それでは問題、で・す・が!
6-1
僕たち番組研と聖城先輩との決戦は、期末テスト明けの休み期間中に執り行われることとなった。
舞台は、来住家の所有するプライベートビーチだ。ゴルフ場やキャンプ場などのレジャー施設や、大浴場が自慢の旅館などがある。
このときばかりは、やなせ姉の常人離れした財力に感謝せねばならない。その代わり、僕は残りのテスト休み期間、ずっとやなせ姉のペットにならなければならないが。
期末試験までの間に、参加者を募った結果、結構な数の生徒が集まった。
僕達を乗せたマイクロバスが、目的地に向かう。
高速道路を抜けると、山道や海が目立つようになっていった。まるで、一足早い修学旅行へ行くみたいだ。
僕の隣には嘉穂さん、正面にはのんが座り、嘉穂さんの対面に湊が。僕の後ろの席からやなせ姉が腕を伸ばして、僕の首に回している。
「あ、そうだ、みんな。報告があるんだ」
実はあの後、旧友と電話で話したのだ。
向こうから電話が掛かってきたとき、僕は驚いた。もう二度と話す機会なんて、ないと思っていたから。
道は違うけど、クイズは続けている。今日行われるクイズの話も。
僕がそう伝えると、旧友は、「逃げたわけじゃなかったんだな」とだけ言ってくれた。
「対、聖城頼子の攻略法は思いつかないぞ」と、彼は冗談交じりに言う。
「いいさ」と、僕も帰した。
彼だって、僕の気持ちを理解してくれているとは思う。
嘉穂さんは、自分の目指す道から逃げずに、一歩踏み出す勇気を僕に教えてくれた。
「ありがとう。みんなが言ってくれたから、僕はあいつと和解できたんだ」
「わたしは、何もしてませんよ」
「オイラだって、何もしてないぞ。心配はしてたけど。結局、しょーたが友達と仲直りしたいって気持ちがあったから、前に進めたんだよな」
のんの言うとおりだろう。
僕は、先輩と戦う前に、できるだけ過去のしがらみ、痼りは残しておきたくなかった。
ちゃんと精算して次へ進まないと。
「ウチらができるのは応援だけだよ。最終的には福原が自分で解決したんだからさ」
「そうそう。キッカケは作ったかもワタシ達かも知れないけど、ワタシ達の力じゃないわ」
みんなの言葉を受け止めて、僕は首を振った。
「そこきっかけすら、僕には作れなかった。それだけで、僕は前に進めた。だから、お礼を言わせて欲しい」
僕は、みんなに頭を下げる。
「勝ちましょう。みんなで。それが、わたし達のクイズなんだって」
自信たっぷりの笑顔を、嘉穂さんは見せた。
◆
「さて、ここが、決戦の舞台でございます!」
砂浜には、浅く四角い穴が作られている。穴は人が一人横になれるくらいに広い。
穴へ泥が注がれていく。クイズ研の手によって、泥が砂と混ざり合う。
砂が泥と融合して、ドロドロと粘度を増す。
「まさか、福原が出したクイズ形式が、泥んこクイズとはね」
パーカーを脱いで、湊がセパレートの水着を露わにする。上はいわゆるタンキニ、下はデニムのショートパンツで露出は抑えられているが、この方が湊っぽくていいと思う。
それにしても、出るところは出てるんだな、湊って。全然意識していなかった。学年で一番モテるっていうのも頷ける。
「楽しそうなのだ。○×なら運ゲーだからオイラにもワンチャンあるしな!」
既に、のんは新型スクール水着姿でスタンバっていた。浅い泥プールができ上がる光景にワクワクしている。
「あの、やっぱり恥ずかしいです」
覚悟が決まらないのか、嘉穂さんはバスローブを着たまま、顔を赤らめていた。
「だって、こんなにもギャラリーがいるなんて聞いてません!」
今回も、生徒たちが観戦に来ている。全員が思い思いの水着を着用して、決戦を待ちわびているのだ。
ちなみに、僕の衣装もトランクス型の海パンである。上には、水泳用のパーカーを身につけていた。
「そうは言ってられないでしょ。そおれっ」
やなせ姉が嘉穂さんの肩に手を置いた。バスローブを背後からひったくる。
「ひゃあ!」
嘉穂さんが悲鳴を上げると同時に、二枚のバスローブが宙を舞う。
男子生徒が、感動の声援が上がる。まるで桃源郷を見たかのように。
