暗黒騎士と堕ちた戦乙女達 ~女神に見放されたので姫と公女たちに魔神の加護を授けて闇堕ちさせてみた~
射手と巫女
渦巻く劫炎の中、僧兵達は蹂躙を続けていた。
そこでは人の尊厳は踏みにじられ、逃げ遅れた者は彼らの慰み者になるしかなかった。
いや、そもそも女神の代行者たる自分たちに逆らう者は人ですらないと、そう考えているのかもしれない。
「この女はだめだな。恐怖で失神してやがる」
「槍でも突っ込んで無理矢理起こしてみるか? あとはあっちのガキみてえに火の中に放り込んで踊らせてみても面白いかもな」
「なんだ、お前そんなことしてたのか?」
「別にいいだろ。こいつらは背教者だ。それをどう扱おうと俺たちの勝手だ」
兵達は口々に勝手なことを言って、人々を弄んでいく。
「これじゃ、どっちが神の使徒かわかったものじゃないわね」
女の声と共に、風を練り上げて作った矢が僧兵達の眉間を貫いた。
「あ――」
訳もわからず、その頭部を貫かれた兵達はそのまま地面に倒れ込んだ。
「……どうして、どうしてこんなことができるのよ!!」
《魔弾の射手》シャーロットは声を震わせた。
それほど神とは偉大なのだろうか。無辜の民をこうして弄んで許される道理があるのか、彼女には兵達の理屈がわからなかった。
「っ!?」
シャーロットの目の端に、別の市民が襲われようとしている様が映った。
《遠見の魔眼》、彼女の実力に応じた遠くの距離を正確に視認し、狙った地点に確実に矢を飛ばすことのできるスキルであったが、先ほどの《反転》の影響で、今では矢を曲げることで、動き回る対象に確実に当てることすらできるようになった。
シャーロットは弓を引くと、風の矢を生成して一気に解き放った。
その矢は障害物を避け、遠くにいた僧兵の眉間を正確に貫いた。
先ほどから、こうして兵達を倒していたがキリが無く、いかに彼らが正気を失っているのかシャーロットは痛感した。
(早く、こんなこと終わってよ……)
その目端に涙が浮かんだ。
いくら実力者とはいえ、実戦も知らぬ少女だ。今この場で、人の命が奪い奪われ、それに自分が参加していることが耐えられなかった。
*
一方、《深淵の巫女》フローラは、傷病者の救護に当たっていた。
女神の加護を失い、彼女に由来した信仰魔法は扱えなくなっていたが、新たに得た魔神の加護によって、これまでと変わらぬ治癒魔法が使えるようになっていた。
フローラは手と手の間で、魔法の源たる霊子を練り上げると怪しく光る闇の光を生成した。
それを上空で解き放つと、傷病者達の怪我を瞬く間に塞いでいった。
「ありがとうございます。聖女様……」
治癒を受けた男性が礼を述べた。
「い、いえ、私はもう聖女では……」
だが、その聖女という呼び名に違和感しかなかった。
自分は女神の威光を信じ、彼女への信仰が、人々への救済につながると思っていた。
そうして、習得した信仰魔法はフローラの誇りであった。
しかし実際は、邪神と蔑まれる存在の加護を受けても、治癒の魔法は行使し得るし、女神の僕を自称する者達は、略奪や蹂躙に手を染めていた。
自分の信じてきたものは何なのか、その自問自答が彼女の頭を困惑させていた。
その時、建物の戸が勢いよく開かれた。
「おっと、こんなところに人が逃げ込んでいやがった」
「それに、この女。《聖女》じゃねえのか?」
「あのお飾りの。クク、こいつがよそに向かって良い顔してくれるもんだから、俺たちも随分とやりやすかったな。聖女サマへ寄付する人間は後を絶たねえから、俺たちの懐もだいぶ潤ったぜ」
寄進の着服、それは当たり前のように行われていた。一体、どれほど教会は腐敗していたのだろうか。
「あなた方には、慈悲の心はないのですか?」
「慈悲の心だあ? つまらねえこと言いやがって。俺たちは俺たちの欲するままを行っただけだっつーの」
「ああ、それで弱者どもがどうなろうと知ったことじゃねえな」
そう言って兵達は腰元の剣を引き抜いた。
「そうですか……」
心底失望したようにただ一言、そう漏らすと、フローラは一瞬で姿を消した。
「はぁっ!!」
次の瞬間、闇の光を纏った拳の一撃を、兵達の腹部に叩き付けた。
兵達はそのあまりの衝撃に吹き飛ばされ、床を転がっていった。
「人の善意につけ込むことは決して許されません。それが人の道理。あなた方が、全能と驕り、人の道理を踏みにじるのであれば。私がその性根を叩き直してあげましょう」
フローラは拳を構えると、全身から黒い闘気を発し、地面を蹴り上げた。
