それでは問題、で・す・が!

しーとみ@映画ディレッタント

1-6

「さあ、始まりました。新生学園クイズ。その名も、『クイズ番組研究会』! 最近設立された部活の名前をそのまま採用しております! 司会は私、福原晶太。そしてクイズを読み上げてくれるアナウンサーさんはこの方!」

「はい。アシスタントの来住やなせでーす!」

僕よりテンションが高い。大丈夫だろうか?
「来住やなせさん、今日はよろしくお願いします」
「そんなーっ、いつもみたいにやなせ姉って呼んでよぉ、晶ちゃあん」
イヤイヤをしながら、やなせ姉が頬を膨らませる。ダメだこの人。人選を間違えたかも。
「あの、周囲の皆さんに誤解を招くような言動は、慎んで下さい」
「誤解させとけばいいでしょ、そんなのー」
このままではキリがない。
「では、解答者の紹介です。まずは、この方。一年四組、津田嘉穂さんです」
「よ、よろしくお願いします」
クイズ研の時と違い、ハキハキと答える。リラックスできているようだ。
「続きまして、僕と同じ一年五組の小宮山志乃吹さん、愛称『のん』さん。今日はよろしくお願いします」
「うむ。よろしくなのだ」
嘉穂さんとは対照的に、のんは自信満々だ。
「気合い十分ですね」
「うむ。優勝はオイラがもらうのだ。それで、豪華賞品のツチノコをゲットするのだ」
「いやいや、優勝賞品がツチノコだなんて一言も言ってません」
そもそも、この番組に優勝賞品という概念はない。今の所は。
「最後に、この部活における爆弾、一年一組にして、名護岬顧問の妹、名護湊さん」
湊は黙礼。その口元には、気品に満ちあふれる笑みが。
「静かに闘志を燃やしているという感じでしょうか。どうですが、初番組ですが」
「初物ですから、怖いのは最初だけ、といったところでしょうか」
いきなり下ネタが飛んできた。そういうパターンかこの女子は。
「それより、このクイズの趣旨は?」
湊が助け船を出してくれた。これに載らない手はない。
「いい質問ですね! ではお答えしましょう。これはいわば、お祭りです!」
この番組は基本的に競わない。分かったら答える。分からなければ答えない。それでいいのだ。それ以外は求められない。
「では記念すべき第一問! 来住さんお願いします!」

『はーい第一問でーす。第一三回アメリカ横断ウルトラクイズで優勝したのは、長戸勇人ながとはやとさんです。では、長戸さんが優勝賞品として所得した、日本人初の権利とは、何でしょう?』

まるで別人になったかのように、やなせ姉が落ち着いた表情で、問題を読み上げる。
いかにも、クイズ番組研究会といった内容のクイズを、最初に持ってきた。
記念すべき最初の早押しボタンを、のんが押す。しかし、答えを入ろうとしている感じではない。
「さて、最初の解答権は小宮山選手。では、お答えをどうぞ」
「うーん。不老不死?」
不正解のブザーが鳴る。
「残念、違います。けど、近いよそれ! 超近い!」
実際答えに近いから驚いた。
「不老不死が近いんだよね?」と、湊がボタンを押した。
「続いて名護選手に解答権が移りました。さあ、お答えは?」
「ゾンビになれる権!」
不正解のブザーと同時に、僕はピコピコハンマーで湊の頭を軽く小突く。心地よい笛のような音が、よりコミカルさを演出する。
「なれるかっ! 製薬会社と契約してんのか!」
最後にボタンに手をかけるは、嘉穂さんだ。
「人体冷凍保存の、会員、でしたよね?」
正解を示すチャイムが鳴った。
このオールジャンルな知識量が、嘉穂さんの強みである。学園クイズで披露されるはずだったクイズのセンスが、ようやく花開くか?
「まずは津田さんが一歩リードです。次の問題!」

『第二問。一五五二年、宣教師コスメ・デ・トーレスの手によって、日本で初めて祝われた記念日といえば?』

湊がボタンに手をかける。
「来ました。ここで名護湊さん、お答えは?」
「性の六時間」
「うわあ! 近い! 近いんです! 実は近い!」
不正解のブザーが鳴ったが、正解にしてもいいくらいなのだ。そこまで迫っている。
「あれ? 完全にボケたつもりなんだけど。答えに近いならもういいや」
ボタンから手を離し、湊は僕から視線をそらした。
「なんで答えるのやめちゃうんですか!?」
「ボケたいんだよ」
意味わかんねえ!
ちなみに、このクイズ番組は、お手つきや誤答によるペナルティは一切ない。減点や一回休みなどと言うルールはなし。一人でいくらでも答えていい。グダグダになるが、むしろそれが狙いだ。
「もう、正解言っちゃって下さい」
「だとしたら、クリスマス?」
ようやく、湊が正解を出す。
「そんな時代から、クリスマスって祝われていたんですね。ロマンチックですぅ」
「ということはさぁ、津田さん、意味が分かってるんじゃないのかい?」
「いえいえ違います違いますっ!」
笑顔を見せながら、嘉穂さんが手をバタバタさせて取り乱した。やや下ネタが入っていたが、嫌がってはいないようだ。湊がしつこく追求しなかったからだろう。
「ボケないと面白くないのでは?」
「競ったところで、ボケるのが面白いんじゃん」
湊なりに、クイズ美学があるらしい。知らんけど。
「えー、湊選手が一ポイント獲得です。津田嘉穂選手と同点。続いては、この問題!」