ふっくらとたわわな果実は、小さな桃色の布に収まりきっていない。
出るところは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。
嘉穂さんは必死に自分の身体を隠そうとしているが、やなせ姉が片手を掴んでポーズを取らせているため、自由が利かない。
「イエーイ!」と、やなせ姉もローブを脱ぎ去った。
やなせ姉もすごいものである。
嘉穂さんと違い、黒ビキニというチョイス。
大きさは嘉穂さんと同じくらいかもしれない。
嘉穂さんと違って背が高いため、大きさと背丈がマッチしている。
身体も引き締まっていて、余計な贅肉もない。
男子生徒たちからは、歓声どころか驚愕のため息が漏れている。
対して、女子は湊やのんに釘付けになっていた。
巨乳組の嘉穂さん、やなせ姉に対して、二人とも細身でスラッとした体系だ。
運動部から引っ張りだこなだけあり、のんはスポーツマン然としたプロポーションを持つ。
湊はモデルかと見間違えるほど、腹がへっこんでいる。水着のセンスもいい。
自分のよいところを引き出す術を、知っているのではないか。
もしかすると、僕はかなりとんでもない人たちを仲間にしてしまったのかも知れない。
「まさか、試験休みがこんな余興で潰れるなんて」
悪態をついて現れたのは、聖城先輩だ。
彼女においては男子からも女子からも歓声が上がった。
なんと、先輩の水着は今年流行のレトロワンピースだ。
青と白のストライプで決めている。
三年生組が近いタイプのワンピースで揃えているところを見ると、友人達に選んでもらったのだろう。けれど、まんざらでもない様子。本当にイヤなら、そもそも参加しない。
カタブツのイメージがあった聖城先輩だが、一番水着に気合いが入っている。
案外一番このゲームを楽しみにしていたのかも知れない。
番組研全員が呆気にとられてしまっている。
当然だ。僕でさえ、先輩はスク水で来るだろうと考えていたのだから。
二年生側に、クイズ研部長である僕の姉が。
姉は色気のないスクール水着だ。ギャラリーにサービスする気はないらしい。今回の姉は目立とうとせず、スタッフに徹している。それがかえって、聖城先輩を目立たせていた。あくまでも聖城先輩が主役であるという、姉なりの判断だろう。
「こ、これしか、なかったの!」
珍しく、聖城先輩は顔を赤らめている。
「あれー? でもタグが付いてますよー?」
やなせ姉がからかう。
「バカな。前日、ちゃんと外したのに!」と、目を丸くして、必死にタグを探す。「タグなんて付いてないじゃないの!」
煽りのプロか、やなせ姉は。
「ひょっとして、浮かれてます?」
「浮かれてなんか!」
やなせ姉の挑発に、聖城先輩は抗議する。
「はいはい。じゃあ、そういう事にしておきます」
「ちょ、待ちなさい!」
去り行くやなせ姉を追うが、責められている側は相手をしない。
なんだかんだ言って、やなせ姉だって、先輩を本気で嫌っているわけじゃないのだ。
色々と蓄積した感情が爆発した程度なのであって。
「やなせ姉さあ、聖城先輩をわざと煽っただろ?」
ゲームを有利に進めるためではない。先輩に楽しんでもらうためだ。
先輩に、そのような自覚があるかどうか挑発して試したんだ。
「うーん、お姉さんわかんないなー」
場を乱す小悪魔は、あくまでも白を切る。
とはいえ、ここまで先輩がノリのいい人だとは思わなかった。
この手の運に頼るクイズには興味が無いと思っていたが、案外、お祭り好きなのかも知れない。
いや、本気の○×は、本気の知識がものを言う。
そうか、やなせ姉は先輩その人ではなく、煮え切らない態度が気にくわなかったんだ。
だから聖城先輩を挑発する、煽る。
長年ペットを担当している経験から、彼女の性格を察すると、ありえると思った。
「どうしたの、晶ちゃん?」
やなせ姉が、探りを入れてくる。
「いや、なんでもないよ」
まさか、あんたの思考を推理してました、なんて言えない。
「変なの」と、やなせ姉は首をかしげる。「早く始めようよ、晶ちゃん」
「そうだね。では、あちらをご覧下さい!」
僕は、砂浜を差した。