そこでは人の尊厳は踏みにじられ、逃げ遅れた者は彼らの慰み者になるしかなかった。
いや、そもそも女神の代行者たる自分たちに逆らう者は人ですらないと、そう考えているのかもしれない。
「この女はだめだな。恐怖で失神してやがる」
「槍でも突っ込んで無理矢理起こしてみるか? あとはあっちのガキみてえに火の中に放り込んで踊らせてみても面白いかもな」
「なんだ、お前そんなことしてたのか?」
「別にいいだろ。こいつらは背教者だ。それをどう扱おうと俺たちの勝手だ」
兵達は口々に勝手なことを言って、人々を弄んでいく。
「これじゃ、どっちが神の使徒かわかったものじゃないわね」
女の声と共に、風を練り上げて作った矢が僧兵達の眉間を貫いた。
「あ――」
訳もわからず、その頭部を貫かれた兵達はそのまま地面に倒れ込んだ。
「……どうして、どうしてこんなことができるのよ!!」
《魔弾の射手》シャーロットは声を震わせた。
それほど神とは偉大なのだろうか。無辜の民をこうして弄んで許される道理があるのか、彼女には兵達の理屈がわからなかった。
「っ!?」
シャーロットの目の端に、別の市民が襲われようとしている様が映った。
《遠見の魔眼》、彼女の実力に応じた遠くの距離を正確に視認し、狙った地点に確実に矢を飛ばすことのできるスキルであったが、先ほどの《反転》の影響で、今では矢を曲げることで、動き回る対象に確実に当てることすらできるようになった。
シャーロットは弓を引くと、風の矢を生成して一気に解き放った。
その矢は障害物を避け、遠くにいた僧兵の眉間を正確に貫いた。
先ほどから、こうして兵達を倒していたがキリが無く、いかに彼らが正気を失っているのかシャーロットは痛感した。
(早く、こんなこと終わってよ……)
その目端に涙が浮かんだ。
いくら実力者とはいえ、実戦も知らぬ少女だ。今この場で、人の命が奪い奪われ、それに自分が参加していることが耐えられなかった。
*
一方、《深淵の巫女》フローラは、傷病者の救護に当たっていた。
女神の加護を失い、彼女に由来した信仰魔法は扱えなくなっていたが、新たに得た魔神の加護によって、これまでと変わらぬ治癒魔法が使えるようになっていた。
フローラは手と手の間で、魔法の源たる霊子を練り上げると怪しく光る闇の光を生成した。
それを上空で解き放つと、傷病者達の怪我を瞬く間に塞いでいった。
「ありがとうございます。聖女様……」
治癒を受けた男性が礼を述べた。
「い、いえ、私はもう聖女では……」
だが、その聖女という呼び名に違和感しかなかった。
自分は女神の威光を信じ、彼女への信仰が、人々への救済につながると思っていた。
そうして、習得した信仰魔法はフローラの誇りであった。
しかし実際は、邪神と蔑まれる存在の加護を受けても、治癒の魔法は行使し得るし、女神の僕を自称する者達は、略奪や蹂躙に手を染めていた。
自分の信じてきたものは何なのか、その自問自答が彼女の頭を困惑させていた。
その時、建物の戸が勢いよく開かれた。
「おっと、こんなところに人が逃げ込んでいやがった」
「それに、この女。《聖女》じゃねえのか?」
「あのお飾りの。クク、こいつがよそに向かって良い顔してくれるもんだから、俺たちも随分とやりやすかったな。聖女サマへ寄付する人間は後を絶たねえから、俺たちの懐もだいぶ潤ったぜ」
寄進の着服、それは当たり前のように行われていた。一体、どれほど教会は腐敗していたのだろうか。
「あなた方には、慈悲の心はないのですか?」
「慈悲の心だあ? つまらねえこと言いやがって。俺たちは俺たちの欲するままを行っただけだっつーの」
「ああ、それで弱者どもがどうなろうと知ったことじゃねえな」
そう言って兵達は腰元の剣を引き抜いた。
「そうですか……」
心底失望したようにただ一言、そう漏らすと、フローラは一瞬で姿を消した。
「はぁっ!!」
次の瞬間、闇の光を纏った拳の一撃を、兵達の腹部に叩き付けた。
兵達はそのあまりの衝撃に吹き飛ばされ、床を転がっていった。
「人の善意につけ込むことは決して許されません。それが人の道理。あなた方が、全能と驕り、人の道理を踏みにじるのであれば。私がその性根を叩き直してあげましょう」
フローラは拳を構えると、全身から黒い闘気を発し、地面を蹴り上げた。
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