暗黒騎士と堕ちた戦乙女達 ~女神に見放されたので姫と公女たちに魔神の加護を授けて闇堕ちさせてみた~
出会い
黒いユニコーンとの戦いは長きにわたった。
当初、手足を自在に稼働させられるアベルの方が圧倒的に有利であるように思えたが、ユニコーンはアベルの攻撃をひらりはらりとかわし、巧みにその健脚を繰り出して、アベルを翻弄した。
「くそっ、攻撃が全く当たらないなんて……」
力量差は明らかであった。
いくらアベルの腕が立とうと所詮は子供、到底敵う相手ではなかった。
「それでも、それでも、母さんのために退くわけにはいかないんだ」
ユニコーンの蹴りを何度も打ち込まれ、ダメージは相当のものであったが、アベルはそれでも気力を振り絞り、剣を構える。
「…………」
一方のユニコーンは、逃げることもアベルにとどめを刺すこともせず、ただじっとアベルを見つめていた。
「余裕のつもりか……」
アベルは再び剣を振るった。
「おい、ここで良いのか?」
「っ!?」
しかし、ユニコーンの蹄とアベルの剣がかち合わんとしたその時、誰かの声が響いた。
両者はお互いの攻撃をいったん止め、声の響いた方へと視線をやった。
「な!?」
その光景を見てアベルは驚いた。
二人の大男が、縛られた少女達を抱えていたのだ。
事情はわからないが、少女達は嫌がっている様子で、どう考えても穏当な事態ではなかった。
「くっ……」
アベルはユニコーンと少女達を交互に見比べた。
ここでユニコーンと出会えたのは千載一遇のチャンス、これを逃せば母は二度と助からないかもしれない。そんなのは到底承服できなかった。
しかし、かといってここで彼女達を見過ごすこともできなかった。
「っ…………」
悩んだ末に、アベルは地を蹴り、少女達の元へと向かった。
「いいか、俺が戻るまでそこを動くなよ。絶対だぞ」
そんな命令、幻獣が聞くわけがないというのに、言い出さずにはいられなかった。
後ろ髪を引かれる思いに駆られながら、アベルはその場から立ち去った。
*
「ふん、手こずらせやがって」
森の中で男が呟いた。
その腕には幼い少女ジークリンデとフローラが抱えられていた。
その顔は蒼白を通り越して、ほんのり紫がかっており、小刻みに息をするなど、酷く衰弱しているようであった。
「よりによってこんなガキどもに嗅ぎつけられるとはな、おかげで余計な仕事が増えやがる」
仲間の男が悪態をついた。
その腕に抱えられているのはアイリスとシャーロットであった。
「だが、思わぬ検体が採取できた。まずはそれでよしとしよう」
「そうだな。だが、このまま捨てて良いのか? 相手は皇帝や貴族の娘だぞ?」
「心配するな。式典に飽きたガキどもが、禁じられた森に足を踏み入れて、無残に殺されたってだけの話だ。見込みのない被検体も処分できて、一石二鳥だろ」
そういって男は無遠慮にジークリンデ達を放り投げた。
「へへ、随分とえげつねえこと考えやがる」
仲間の男も同じ様に放り投げる。
「さて、そろそろ毒が回る頃か。もはや助けも呼べんだろうな」
そうして男達は下卑た笑みを浮かべた。
「さて、帰ろうぜ。俺たちまで餌食にされちゃ敵わんから――」
そう言って男達がきびすを返した瞬間、彼らの首が食い破られた。
それは、彼らの影から湧き出るように出現した狼の仕業であった。
どうやら運の悪いことに、男達は飢えたシャドウウルフたちの餌食となってしまったようだ。
シャドウウルフは、漆黒の毛並みと黄金に輝く瞳を持った獰猛な狼種で、影を伝って移動する能力を持ち、幻獣ではないが危険な魔獣である。
これもまた森の深層に生息する魔獣で、滅多に出くわすものではないが、どういうわけか男達の影に隠れ潜んでいたようだ。
狼たちは死体となった男達を食いあさり、その食欲を満たしていく。
「っ……」
その光景を見た少女達の表情に恐怖の色が浮かんだ。
しかし、身体を巡る毒は、彼女たちに逃げることは愚か、叫び声を上げることすら許さなかった。
やがて、狼たちが少女らに目を向けた。
よほど飢えているのか、よだれを垂らし喉を鳴らしながら少女らの元へとゆっくり近づいてくる。
「た……け……」
声にならないかすれたうめき声のようなものを漏らす。しかし、ここは滅多に人の立ち入ることのない森である。
もはや彼女らの声に応える者などいるはずがなかった。
そして、狼たちは少女らが抵抗できないのを良いことに勢いよく飛び上がった。
「……ぇ?」
一巻の終わりと少女達が目を瞑ったその瞬間、彼女たちを待っていたのは、狼の顎ではなく、狼たちを焼き払う炎の熱さであった。
恐る恐る目を見開くと、目の前で狼たちが燃焼し、もだえ苦しんでいた。
そして次の瞬間、人影が宙を舞ったかと思うと、狼たちの身体は血しぶきを上げてばらばらになった。
「無事かい?」
人影が着地すると、少女達に背を向けながら、そう尋ねた。
驚くことにその声の主は、自分たちとそう変わらない歳の少年であった。
しかし、鎧を纏ったその立ち姿は堂々たるもので、まるで童話に出てくる正義の騎士のようであった。
それが、アベルと四人の戦乙女達の、出会いの日の出来事であった。