『第三問。ズバリ、コーヒーを最初に飲んだ日本人とされる、江戸中後期の人物は誰でしょう?』

ポーン!と、早押しボタンが力強く押された。
「早かったのは、小宮山のん!」
「これは簡単だぞ! 水戸光圀!」
「違います。彼は最初にラーメンを食べた日本人です」
「ぬわーっ!」と、のんが頭を抱える。
ポーン、と、湊の指が動く。
「さあ、お答えを、どうぞ!」
「野際陽子」
ブッブーッ!
「おいおいおいおいおいおいおい、あんたちょっと待ってよ!」と、机に身を乗り出す。
「江戸時代だっつーの! なんで現代人が出てくる! コーヒー飲むために時間遡ったんか?」
「あ、わかった」と、のんがボタンを押す。
「小宮山さん、正解は何でしょう? どうぞ!」
北大路きたおうじ 魯山人ろさんじんだっ!」
珍しく、のんが難しい人物を言った。
無情にも、誤答を告げるブザーがなる。
「よくご存じだったが、不正解」
魯山人は明治生まれの人だ。惜しい。
「でも『山人』は、合ってますよ。どんどん行きましょう!」
最後に「ポーン」と、ボタンが力なく押される。嘉穂さんが押したのだ。
「はい、お答え下さい!」
大田おおた 蜀山人しょくさんじんさん、ですか?」
「正解。大田蜀山人、もしく大田南畝なんぽで結構です。どこでわかりましたか?」
「『山人』までは合ってる。聞いてやっと分かりましたぁ」

『ちなみに、当時は作り方が確立されてなくて、『焦げ臭くて飲めないよー』って書いてあるそうでぇす』
やなせ姉が説明をする。なんか可愛いな太田蜀山人!

「当時の人なら飲めないだろうね。私も砂糖とミルクがないと飲めなくて。それにしても、難問だったね」

この問題は結構難問だった。解答が、ではない。出題のされ方が、だ。

クイズ研から渡された問題集での書かれ方は、こうだ。

唐衣橘洲からころもきつしゆう朱楽菅江あけらかんこうと並び、狂歌三大家と言われる人物は?』

呪文かと思った。
これでは客が食いつかなくなるのも頷ける。
クイズは受験ではない。娯楽だ。
クイズ大会は、娯楽性まで排除しようというのか?

どうにか食いつきやすい問題にしようと考えて、僕はクイズを書き直した。
問いかけを『歴史上の人物』から『最初にコーヒーを飲んだ日本人』と変化させただけだ。
たったそれだけで、『文学・歴史』の問題が、『雑学』の問題に早変わりした。

出題する側は、ここが面白いのだ。
これだから、クイズの出題は面白い!

僕がクイズの出題者になりたいのは、なにも司会者のパフォーマンスに憧れただけじゃない。
出題する側には、問題を考える権利を与えられる。
いかに解答者の知識を刺激し、いかに興味を持たせ、いかにミスリードして騙すか。
これは、出題者にしかできない特権なのだ!

「ここまでで、津田さん二点。湊さんが一点。のんはポイントなし。では、第四問」

『日本で最初にミニスカートをはいた人とされる女優は――』

湊がボタンを押す。「うん。野際陽子だよね?」
そう。さっき自分で言った答えだ。しかし、ブーっとブザーを鳴らす。
「はい。野際陽子さんですが! で・す・が!」
僕は身を乗り出して、眼鏡を外して湊の机に膝を立てる。
「ああ、問題を潰しかけたから、怒っているのだね?」
「はい!」
まったくその通りである。正確には、問題を潰されたので、差し耐えたのだ。

『では、同年にミニスカートをはいて歌謡番組に出演した国民的歌手は?』

ポーンと軽快な音が鳴った。
「はい湊さん、どうぞ」

「村田英雄!」

僕は、マイクを投げ捨てそうになった。
「はああああ!? あんた、マジか!? 男やないかい!」
「いや、わかんないって」
「わかりますよ! ありえねーよ!」
このようなやりとりを繰り広げる中、嘉穂さんがボタンを押す。
「美空ひばりさんっ」
「その通り!」
「ちなみに、司会の福原君は私のミニスカ姿に夢中です」
「知らねえよ!」
この問題で、嘉穂さんが三点目を獲得する。

『第五問。出世魚、ブリの稚魚。関東ではワカシ、東北では――』

問題が終わる前に、嘉穂さんがボタンを押す。
「ツベですぅ」
だが、無情にも不正解のブザーが鳴る。
「はい、東北ではツベといいます。で・す・が! はい来住さん続きを!」
珍しく、嘉穂さんが頬を膨らませた。こんな表情もするんだな。

