それでは問題、で・す・が!
5-6
撮影終了後、荷物を取りに部室へ。
「ごめんなさい!」
戻ってきてから、嘉穂さんはしきりに頭を下げていた。
「わたしが変な提案をしたばっかりに、みなさんに迷惑を」
「迷惑なんて思ってないよ。むしろ、僕から提案したかったくらいだ」
改めて、普通の早押しでは生徒会長には勝てないと分かった。
要は、それ以外のクイズに切り替えれば済む話である。
その形式をいかに面白くするか。今はそれについて悩めばいい。
「でもなー、あの先輩との勝負なんだが、オイラは戦力になるのか?」
珍しく、のんがションボリした表情を、僕たちに向ける。
「何があったんだよ?」
「だってさぁ、オイラだけあまり答えられなかったし」
僕が、聖城先輩との対戦において、もっとも懸念していた要素が、これだ。
心を折られてしまうのではないか。
圧倒的すぎる知識量の前に、誰かがひれ伏し、早押しボタンから手を離してしまうのでは。
実際、そういった心理戦も、クイズ大会では必要だろう。
だが、番組研では評価しない。
誰でも楽しめるクイズを。それが僕達の目指す番組なのだから。
「そこは気にすることじゃないだろ。戦力的な事は期待していないんだよ」
のんや湊には、「強さ以外の面を強化したかった」から入れたんだ。
点差を離されても挫けない心、苦境でも助け合うチームワーク。
一問も答えられなかった、とのんは言う。
「けどな。それだと嘉穂だけで戦うことになるんだろ?」
僕は黙り込む。のんの言うとおりだ。
いくらエンジョイを貫こうとしても、その負担は、全て嘉穂さんに向いてしまう。
さみしげな雨音が、窓を叩く。
梅雨の時期に入り、連日雨が続いていた。
「ウチとしてはさ、ただ、勝つだけじゃダメだと思うんだよ」
ずっと窓を眺めていた湊が、ふと口を開く。
「完膚なきまでに叩きのめせと?」
「そうじゃないよ」
「じゃあ、どうすればいいって、湊は思うんだよ?」
「嘉穂たんが普通に戦って、聖城先輩に勝つだけじゃ、番組研が勝った事にはならない」
チーム全員で勝つ、って事か。
「圧倒的な点差なんていらない。ウチらが楽しんで、相手にも楽しんでもらって始めて、あの人も救われるんじゃないかな」
窓を見つめながら、湊は考えを述べていく。まるで、考えながら話しているみたいに。
「そんなの、どうやって?」
「これから考えるさ」
湊は腕を組んだ状態で、また雨粒の軌道を見守る作業に戻ってしまった。
沈黙が続く。こんなに静かな部活は、活動が始まって以来かも知れない。のんのお茶を啜る音だけが響く。
「あのさぁ、思いついたんだけどさ」
小さく、湊が手を挙げる。
「カップルとか、親子を出して、彼らにちなんだクイズを予想する。ってのは?」
ご当地クイズか。
「うーん。いい案だと思う。それって知識が関係ないからなー」
おそらく、そこがミソだと思ったんだろうけど。
「でも、企画自体はいいと思う。番組研の催しとして、やってみましょ」
やなせ姉も賛同して、この企画は文化祭の出し物として通すことになった。
だが、聖城先輩との対戦には使わない。あくまでも、知識力で倒そうという話になった。
「さて、そうと決まれば、勝たなくちゃね」
せっかく文化祭の企画ができあがったんだ。
先が見えたところで、少し希望が湧いてきた。
「あと、のん。負けそうになったとき、お前ずっと、嘉穂さんの手を握ってくれてただろ?」
それなんだよ。僕が欲しかったのは。
知識のない自分を、恥じる必要はない。
「おかげで勇気が湧きました。ありがとうございます。のんさん」
「お、おう!」
少しだけ、のんの気も落ち着いたみたいだ。
「ごめんなさい!」
戻ってきてから、嘉穂さんはしきりに頭を下げていた。
「わたしが変な提案をしたばっかりに、みなさんに迷惑を」
「迷惑なんて思ってないよ。むしろ、僕から提案したかったくらいだ」
改めて、普通の早押しでは生徒会長には勝てないと分かった。
要は、それ以外のクイズに切り替えれば済む話である。
その形式をいかに面白くするか。今はそれについて悩めばいい。
「でもなー、あの先輩との勝負なんだが、オイラは戦力になるのか?」
珍しく、のんがションボリした表情を、僕たちに向ける。
「何があったんだよ?」
「だってさぁ、オイラだけあまり答えられなかったし」
僕が、聖城先輩との対戦において、もっとも懸念していた要素が、これだ。
心を折られてしまうのではないか。
圧倒的すぎる知識量の前に、誰かがひれ伏し、早押しボタンから手を離してしまうのでは。
実際、そういった心理戦も、クイズ大会では必要だろう。
だが、番組研では評価しない。
誰でも楽しめるクイズを。それが僕達の目指す番組なのだから。
「そこは気にすることじゃないだろ。戦力的な事は期待していないんだよ」
のんや湊には、「強さ以外の面を強化したかった」から入れたんだ。
点差を離されても挫けない心、苦境でも助け合うチームワーク。
一問も答えられなかった、とのんは言う。
「けどな。それだと嘉穂だけで戦うことになるんだろ?」
僕は黙り込む。のんの言うとおりだ。
いくらエンジョイを貫こうとしても、その負担は、全て嘉穂さんに向いてしまう。
さみしげな雨音が、窓を叩く。
梅雨の時期に入り、連日雨が続いていた。
「ウチとしてはさ、ただ、勝つだけじゃダメだと思うんだよ」
ずっと窓を眺めていた湊が、ふと口を開く。
「完膚なきまでに叩きのめせと?」
「そうじゃないよ」
「じゃあ、どうすればいいって、湊は思うんだよ?」
「嘉穂たんが普通に戦って、聖城先輩に勝つだけじゃ、番組研が勝った事にはならない」
チーム全員で勝つ、って事か。
「圧倒的な点差なんていらない。ウチらが楽しんで、相手にも楽しんでもらって始めて、あの人も救われるんじゃないかな」
窓を見つめながら、湊は考えを述べていく。まるで、考えながら話しているみたいに。
「そんなの、どうやって?」
「これから考えるさ」
湊は腕を組んだ状態で、また雨粒の軌道を見守る作業に戻ってしまった。
沈黙が続く。こんなに静かな部活は、活動が始まって以来かも知れない。のんのお茶を啜る音だけが響く。
「あのさぁ、思いついたんだけどさ」
小さく、湊が手を挙げる。
「カップルとか、親子を出して、彼らにちなんだクイズを予想する。ってのは?」
ご当地クイズか。
「うーん。いい案だと思う。それって知識が関係ないからなー」
おそらく、そこがミソだと思ったんだろうけど。
「でも、企画自体はいいと思う。番組研の催しとして、やってみましょ」
やなせ姉も賛同して、この企画は文化祭の出し物として通すことになった。
だが、聖城先輩との対戦には使わない。あくまでも、知識力で倒そうという話になった。
「さて、そうと決まれば、勝たなくちゃね」
せっかく文化祭の企画ができあがったんだ。
先が見えたところで、少し希望が湧いてきた。
「あと、のん。負けそうになったとき、お前ずっと、嘉穂さんの手を握ってくれてただろ?」
それなんだよ。僕が欲しかったのは。
知識のない自分を、恥じる必要はない。
「おかげで勇気が湧きました。ありがとうございます。のんさん」
「お、おう!」
少しだけ、のんの気も落ち着いたみたいだ。
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