魔王、なぜか冒険者学校の先生になって、英雄の子孫を鍛え直す

しーとみ@映画ディレッタント

石ころ公爵 ジャレス・ヘイウッド

 野盗討伐の任を受け、ジャレス・ヘイウッドは根城である洞窟を襲撃した。


 最前列にて、ジャレスは配下のゴブリン共に指示を飛ばす。
 その数、たった二〇匹。
 でありながら、一〇〇を超える大部隊を壊滅させた。
 対して、こちらの被害はゼロである。


 ジャレス含め、全員が身長一二〇センチと、六歳児程度の背丈しかない。


 ジャレスは軽い身のこなしで壁をよじ登り、小さすぎる身体を洞窟のスキマにねじ込む。腰に携帯していた魔導銃を取り出し、構える。


 狙いを定め、炎の弾丸を次々と撃ち出した。相手を気絶させる程度にまで、火力は落としてある。


 野盗が避けた先まで追いかけ、一人一人確実に仕留めていった。


「魔法銃」は、ドワーフやノームと共同で開発された代物である。大昔からある技術で、今となってはさして珍しい物ではない。
 そのため、野盗共も油断していたのだろう。


「ギャハハッハーッ!」


 時々奇声を上げながら、ジャレスは目立つところにヒョッコリと現れる。


 そのスキに、背後から部下のゴブリンたちが野盗を撃つ。


 的が小さいためか、盗賊団は攻撃を当てられない。
 自軍の基地にいながら、盗賊団は窮地に陥っていた。
 自らの城が、逆に牙を剥く。
 これ以上に恐ろしい罠はない。


 粘り強い作戦にて、ジャレスは野盗をアジトに押しとどめている。
 相手が持っているであろう「実家のような安心感」を、ジャレスはたちどころに潰して回った。


「ちくしょう、どいつが指揮官か分からねえ!」
 苦し紛れに、野盗の一人が言い訳がましい言葉を吐く。
 大事な宝や商品の女を守ろうと、ホームグラウンドを手放そうとしなかった野盗たちが悪いというのに。


「役立たず共が!」
 野盗の頭が、シミターを手にして立ち上がる。


「こんなチビ一匹に何を手こずってやがる? 要は一匹ずつ殺せばいいのよぉ!」
 野盗頭が凶器を投げ飛ばした。


 ジャレスが隠れていたトンネルに、シミターの刃が激突する。
 洞穴は破壊されたが、ジャレスは難なく避けた。


 凶器がブーメランの様に、ジャレスの背後をとらえる。


 何のためらいもなく、ジャレスは迫り来る凶器の前に振り返った。


「バカが! 死ねえ!」


 野盗の頭がナイフを背中から引き抜くのが、蛮刀の表面に映る。


 ジャレスは振り向きもせず、肩越しから銃でナイフを弾き飛ばす。
 二撃目で、野盗の心臓を撃ち抜く。ただ、威力は相手を殺さない程度に抑えている。
 首をはねようと迫ってくる蛮刀も、片手で止めた。


「バカな。なんで」
 野盗の大将がヒザを折る。


「こんなもん、止まって見えるぜ」
 蛮刀のブーメランなどで、ジャレスを仕留められると思っていたのか。
 こちらは伊達に「魔王など名乗って」いない。 




「だったら、これならどうだ!」
 野盗の大将が、懐から魔法のランプを出し、こすった。


 ランプの口から、マッチョな男性が現れる。
 上半身は筋骨隆々で、下半身は煙だ。
 小柄なジャレスを見下しているらしく、掛かってこいと手招きをしている。


 ジャレスが炎の弾を射撃した。しかし、煙男を貫通するだけ。
 反撃で、煙男は軽く突風を巻き起こした。
 ゴブリンたちだけでなく、仲間の野盗すら巻き込みケガを負わせる。


「へへへ、魔族からもらい受けたモンスターだ! 俺だって制御できねえ! せいぜいあがきやがれ!」
 大将に促され、野盗たちが逃げていく。


「おいお前ら、さっさと避難しやがれ! 人質をつれてな!」
 この程度の魔力なら、ジャレスは持ちこたえられる。
 だが、配下には辛いだろう。


 人質もいなくなり、一対一となった。


「ムダだ! 死にやがれ!」
 背後で、盗賊の大将がジャレスを罵る。


 ジャレスは耳を貸さず、銃を構えている腕に力を込めた。


 腕を覆う装甲が外れ、宙に浮く。銃を持ったジャレスの腕周辺を取り囲むように。


 ジャレスは隻腕だ。


 剥がれた装甲の内部は、空洞である。
 ジャレスは魔力で、装甲を腕代わりにしていた。


 ジャレスが本気を出すとき、装甲はジャレスの魔力を集める収束装置と化す。
 銃も装甲と混ざり合って、大砲の姿に変わっていた。


「ギャハハハ! こんな魔物程度でオレ様に勝てると思ってんのか?」
 ジャレスが、銃と一体化した腕を突き出す。


 増幅した体中の魔力を、一気に放出した。
 撃ち出された魔力の弾丸は、ランプの魔物はおろか、洞窟さえも突き破る。


 焼け跡から残されていたのは、ススだらけのランプと、小さな石だけだった。
 魔法石と言って、魔物を倒すと取り出せる。


「んだよ、これっぽっちか」
 指でつまめるほどに小さな魔法石を、ジャレスはポケットにしまう。  


「これが、BOWビヨンド・オブ・ワーストの一人、砂礫公されきこうか!」
 いいながら、盗賊の頭が前のめりに倒れた。


 ビヨンド・オブ・ワースト、「最悪を超えし者」というあだ名には、意味が二つある。
 一つは、魔物から生まれた魔王は、貴族階級である「魔族」よりタチが悪いという畏怖から。
 もう一つは、「こんな薄汚ねえヤロウが魔王かよ」という、魔族からの嫌悪感だ。


 野盗共は全滅した。しかし、全員死んではいない。




 ジャレスたちは、洞窟から出る。




 入れ替わりで、アメーヌ国の騎士団が洞窟の中へ殺到した。捕まっていた人々が解放され、盗賊たちが連行されていく。
 これより、彼らを打ち首にするかどうかの裁判が待っているだろう。

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