。それ以上の強い想いのようなものが感じられた。
「シャル、気持ちはわかります。ですが我々は、帝都を追われ、ここに来るまで長い距離を歩き、疲弊しています。加えて、慣れない力を扱った反動もありましょう。今は休養をとり、明日動きましょう」
「そうよ、シャルちゃん。その……私達が言ったら他人事に聞こえるかもしれないけど……ほんの少し力を行使するだけならともかく、戦闘になるととてもつらい状態でしょう? だから……」
「それは……」
無論、それがわからないシャーロットではない。《冥闇の権能》によって得た力の行使は消耗が激しい。
以前から振るっていた力がより強力になり、四人はまだそれを完全には、使いこなせていない状態であった。故に、その疲労は想像以上のものであった。
「でも、それでも行かせて……私、これ以上、大切な人を失うのは耐えられないよ……」
そう言って、シャーロットは皆の制止を振り切って駆けだした。
「かはっ……」
しかし、その瞬間、ジークリンデが足下に陣を展開して漆黒の騎士装束を纏うと、目にも止まらぬ速さでシャーロットの腹部を殴打して気絶させた。
「ごめんなさい、シャル……でも、私もあなたを失うわけには――」
無理に力を行使した影響か、ジークリンデが一瞬、気を手放した。
そして、倒れ込むその身体をアベルが支えた。
「無茶をする……」
「す、すみません、アベル。ですがどうか……」
「ああ、わかってる。お前達はゆっくり休め」
そうして、アベル達は気を失ったジークリンデとシャーロットを部屋へと運び込んだ。
「アベルはどうするの?」
彼女たちの寝室の前でアイリスが尋ねた。
「決まっている」
その瞬間、アベルの足下に陣が展開し、禍々しい光と共に漆黒の鎧が装着された。
「あいつの大切な存在は俺が守る」
そしてアベルは兜の面を下ろすと、その瞳を紅く光らせた。
「ん? ああ……まあな、あのときは運が良かった」
「あの毒は《聖霊樹の森》に住む毒蜘蛛から採取したものだから、解毒にはあの森で手に入る素材を使うしかない。それを運良く手にするなんて、何か持ってるのかも」
外気に触れて少し冷えた背中に、ぴとりとぬるい感触を覚えた。
「!?」
「ア、アア、アイリスちゃん!?」
動揺するフローラをよそに、そのぬるりとした感触はそのまま背筋を這っていった。
「それに私達を堕としたあの力、とても興味深い。私達を内側から塗り替えるような不思議な感覚。理が書き換えられ、力を引き出すプロセスがまるで別物になった」
つーっと背中をなぞった感触が二本三本と増え、まるで別の生き物みたいに肋骨を這い、徐々に前へ移っていく。
「ア、アイリスさん、一体な、何をしていらっしゃるんですか?」
「もし、アベルの加護を解明できたら、教会の覆い隠しているこの世界の真理が見えてくるかもしれない。だからその身体、検査させて」
やがて、アベルの背中にボタンのつぼみのような丸が触れたかと思うと、控えめで少しかたい膨らみがそれを包み込んだ。
「うわっ!? おい、これのどこが検査だ! ま、まずいって、こんなの」
「そ、そうよ、アイリスちゃん!」
フローラは顔を赤くさせて動揺しながら、眼を指で覆い隠した。
「じっとしてて、霊子回路がどうなってるのか調べたい」
しかし当人は、恥じらいもなく魔力を込めた指先でアベルの胸の周りをさすっていく。その感触が妙にくすぐったく、アベルが身をよじらせる。
その時、湯場につながる戸が思い切り開かれた。
「た、大変よ、あんた達!! あのトマスって人が――――え?」
勢いよく駆け込んできたシャーロットが凍り付いた。
「え、あんた達何をやって……え?」
フローラとアイリスが湯につかっていると事前に聞いていたシャーロットにとって、彼女らがアベルと混浴し、さらにその身体にアイリスが裸で抱きついている状態は、非常に不可解であった。
「ふ、不潔よ! 不潔!! アイリスから離れなさい!!!」
興奮したシャーロットは、動転して無数のエネルギーの矢を生成した。
「ま、待て! これには深いわけが!!」
「うるさああああああああああい」
次の瞬間、無数の矢の奔流が大量に降り注いだ。
*
城館にある饗応の間に、温泉にいた面々が集まっていた。
「ご、ごめんなさい、かっとなって矢を飛ばして……まさか、そんな経緯があったなんて」
シャーロットが深く頭を下げた。
頭に血が上りやすい彼女であるが、基本的には素直な性格である。フローラの不注意やアイリスの暴走を聞き、頭を下げた。
「ほんとほんと、シャルは少し怒りっぽいところがある」
アイリスはあっけらかんと言い放った。
「あんた達は少し反省しなさいよ……そそっかしいにもほどがあるし、一緒に入るなんておかしいわよ! 大体、アイリスあなたには恥じらいが……」
「シャル、うるさい」
「うーん、でもそうね、次はシャルちゃんも誘わないとね」
「そういうことじゃない!」
シャーロットとしては、フローラ達に非があると考えているようだ。おかげで、アベル自身が変質者とのそしりを受けることはなかった。
「でもあんたも、流されちゃ駄目よ。女子と温泉に入るなんて変なんだから。ちゃんと断りなさい」
実際、その通りであった。あの場は、早々に辞去するのが正解だったであろう。
「ああ、今度からそうするよ。それで、さっき言ってた大変なことって何なんだ」
「それはわしから説明させていただこう」
肝心な要件について尋ねると、ちょうどトマスがやってきて、シャーロットの代わりに答えた。
「ふむ、しかし、まだ皇女殿下がお見えになっていないようですな」
「すみません、遅れました」
トマスが辺りを見回すと同時に、ジークリンデが入ってきた。
見たところ、結構な汗をかき、頬は上気したようにほんのり赤くなっていた。何か激しい運動でもしていたのだろうか?
