魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画ディレッタント

ピエレットのアイデンティティ

 イノシシの脳から、この魔神結晶を取り出したらしい。


「あのとき、イノシシは魔神結晶で暴走していたのか」


 埋め込んだのは、おそらく、先日対面した魔族だろう。


「もし、マノンが戦い続けていたら?」
「マノン生徒は、イノシシに攻撃されて死んでおったろう」


 ジャレスは、彼女を助けて正解だったのだ。


「イノシシなんかに魔神結晶などを移植して、あの魔族は何を企んでやがる?」
「分からぬ。ただ、いきなり人間相手に仕込むよりは効果的だな」 


 変に肉体増強が起きれば、狡猾になりすぎるなどになって、回収できなくなる。
 動物などの御しやすい相手で実験する方がいいらしい。


「精霊石になっているってコトは、浄化は済んでるんだな?」
「先日浄化が終わった。これはいただくぞ」
「ああ。いいぜ。好きに使え」


「では、これも添えて、と」
 精霊石が追加され、魔神結晶の浄化がより早まっていった。 


「暇そうだな、ピエレット」
「これから忙しくなるの! 魔神結晶の解析は、我々精霊が一丸となって進めなければ。今日も徹夜なの!」
 心外だ、といわんばかりに、ピエレットは噛み付く。


「ウスターシュ一人が担当するんじゃないんだな?」


「当たり前なの! 何のために使い魔がいると思ってるの?」
 精霊たちは、自分たちで敵を攻撃できない。
 その代わり、魔神の力を浄化できる。


 魔族や魔神が頻繁に襲ってこないのは、精霊たちが目を光らせているためでもある。


「マスコットかと思ったぜ」
「そういう愛眼動物的な癒やし効果も含めて、我々使い魔はこき使われる運命なの! リラックスの必要性が理解できないの?」
「愛玩動物ってのは、否定しないんだな?」


「もちろんなのっ。わたくし、カワイイからなの」
 スプーンサイズの手鏡を持ちながら、ピエレットはうっとりした顔をする。


 ジャレスはウスターシュと肩をすくめ合った。


「で、どうなんだ。魔族の動向とかは分かりそうか?」


「これだけではなんとも言えぬ。相手も使い手だ。自分のシッポを掴ませることなどあるまい」
 ウスターシュは諦めモードである。


「これっぽっちの魔力では、触媒程度の役割しか持っておらぬ。これ単体で何かコトを起こせるとは考えにくい」
「魔王を呼び出すまでには至らないと」
「うむ。せいぜい上位魔族の身体に埋め込んでパワーアップするくらいしか、使い道はない」


 行き詰まった。まだまだ情報が足りない。


 だが、することはある。


「ちょっくら、試してみるか」
「何をするつもりなの?」


 勘ぐってくるピエレットに対し、ジャレスはなにも言わず、ドアを開ける。


「ピエレット、ヘタすりゃ、お前さんの出番はないぜ」
「どういう意味なの!? ご主人にこき使われなければ我々使い魔のアイデンティティはなくなるの!」


 どこまでマゾなのか。

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