それでは問題、で・す・が!

しーとみ@映画ディレッタント

3-4

「さあ、始まりましたクイズ番組研究会! 今回はクイズ研究部の部長との対決です!」
問題形式は、この間と同じフリップ問題だ。解答をホワイトボードに書いてもらう。

『最初の問題は、偉人の名言シリーズでーすっ』

やなせ姉がフリップを出す。
「では参ります。よろしいですね? では来住先輩、問題をどうぞ」

『問題。イギリスの登山家ジョージ・マロリーの名言といえば『そこに山があるから』が有名ですが、その山とは、何を表しているでしょう?』

スケッチブックに水性マジックで字を書く。マジックのこすれる音だけが、スタジオに鳴り響く。
「さて、皆さん書き終えましたね? では、回答オープン!」
嘉穂さん、のん、姉さんは「エベレスト」と書いて正解。
湊だけが「高尾山」と書いて不正解。
「イギリス人ですよ! とろろそばでも食いに行くのかよ!」
だが、こういったフリップ問題は、ボケ要員の本領発揮だ。まずはウォーミングアップと言ったところか。
こっちだって、それを見越して易しめの問題を提供した。
湊も数回優勝してるから、今日は最下位になってもいいくらいに全力でボケ倒すに違いない。
気を取り直して次の問題へ。

『旧ソビエトの宇宙飛行士、ユーリイ・アレクセーエヴィチ・ガガーリンの名言といえば、「地球は青かった」。では、続きは何と言ったでしょう?』

これは結構有名かも知れない。
小宮山のんの回答は、『火星は茶色かった』。まあ、そうだろう。
「では、湊さん、書いた答えをお出し下さい。どうぞ」
僕が合図して、湊がボードを出す。
『いやー、今週号のマンガ雑誌、置いてなかったわー』
「コンビニか!」
続いて嘉穂さんの答え。
「はい。『だが、神はいなかった』でした。お二人とも正解です」
さすがに、嘉穂さんと姉さんは抑えている。
次の問題だ。

『フランスのファッションデザイナー、ココ・シャネルの名言です。「優しさに包まれてする仕事なんて、本当の仕事じゃない。○○があって、はじめて仕事ができるのよ」。この○○を埋めて下さい』

これは、さすがに姉さんも考え込んだ。
嘉穂さんも、答えが出てこないみたいである。
のんは早々と書いた。
「はい『お金』、もっともらしいが不正解」
湊が書き上げる。
「男……ココ・シャネルって、そういうタイプの女性なんでしょうかね?」
ちょっと違う気がするが。
「嘉穂さんが書き終わった。『笑顔』。ああ……」
残念、不正解だ。僕は嘉穂さんの席に手を置いてうなだれる。
「続いてクイズ研究会部長、解答どうぞ」

姉さんが出した答えは、『怒り』。

「お見事! これでクイズ研究会が一歩リードです!」
とうとう、リードされてしまった。
僕は司会者なので、公平を期さねばならない。しかし、内心はドキドキだ。
「続いては、難読文字シリーズです。何と読むのでしょうか?」

『以下の漢字はすべて、軍艦の名前です。呼び方をお書き下さい。分かる範囲で結構です。なお、全部で一〇問。一つにつき一問、正解と致します。問題はこ、ち、らっ』

やなせ姉が、フリップを見せる。

『漣、愛宕、川内、矢矧、江風、子日、酒匂、秋津洲、Верный、Z1』

「Zの1!?」
嘉穂さんから、予想通りの反応が返ってきた。
「すなまい、ロシア語はサッパリなんだ」
「漢字だけじゃないのか?」
湊と昌子姉さんが同じリアクションをする。
やはり、出題が漢字だけだと思っていたようだ。
頭を抱えながら、全員がたどたどしくスケブに解答を書く。みんな一様にペンが止まる。やはり、みんな自信なさげだ。

ただ一人、のんを覗いて。

回答をオープンする段階で、僕は言葉を失う。
のんの解答は、以下の通りだ。

『漣(さざなみ)、愛宕(あたご)、川内(せんだい)、矢矧(やはぎ)、江風(かわかぜ)、子日(ねのひ)、酒匂(さかわ)、秋津洲(あきつしま)、Верный(ベールヌイ)、Z1(レーベレヒト・マース)』

「あーっとお! 小宮山選手、なんと全問正解! お見事です!」
解答者の席を見ていたが、みんなが悩みながら書いている中、ただ一人、のんだけがスラスラと書いていた。こいつ、そんな知識あったか? カンニングの形跡も見られないし。

「これはわかったのだ。オイラの兄貴がゲームやってるから覚えてしまったのだ。寝言で『瑞穗が出ない』ってうなされていたのだ」

そういえば、こいつの兄貴は超ゲーマーだったな。

「嘉穂さん。六問正解。秋津洲はなんとか読めたようです。最後のZ1ですが……あー、ゼットワンね。残念です。それは軍艦じゃなくてバイクの名前です」

これがくるだろうと思っていた。誰かが引っかかると思ったのだ。

続く湊も、五問しか正解できていない。僕の狙い通り、「川内」を「かわち」、「秋津洲」を「あきつしゅう」と書いていた。「Z1」に到っては「ぜろわん」とか書いているし。
姉さんは「レーベレヒト・マース」はわかったようだが、「かわかぜ」が読めなかったので六問正解。
当然、のん以外の三人は、ベールヌイとレーベレヒト・マースは読めなかった。

まだ、嘉穂さんと姉さんの差は埋まらない。
しかし、のんが一〇ポイントゲットしたので、姉さんと並んでいる。

「さて、続いては、正式名称問題です。来住先輩、まずは例題を」

『これの正式名称を答えて下さい。口答で結構です』

やなせ姉が、机の上に置かれた緑色のプラスチック商品を摘まむ。弁当の仕切りをする時に使う。
「これは、バランですね?」
皆も口々に「バランだ」と答える。全員正解だ。もはやバランは一般常識か。
「こういう感じで出題しますので。では、問題です」

『こちらにある掃除道具の正式名称は、何というでしょう?』

やなせ姉が机の下から取り出したのは、トイレ掃除道具だ。ゴム鞠を半分に切った物が先端に付いている。いわゆる「スポスポ」である。
のんはそのまんま「スポスポ」と書いて不正解となった。
湊は「詰まりを取ろうとしたけど使うと余計詰まってしまう器」という長ったらしい名称を書いてこれまた不正解。

嘉穂さんと姉さんは「ラバーカップ」と書いて正解を出す。

その後、のんは立て続けに正解し続け、リードを広げた。
のんが未だリードという異常事態のままである。

だが、変化は唐突に訪れた。

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