看板の無い花店

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2話・ 親子

看板の無い花店




2話・親子




昔懐かしい駅前商店街。
20年来この町へは住み着いて居たから、時代の変化を見る様にこの町の様変わりさも感じてきた。
閉店後のシャッターが時代の流れと共に上げられる事も少なくなって寂れた通りの一角に花店がある。
幼少期に何度か母に連れられて来た記憶だけの店に今日は数十年ぶりに一人で入ってみた‥。




「ごめん下さーい‥」
『あ、いらっしゃいませー』‥




ハッ‥と、驚いて立ち竦んだ‥
「すいま‥」(すいませーん)とぼくが言いながら店に入ろうとした丁度その時、後方から同じように店へ入ろうとした親子連れが同じタイミングで入って来た。
しかも、僕の身体を透かして通り過ぎる様に。よく見ると半透明の姿にも見える‥親子が透けて見えたのだ。


ぼくは唖然として、そのままその透けて見える親子を眺める。
後ろ姿だけではあるが、何処と無く見覚えがあり懐かしく思える2人だった。母親らしい人は中年風でヘアスタイルはツイギーの様に、左手には籐の様な買い物籠を提げて居る。
子どもは5歳児くらいで、片手にはテレビの戦闘ロボットのソフビのおもちゃをしっかりと握って居る‥
ぼくが何度かココへ訪れた年齢の頃とほぼ同じくらいだった。


店の女の人は笑顔で、この親子を接客しているがぼくの目からは亡霊の様なお客にしか見えない、それはまるでショウウィンドウに透き通ったように反射して見える幻影の様に、店員の女の人も薄明るい店内でチラリと、たまにハッキリしたりボケて見えたりして、こちらには気が付いて居ない様子だった。それともぼくの事がココに居る人たちには見えて居ないのかな?と思い半信半疑で妄想したりして困惑しながらも、花店の様子を入り口で暫し眺めて棒立ちしている。


母親らしい人は、店員と世間話を大声で話している‥とても和やかで二人とも満面の笑みで、宝くじにでも当たった後の様に嬉しそうに会話をしている様に見える。


息子さんらしき男の子は、花には興味が無いようでレジカウンターの真ん前に置かれているディスプレイ用と思われる水槽の中の緑亀と、浅めの甕に入ったホテイ草と水草でいっぱいの中を泳ぐメダカをしゃがみ込んで交互にジッと観ている様子だったが、何もぼくからは後ろ姿だけしか見えて居ない。


幼い子どもだから、店先で大人の買い物の時は別行動になるのは当然だが、この親子の静かな暗黙の了解の様なルールが漂って居たのが印象的だった。


不思議そうに、変な発汗を感じながら暫く眺めて居ると、母親は世間話も買い物も終えた様で男の子の名前を言い手に手を取って、店員さんにお辞儀をして帰ろうと入り口に居るぼくの方へ振り返る、気になっていた顔も見えるかとドキドキと心臓が高鳴る。


親子が振り返って、こちらへ向かって近づいて来る。しかし顔の部分だけが暗く靄がかかった様にハッキリとは見えない。次第に近づいて来てぶつかりそうになる‥、
あと数センチまで迫った瞬間、
ぼくは怖くなって目を力強く閉じてしまう‥ワッ!と声をあげた。






(つづく)



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