当初、手足を自在に稼働させられるアベルの方が圧倒的に有利であるように思えたが、ユニコーンはアベルの攻撃をひらりはらりとかわし、巧みにその健脚を繰り出して、アベルを翻弄した。
「くそっ、攻撃が全く当たらないなんて……」
力量差は明らかであった。
いくらアベルの腕が立とうと所詮は子供、到底敵う相手ではなかった。
「それでも、それでも、母さんのために退くわけにはいかないんだ」
ユニコーンの蹴りを何度も打ち込まれ、ダメージは相当のものであったが、アベルはそれでも気力を振り絞り、剣を構える。
「…………」
一方のユニコーンは、逃げることもアベルにとどめを刺すこともせず、ただじっとアベルを見つめていた。
「余裕のつもりか……」
アベルは再び剣を振るった。
「おい、ここで良いのか?」
「っ!?」
しかし、ユニコーンの蹄とアベルの剣がかち合わんとしたその時、誰かの声が響いた。
両者はお互いの攻撃をいったん止め、声の響いた方へと視線をやった。
「な!?」
その光景を見てアベルは驚いた。
二人の大男が、縛られた少女達を抱えていたのだ。
事情はわからないが、少女達は嫌がっている様子で、どう考えても穏当な事態ではなかった。
「くっ……」
アベルはユニコーンと少女達を交互に見比べた。
ここでユニコーンと出会えたのは千載一遇のチャンス、これを逃せば母は二度と助からないかもしれない。そんなのは到底承服できなかった。
しかし、かといってここで彼女達を見過ごすこともできなかった。
「っ…………」
悩んだ末に、アベルは地を蹴り、少女達の元へと向かった。
「いいか、俺が戻るまでそこを動くなよ。絶対だぞ」
そんな命令、幻獣が聞くわけがないというのに、言い出さずにはいられなかった。
後ろ髪を引かれる思いに駆られながら、アベルはその場から立ち去った。
*
「ふん、手こずらせやがって」
森の中で男が呟いた。
その腕には幼い少女ジークリンデとフローラが抱えられていた。
その顔は蒼白を通り越して、ほんのり紫がかっており、小刻みに息をするなど、酷く衰弱しているようであった。
「よりによってこんなガキどもに嗅ぎつけられるとはな、おかげで余計な仕事が増えやがる」
仲間の男が悪態をついた。
その腕に抱えられているのはアイリスとシャーロットであった。
「だが、思わぬ検体が採取できた。まずはそれでよしとしよう」
「そうだな。だが、このまま捨てて良いのか? 相手は皇帝や貴族の娘だぞ?」
「心配するな。式典に飽きたガキどもが、禁じられた森に足を踏み入れて、無残に殺されたってだけの話だ。見込みのない被検体も処分できて、一石二鳥だろ」
そういって男は無遠慮にジークリンデ達を放り投げた。
「へへ、随分とえげつねえこと考えやがる」
仲間の男も同じ様に放り投げる。
「さて、そろそろ毒が回る頃か。もはや助けも呼べんだろうな」
そうして男達は下卑た笑みを浮かべた。
「さて、帰ろうぜ。俺たちまで餌食にされちゃ敵わんから――」
そう言って男達がきびすを返した瞬間、彼らの首が食い破られた。
それは、彼らの影から湧き出るように出現した狼の仕業であった。
どうやら運の悪いことに、男達は飢えたシャドウウルフたちの餌食となってしまったようだ。
シャドウウルフは、漆黒の毛並みと黄金に輝く瞳を持った獰猛な狼種で、影を伝って移動する能力を持ち、幻獣ではないが危険な魔獣である。
これもまた森の深層に生息する魔獣で、滅多に出くわすものではないが、どういうわけか男達の影に隠れ潜んでいたようだ。
狼たちは死体となった男達を食いあさり、その食欲を満たしていく。
「っ……」
その光景を見た少女達の表情に恐怖の色が浮かんだ。
しかし、身体を巡る毒は、彼女たちに逃げることは愚か、叫び声を上げることすら許さなかった。
やがて、狼たちが少女らに目を向けた。
よほど飢えているのか、よだれを垂らし喉を鳴らしながら少女らの元へとゆっくり近づいてくる。
「た……け……」
声にならないかすれたうめき声のようなものを漏らす。しかし、ここは滅多に人の立ち入ることのない森である。
もはや彼女らの声に応える者などいるはずがなかった。
そして、狼たちは少女らが抵抗できないのを良いことに勢いよく飛び上がった。
「……ぇ?」
一巻の終わりと少女達が目を瞑ったその瞬間、彼女たちを待っていたのは、狼の顎ではなく、狼たちを焼き払う炎の熱さであった。
恐る恐る目を見開くと、目の前で狼たちが燃焼し、もだえ苦しんでいた。
そして次の瞬間、人影が宙を舞ったかと思うと、狼たちの身体は血しぶきを上げてばらばらになった。
「無事かい?」
人影が着地すると、少女達に背を向けながら、そう尋ねた。
驚くことにその声の主は、自分たちとそう変わらない歳の少年であった。
しかし、鎧を纏ったその立ち姿は堂々たるもので、まるで童話に出てくる正義の騎士のようであった。
それが、アベルと四人の戦乙女達の、出会いの日の出来事であった。
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