魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画ディレッタント

グラスランナーのイヴォン

 続いては、ネリーだ。
 何の悩みも持っていなさそうだが。


「部活作りたいんだけど、許可をもらえなくってー」


 ここで「友達を作りたいがどうすれば」なんて相談来ないあたり、いかにもネリーっぽい。
 彼女のようなタイプは孤独こそを好む。自分について行けない人間の思想速度など邪魔だから。


「粘り強く相談するこったな。で、どんな部活をする気だ?」


「ゴーレム部」


「オレ様でも却下するかな?」


 ネリーが「えー」とむくれる。
「じゃあさ、担任が顧問になってよー」


「オレ様はゴブリンロードの砂礫公だ。ゴーレムロードにはなれねえよ」


「ゴーレムの魔王ってどんな感じ?」


 そういえば、久しく見ていない。顔を見せに行くのもいいかも。




 夕方近くになる。現れたのは、グラスランナーの少年だ。
 ジャレスも相当背が低いが、彼はそれ以下だろう。


「イヴォン・サン=ジュストくんねぇ。たしか、男子の学級委員だったな。どうした?」






「あの、僕。実は、冒険者になりたくないんです」






 最初こそ自信がなさげだったが、イヴォンは一言告げると顔つきが変わった。




 やはり、こんな相談が来たか。誰かが話しに来ると思っていた。




「そんなイヴォン君は、何がしたいんだ?」


「目標が冒険者じゃないのは、確かなんです。といっても、何をしたいのか、自分でも分からなくて。勉強は好きなんですけど、それが将来とは結びつかなくて」


 イヴォンは優秀なはずだ。
 しかし、それなりに頭打ちをしているのか、伸び悩む時期なのか。思春期ってワケでもなさそうだ。


「変でしょうか? ボクの家族や親戚も、みんな冒険者で。叔母さんなんて特にひどいんです」


 イヴォンを冒険者学校に入学させたのは、叔母だという。
 叔母の指示で、イヴォンはクラス委員まで務めさせられていた。


「一度話してみたんです。でも、ウチは視野が狭くて。冒険者以外は価値がないと」


「妙だな。グラスランナーってのは、元々冒険が好きじゃない種族だぜ。インドア派、とは言えないが」


「何をおっしゃる! インドアこそ最高のライフスタイルじゃないですか!」
 食い気味で、イヴォンは身を乗り出す。


 グラスランナーは「草原を走る種族」という意味を持つ。
 性格はいたって牧歌的だ。
 羊飼いや吟遊詩人、踊り子などの職業を好む。
 冒険・戦闘より地元の産業・興業を愛する種族である。


 マノンにイノシシ退治を依頼してきた農夫も、グラスランナーだった。


 たいていのグラスランナーは、自分のテリトリーに出ることを嫌う。
 それがどうして、冒険者を目指すのか?


「叔母さんが『赤き戦乙女』の仲間だったそうで。それが自慢なんです」


「あー、あいつかー」


 知っている。エステルの母親だ。
 ジャレスも顔見知りなのである。


 インドアだが好奇心旺盛なグラスランナーには、格好の話の種といえた。


 英雄譚にかぶれたな、これは。


「叔母さんは二言目には『私の若い頃は』って武勇伝を始めちゃって。もう四五になるのに家庭も作らずに。あんなの見ていたら、余計に冒険者なんて憧れなくなりますよ」


 ジャレスは悩む。


 イヴォンが冒険者になりたくない本質は、その叔母のせいだ。


 こんな窮屈な生活を自分が送らされていたら、ジャレスなら間違いなく逃げると思う。


「オレ様も、訓練当時はしょうもなかったなー。人間とあんまり馴染めなくてな。戦闘訓練は良かったんだよ。けどな、テーブルマナーまで指摘されたときは、指導者をフォークでぶっ刺してやろうか、って思ったもんだぜ」


 ジャレスの過去を聞き、イヴォンが笑顔を見せた。 




「結論から言おう。夢なんて追わなくていい」




「へ?」

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