魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画ディレッタント

最悪を超えし者《ビヨンド・オブ・ワースト》

 老人の隣にいる女性教師が、眼鏡をつり上げた。
「妙に騒がしいと思ったら、ジャレス先生! 何があったか説明していただけますね?」


「いやあ、ちょっとトレーニングをね」
「グラウンドに穴を開けて、訓練用バリスタまで壊して修行ですとおっしゃるの?」
「勘弁してくださいよぉ。こんな場所にあるのが悪いんだから」


 担任の一言で、女性教師の顔がゆでダコのようになる。
「なんですって……校長!」
 女性教師が、魔導師の校長に話を振った。


「ジャレス、またお前か」
 まるで友達のように、ウスターシュ校長は担任と話す。


「いやぁ、トレーニングっていやあ、実戦が一番冒険者の素が出るだろ? この方が手っ取り早いって」
「だからといって、全力を出せとは言ってない。何のために制服があるというのか?」
「これじゃ足かせだっての」
「足かせにしているのだ! 生徒を鍛えるために!」


 冒険者学園の制服は、危機回避による力のセーブだけが目的で作られていない。
 力を押さえ込むことで、自力を鍛錬している。着るだけでトレーニングとなるのだ。


「限界を知らなくっちゃあ、意味ねえよ。若いウチに力を温存してどうするよ? 若さは発散するためにあるんだぜ?」


 若者に理解をしようとした発言なのだろうけれど、担任の発言は年寄り臭い。


「いざというときのためだ。誰がこんな場所で魔王討伐なんぞやれといった?」


 生徒がざわついた。「魔王だと?」「どこにそんなヤツが?」「まさか、この学園にいるのかしら?」


 ウスターシュ校長が、手を前にかざして生徒たちを黙らせる。


「あの、お言葉ですが校長先生。魔王なんて、いったいどこに?」
 生徒を代表して、セラフィマがウスターシュに問いかけた。






「何を言う? ここにおるではないか!」
 ウスターシュ校長は、担任を指さした。




「ここにいるゴブリンの教師こそ、かつて西の大陸にある森を支配していたBOWビヨンド・オブ・ワーストの一人、『砂礫公されきこう』のジャレス・ボゥ・ヘイウッドなるぞ」






「BOW!? このゴブリンが、魔王である称号『最悪を超えし者ビヨンド・オブ・ワースト』の所持者ですの?」
 セラフィマが、鉄扇で担任を差した。




最悪を超えし者ビヨンド・オブ・ワースト




 小学校の教科書にも出てくる、有名な魔王たちの総称だ。
 魔神と戦って勝利し、下級の魔物から魔王となった怪物たちである。


砂礫公されきこう』は、BOWの中でも特に危険と教わってきた。


 誰にも気づかれずに前線で指揮を執り、自分が大将であると思わせない。
 その狡猾な戦いぶりから、「砂礫公」、または「石ころ公爵」と言われている。


 それが、担任の二つ名だったなんて……。


「担任が、砂礫公……」
 エステルが、マノンの隣で拳を握りしめた。

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