舞台は、来住家の所有するプライベートビーチだ。ゴルフ場やキャンプ場などのレジャー施設や、大浴場が自慢の旅館などがある。
このときばかりは、やなせ姉の常人離れした財力に感謝せねばならない。その代わり、僕は残りのテスト休み期間、ずっとやなせ姉のペットにならなければならないが。
期末試験までの間に、参加者を募った結果、結構な数の生徒が集まった。
僕達を乗せたマイクロバスが、目的地に向かう。
高速道路を抜けると、山道や海が目立つようになっていった。まるで、一足早い修学旅行へ行くみたいだ。
僕の隣には嘉穂さん、正面にはのんが座り、嘉穂さんの対面に湊が。僕の後ろの席からやなせ姉が腕を伸ばして、僕の首に回している。
「あ、そうだ、みんな。報告があるんだ」
実はあの後、旧友と電話で話したのだ。
向こうから電話が掛かってきたとき、僕は驚いた。もう二度と話す機会なんて、ないと思っていたから。
道は違うけど、クイズは続けている。今日行われるクイズの話も。
僕がそう伝えると、旧友は、「逃げたわけじゃなかったんだな」とだけ言ってくれた。
「対、聖城頼子の攻略法は思いつかないぞ」と、彼は冗談交じりに言う。
「いいさ」と、僕も帰した。
彼だって、僕の気持ちを理解してくれているとは思う。
嘉穂さんは、自分の目指す道から逃げずに、一歩踏み出す勇気を僕に教えてくれた。
「ありがとう。みんなが言ってくれたから、僕はあいつと和解できたんだ」
「わたしは、何もしてませんよ」
「オイラだって、何もしてないぞ。心配はしてたけど。結局、しょーたが友達と仲直りしたいって気持ちがあったから、前に進めたんだよな」
のんの言うとおりだろう。
僕は、先輩と戦う前に、できるだけ過去のしがらみ、痼りは残しておきたくなかった。
ちゃんと精算して次へ進まないと。
「ウチらができるのは応援だけだよ。最終的には福原が自分で解決したんだからさ」
「そうそう。キッカケは作ったかもワタシ達かも知れないけど、ワタシ達の力じゃないわ」
みんなの言葉を受け止めて、僕は首を振った。
「そこきっかけすら、僕には作れなかった。それだけで、僕は前に進めた。だから、お礼を言わせて欲しい」
僕は、みんなに頭を下げる。
「勝ちましょう。みんなで。それが、わたし達のクイズなんだって」
自信たっぷりの笑顔を、嘉穂さんは見せた。
◆
「さて、ここが、決戦の舞台でございます!」
砂浜には、浅く四角い穴が作られている。穴は人が一人横になれるくらいに広い。
穴へ泥が注がれていく。クイズ研の手によって、泥が砂と混ざり合う。
砂が泥と融合して、ドロドロと粘度を増す。
「まさか、福原が出したクイズ形式が、泥んこクイズとはね」
パーカーを脱いで、湊がセパレートの水着を露わにする。上はいわゆるタンキニ、下はデニムのショートパンツで露出は抑えられているが、この方が湊っぽくていいと思う。
それにしても、出るところは出てるんだな、湊って。全然意識していなかった。学年で一番モテるっていうのも頷ける。
「楽しそうなのだ。○×なら運ゲーだからオイラにもワンチャンあるしな!」
既に、のんは新型スクール水着姿でスタンバっていた。浅い泥プールができ上がる光景にワクワクしている。
「あの、やっぱり恥ずかしいです」
覚悟が決まらないのか、嘉穂さんはバスローブを着たまま、顔を赤らめていた。
「だって、こんなにもギャラリーがいるなんて聞いてません!」
今回も、生徒たちが観戦に来ている。全員が思い思いの水着を着用して、決戦を待ちわびているのだ。
ちなみに、僕の衣装もトランクス型の海パンである。上には、水泳用のパーカーを身につけていた。
「そうは言ってられないでしょ。そおれっ」
やなせ姉が嘉穂さんの肩に手を置いた。バスローブを背後からひったくる。
「ひゃあ!」
嘉穂さんが悲鳴を上げると同時に、二枚のバスローブが宙を舞う。
男子生徒が、感動の声援が上がる。まるで桃源郷を見たかのように。
ふっくらとたわわな果実は、小さな桃色の布に収まりきっていない。
出るところは出て、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。
