魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画ディレッタント

精霊たち

 ジャレスとウスターシュは、向き合いながら赤い宝石とにらめっこしていた。
 ここは、学園長のラボである。
 外見は小さな木製の小屋だ。実際は体育館並みの広さがある。
 空間を操作する魔法で、偽装しているのだ。
 家具一切はすべて、空間をずらして配置している。
 

 盗賊が来たら、何もない小屋を探し回ることだろう。


 さらに、酸素すら奪われる仕掛けすら発動しかねない。
 冒険者学校から少しばかり離れた場所に位置している。情報漏洩を防止するためだ。


「現在、魔神結晶の解析を急がせている。持ち主が特定できたら伝える。ついでに浄化もしておいてやろう」


 魔方陣の書かれた金床の上に魔神結晶を乗せ、周囲を精霊石で覆っていた。
 

 本来、精霊は魔神の影響を受けない。
 木々や宝石などの触媒がなければ、現世に干渉できないからだ。
 この世界で破壊活動ができない反面、不老不死で無害な存在である。
 



 魔神の毒素を抜くには、精霊の力が要る。
 だが、魔物や魔族によって触媒を食い破られると、精霊は顕現できなくなってしまうのだ。




「精霊の利点を逆手に取られたの。もう油断しないで欲しいの」
「うむ。少し魔族らを軽視しすぎていたかもしれん」


 虹色の光を放ち、精霊石が魔神結晶を浄化にかかる。


「こいつが魔神結晶を浄化し、新しい精霊石にするんだな?」


 精霊石は魔法石の超上位互換で、精霊たちの力の結晶だ。
 人間どころか魔族にさえ扱いが難しい。
 ただ、自然界に放置しておけば、荒れ地にすら緑の大地をもたらすと言われている。


「さよう。また邪悪な力が弱まるはずだ。これで、再び森を活性化させる」


 賢者の石より解読が難しい魔導具の解析を、ウスターシュはやってのけようというのだ。
 精霊の力も結集させて。冒険者学校の学長として、魔神結晶の解析と浄化は急がねばならない。


「期待しねえで待ってるぜ」


「人に依頼を任せておいて、報酬のひとつもないなんて、おかしいの」
 ティーカップで湯浴みをしていたピエレットが、ザバーッと湯船から跳ね上がった。


「分かってるよ。こいつで足りるかい?」
 報酬として、ジャレスはウスターシュに魔法石を差し出す。
 昨日、倒したモンスターから回収したものだ。


 魔法石は、モンスターの体内を解体して手に入れる。


 セラフィマの家などは、冒険者から魔法石を買い取って、装備品に加工する。
 その後、必要な業者に売るのだ。


「いらんよ。その代わり、これをくれるか?」
 ウスターシュの手には、米粒大の宝石が握られていた。


「精霊石! どこで手に入れた?」




「お前がマノン生徒と倒した、イノシシからだ」

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