魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画ディレッタント

面談再び 迷うマノンと、迷わないエステル

 不遜公の肉体製造は、ネリーの自宅でなければ設備が整っていないという。
 よって、ネリーは学校を早退した。




 放課後、ネリーの家へ。
 向かったのはマノン、エステル、担任の三人だ。




 ノームの家というが、天井が高めに作られていた。




「自分たちのサイズに合わせて、小さめの家なんだと思ったわ」
「オイラたちノームの元へは、ほかの種族も依頼にくるからねっ」


 建築や力仕事でゴーレムを扱うため、来客が多いらしい。


 二階に上がった。人型や機材だらけの部屋である。とても、女の子が使っているとは思うまい。


 手術台に載せられているのは、不遜公オデットである。オデットは、今のところ落ち着いていた。


 担任は、遠慮せずにクッションへ腰を下ろす。
「さてマノン、不遜公のボディができあがるまで、面談するか」


「やるの?」


「お前さんの面談だけ、まだだったからな」
 足を組んで、担任がマノンに、自分の前に座るよう指示する。


「ちょっと待ってよ!」
 担任の言葉に、エステルが異議を唱えた。


「んだよ、エステル?」
 面倒くさそうに、担任はエステルの方を向く。


「アタシはいいの?」


 そういえば、エステルの面談もまだだった。エステルが嫌がっているのもあるが。


「いいんだよ。お前は」
 手をヒラヒラさせながら、担任は短く返した。


「お前は、実戦形式で済ませたからな。もういいや。お前の場合、会話より実戦で聞いた方が早い」
「ちょっと。投げやりじゃないかしら?」


「逆に聞くが、自分が何に悩んでるか、なんのために冒険者になるのか意見をまとめられるか? 第一、動機の言語化なんて無理だろ、お前?」


「そりゃあ、そうだけど」
 図星をつかれたのか、エステルも反論しなくなる。


「でも納得がいかないわ! 説明してちょうだい!」
「じゃあ聞くが、お前は誰かに雇われて過ごしたいか? ずっと同じ地域で、ずっと同じ仲間とつるんで一生終わりたいか?」
「そんなの、イヤに決まってるじゃない!」


 エステルの言葉を待っていたかのように、担任はニンマリと笑った。


「自分でも分かってるんじゃねーか。お前さんは冒険者に向いてるんじゃねえ。冒険者以外の選択肢がねえんだよっ!」
 担任が、エステルを指さす。


「お前は生まれついての冒険者だ」
「どうしてそう言い切れるのよ?」
「それ以外に、目が向いていないからだ」


「ん? どういう意味よ?」
 言葉の真意が理解できないからだろう。エステルは抗議した。


「お前の家系は勇者だ。そもそも雇われるのが嫌いだろ? 終始偉そうだからイヤなヤツにも頭を下げられない。だから商人にも向いていない。商売人に大切なのはコミュ力だからな」


「武道を嗜んでるから、騎士とか、近衛兵なら雇い口があるかも。人と話さなくていい」
 マノンも、エステルの働き口を提案してみる。


「自分の感情しか信じないヤツが、騎士様に向いているか? 異論があれば、エステルは女王陛下にさえ噛み付くぜ」
 まるで、エステルの未来を見てきたかのように、担任は結論づけた。


「だから騎士も無理。となりゃあ、選ぶべき道は一つだ」


「冒険者」


「そーいうことっ」


 マノンの出した解答に、担任はうなずく。


「本人にもそれが分かってる。だから、こいつは騎士ではなく、戦乙女ヴァルキリーを選んだ。親への憧れもあるだろうけどな」


 実に的確な分析だ。エステルのことをエステル以上に把握している。


「つかエステル、お前はよそ見しない方がいいんだよ。お前みたいなヤツは、一旦迷うとずーっとその場で立ち止まって、前に進まなくなる。だから冒険者になる道だけ見ていればいい。だってよ、よそ見した方がいいヤツが、側にいるんだからよ」
 そう言い、担任はマノンの方を見た。


「わたし?」と、マノンは自分を指さす。


「ああ。お前はめいっぱい迷え。処理速度が速いお前さんなら、迷っても答えに辿り着く。前に進める。判定はエステルの直感に任せればいい」


「はい。先生」


「お前さんが側にいたら、エステルは絶対に間違えねえし、道を踏み外すこともない。お前が立ち止まったら、マノンは解答を導き出してくれる。マノンが迷ったら、お前が勘で難題から連れ出せばいい」


 確かに、自分はエステルとずっとそうしてきた気がする。
 マノンが迷ったら、ずっとエステルに決めてもらっていた。
 だが、マノンの言葉も尊重してくれる。




 分析はマノンが、決断はエステルが行ってきた。


「お前たちは、二人で一人の冒険者だ。お互いを大事にしろよ」 


「ふうん」と、なぜかエステルは頬を膨らます。


「なんだ、つまんねーか?」


「別にそんなんじゃないわよ! それよりマノン、アンタがなんで冒険者にこだわるのか、コイツが聞きたいそうよ!」
 自分をいじられたくないのか、エステルは強引に話を戻した。


「じゃあ聞くぜ、マノン。お前さんはなんで、冒険者になりたいんだ?」


 担任が、いつものように、イスの背を抱えながら尋ねてくる。


「わたしは、ずっと誰かに何かをもらう日々だった」

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