嘉穂さんは必死に自分の身体を隠そうとしているが、やなせ姉が片手を掴んでポーズを取らせているため、自由が利かない。
「イエーイ!」と、やなせ姉もローブを脱ぎ去った。
やなせ姉もすごいものである。
嘉穂さんと違い、黒ビキニというチョイス。
大きさは嘉穂さんと同じくらいかもしれない。
嘉穂さんと違って背が高いため、大きさと背丈がマッチしている。
身体も引き締まっていて、余計な贅肉もない。
男子生徒たちからは、歓声どころか驚愕のため息が漏れている。
対して、女子は湊やのんに釘付けになっていた。
巨乳組の嘉穂さん、やなせ姉に対して、二人とも細身でスラッとした体系だ。
運動部から引っ張りだこなだけあり、のんはスポーツマン然としたプロポーションを持つ。
湊はモデルかと見間違えるほど、腹がへっこんでいる。水着のセンスもいい。
自分のよいところを引き出す術を、知っているのではないか。
もしかすると、僕はかなりとんでもない人たちを仲間にしてしまったのかも知れない。
「まさか、試験休みがこんな余興で潰れるなんて」
悪態をついて現れたのは、聖城先輩だ。
彼女においては男子からも女子からも歓声が上がった。
なんと、先輩の水着は今年流行のレトロワンピースだ。
青と白のストライプで決めている。
三年生組が近いタイプのワンピースで揃えているところを見ると、友人達に選んでもらったのだろう。けれど、まんざらでもない様子。本当にイヤなら、そもそも参加しない。
カタブツのイメージがあった聖城先輩だが、一番水着に気合いが入っている。
案外一番このゲームを楽しみにしていたのかも知れない。
番組研全員が呆気にとられてしまっている。
当然だ。僕でさえ、先輩はスク水で来るだろうと考えていたのだから。
二年生側に、クイズ研部長である僕の姉が。
姉は色気のないスクール水着だ。ギャラリーにサービスする気はないらしい。今回の姉は目立とうとせず、スタッフに徹している。それがかえって、聖城先輩を目立たせていた。あくまでも聖城先輩が主役であるという、姉なりの判断だろう。
「こ、これしか、なかったの!」
珍しく、聖城先輩は顔を赤らめている。
「あれー? でもタグが付いてますよー?」
やなせ姉がからかう。
「バカな。前日、ちゃんと外したのに!」と、目を丸くして、必死にタグを探す。「タグなんて付いてないじゃないの!」
煽りのプロか、やなせ姉は。
「ひょっとして、浮かれてます?」
「浮かれてなんか!」
やなせ姉の挑発に、聖城先輩は抗議する。
「はいはい。じゃあ、そういう事にしておきます」
「ちょ、待ちなさい!」
去り行くやなせ姉を追うが、責められている側は相手をしない。
なんだかんだ言って、やなせ姉だって、先輩を本気で嫌っているわけじゃないのだ。
色々と蓄積した感情が爆発した程度なのであって。
「やなせ姉さあ、聖城先輩をわざと煽っただろ?」
ゲームを有利に進めるためではない。先輩に楽しんでもらうためだ。
先輩に、そのような自覚があるかどうか挑発して試したんだ。
「うーん、お姉さんわかんないなー」
場を乱す小悪魔は、あくまでも白を切る。
とはいえ、ここまで先輩がノリのいい人だとは思わなかった。
この手の運に頼るクイズには興味が無いと思っていたが、案外、お祭り好きなのかも知れない。
いや、本気の○×は、本気の知識がものを言う。
そうか、やなせ姉は先輩その人ではなく、煮え切らない態度が気にくわなかったんだ。
だから聖城先輩を挑発する、煽る。
長年ペットを担当している経験から、彼女の性格を察すると、ありえると思った。
「どうしたの、晶ちゃん?」
やなせ姉が、探りを入れてくる。
「いや、なんでもないよ」
まさか、あんたの思考を推理してました、なんて言えない。
「変なの」と、やなせ姉は首をかしげる。「早く始めようよ、晶ちゃん」
「そうだね。では、あちらをご覧下さい!」
僕は、砂浜を差した。
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