「おお、揃いましたか。では、こちらを見ていただきましょう」
トマスは一行を席に着かせ、懐から鏡を取り出すと、それに魔力を込めて宙に浮かせた。
そして、円を描くように手をかざすとその鏡が徐々に肥大化していった。
「これは《千里鏡》と言いまして、使い魔を通して遠くの様子を見通すことのできる品物です。帝都占拠の頃より各地に鷹をやって、見張っておりましたが、その内の一羽がこの様なものを捉えまして」
トマスが魔力を込めると、鏡面が揺らめき、像を映し出した。
「な!?」
鏡の中で、村が焼き払われていた。
豊かな緑は燃えさかり、小粋なレンガ造りの家々は火に包まれ、人々が逃げ惑う。そして、人々の悲鳴と怒号と共に、星夜が暁に染まっていく、そんな光景であった。
その最中、逃げ惑う人々が、武装した一団に捕らえられ、どこかへ連行されていく様子が見えた。
「待って……どういうことなの……?」
その光景を見て、シャーロットが立ち上がった。その表情は信じられないものでも見たかのように、青く染まっていた。
「お察しの通り、ここはシャーロット殿のフライフォーゲル家の治める地域にある、モンシャウ村です。鷹の聞ける範囲では、どうやらシャーロット殿とゆかりのある村故、彼らがその身を匿っているものと判断された様です。そして、いるはずのないシャーロット殿を燻り出そうと」
「そ、そんな……」
それを聞き、シャーロットは慌てた様子で、出口へと駆けだした。
「シャル、お待ちください。どちらへ?」
「決まってるわ。あいつらを追い払いに行くのよ」
背中を向けながら、シャーロットが言い放った。
「待て、それは駄目だ。これは俺たちを燻り出す――」
「わかってるわよ! でも……放ってはおけない」
シャーロットのその拳は固く握られ、肩はわずかに震えていた。
自分の領地での凶行というだけではない。それ以上の強い想いのようなものが感じられた。
「シャル、気持ちはわかります。ですが我々は、帝都を追われ、ここに来るまで長い距離を歩き、疲弊しています。加えて、慣れない力を扱った反動もありましょう。今は休養をとり、明日動きましょう」
「そうよ、シャルちゃん。その……私達が言ったら他人事に聞こえるかもしれないけど……ほんの少し力を行使するだけならともかく、戦闘になるととてもつらい状態でしょう? だから……」
「それは……」
無論、それがわからないシャーロットではない。《冥闇の権能》によって得た力の行使は消耗が激しい。
以前から振るっていた力がより強力になり、四人はまだそれを完全には、使いこなせていない状態であった。故に、その疲労は想像以上のものであった。
「でも、それでも行かせて……私、これ以上、大切な人を失うのは耐えられないよ……」
そう言って、シャーロットは皆の制止を振り切って駆けだした。
「かはっ……」
しかし、その瞬間、ジークリンデが足下に陣を展開して漆黒の騎士装束を纏うと、目にも止まらぬ速さでシャーロットの腹部を殴打して気絶させた。
「ごめんなさい、シャル……でも、私もあなたを失うわけには――」
無理に力を行使した影響か、ジークリンデが一瞬、気を手放した。
そして、倒れ込むその身体をアベルが支えた。
「無茶をする……」
「す、すみません、アベル。ですがどうか……」
「ああ、わかってる。お前達はゆっくり休め」
そうして、アベル達は気を失ったジークリンデとシャーロットを部屋へと運び込んだ。
「アベルはどうするの?」
彼女たちの寝室の前でアイリスが尋ねた。
「決まっている」
その瞬間、アベルの足下に陣が展開し、禍々しい光と共に漆黒の鎧が装着された。
「あいつの大切な存在は俺が守る」
そしてアベルは兜の面を下ろすと、その瞳を紅く光らせた。
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