『では、関西ではツベを、何というでしょう?』

バン、と凄まじい音がした。のんの机からだ。
「早かったのは小宮山のん。正解は?」

「ツバス!」

前のめり気味で、のんが解答を叫ぶ。余程自信のある問題だったらしい。
「正解! ようやくのんがポイントをゲットした」
これが正解を取るから、のんは恐ろしい。変なところで知識が偏っているのだ。

「いや、今の、くしゃみだったんだけど」
のんが鼻をズルズルと吸う。

「くしゃみかよ!」
僕がツッコもうとも、のんはマイペースにポケットティッシュを出して鼻をかむ。
「ここで番狂わせとなるか? 次の問題! 津田嘉穂さん三点、名護湊さん一点。それを追う小宮山のんさん……あれ、津田さん?」
湊が嘉穂の方角を指差す。
ボタンに手をかけたまま、嘉穂さんが微動だにしない。
そうか、悔しがっているんだ。正解が分かっていたのに、のんのくしゃみの方が早かった。くしゃみに負けるなんて、といった複雑な表情を浮かべている。
そう思っていたのだが、どうも違うらしい。腹を押さえたまま、嘉穂さんがピクリとも動いていない。
「あれ、津田選手、どうされました?」
心配になった僕は、嘉穂さんに歩み寄る。どこか具合が悪くなったのなら、保健室へ連れて行かないと。
「嘉穂さん、平気?」と、手を差し伸べる。
手を挙げながら、嘉穂さんは「大丈夫」と言う。しかし、腹を抱えたまま、引きつった声を上げていた。

「フ、フフフフフフゥ! ハハハハハハ!」

笑っている。嘉穂さんはなにがおかしいのか、口を押さえながら笑いを堪えていた。しかし、我慢できず吹き出してしまったらしい。
「アハハハ、ハアー。すいません。もう収まりますので」
口角が上がりきって、声を抑えられず、ヒザが崩れ落ちる。
「何があったんだ、嘉穂さん?」
「いや、あの、のんちゃんさんの、くしゃみが、ツボに……」
どうやら、のんがくしゃみをして偶然正解したのが余程面白かったらしい。
「どうにか笑いが落ち着いてきましたぁ」
数分後、嘉穂さんが落ち着いたところで、続いてはこの問題。

『料理の問題です。第六問。発祥の地は、スイスのヴァレー州。「削り取る」という意味を持つ持つこの料理は?』

料理ができないのに、のんが真っ先にボタンを押した。
立て続けにボタンが押された。今度は湊だ。
「はい、湊さん。答えをどうぞ」
「えっとー。チーズの断面をドローって溶かしてさ、パンかジャガイモだったっけな。つけて食べるやつあるじゃん? えーっとぉ……」
答えが出ずに、タイムアップ。続いて、のんがボタンに手をかけた。
「チーズ・フォンデュ!」
「不正解です。チーズ・フォンデュではありません」
チーズ・フォンデュはスイス料理。白ワインで溶かしたチーズだ。
「そうなのか。TVで見たんだけど。あー正式名称が出ないな。あっ!」
ボタンを押して、湊はカメラに向かって手を独特の形にして突き出す。
「思い出したんですね、では正解をどうぞ!」
「ラクレット!」
カメラに向かって、湊がドヤ顔を決める。
ようやく湊が正解を出して二ポイント目を獲得。

『第七問。お笑い芸人で始めて芥川賞を獲得した、ピース又吉さんの小説のタイトルは――』

「おっと早かったのは、小宮山のんだ!」
「うん? 『火花』だろ?」
自信満々でのんが答える。
しかし、不正解のブザーが空しく鳴った。
「なんでだ!?」
「さすがに、それは分かったようですね。ですが、問題を最後まで聞いて下さい」
「しまった! 引っかけか!」
わかりやすいリアクション、どうもありがとう。

『では、又吉さんと同時に受賞した、羽田圭介はだけいすけさんの作品名は何でしょう?』

湊が素早くボタンを押した。
「わかんないなあ。じゃあ……ねえ。いなくなれ……福原!」
それは『いなくなれ、群青』。芥川賞候補じゃなくて、本屋大賞一位の作品だ。
「ていうか、へこむわ!」
立て続けにボタンが押される。
「はい小宮山選手」
「えっとねえ、晶太よさらば!」
当然、不正解のブザー発動。
「それ、ヘミングウェイの『武器よさらば』って言おうとしたよね!?」
「そうとも言う」
「芥川龍之介と同時期の作家じゃねえか!」
だから、へこむわ!
「はい。ここで津田さんがボタンを押した。正解が出るか。お答えは?」

「えっとー。『福原、部活やめるってよ』?」

「へこむわって! なんで嘉穂さんまで!?」
「嘘でーす」と、嘉穂さんが照れ臭そうに言う。もう一度ボタンに手をかけた。
「『スクラップ・アンド・ビルド』です」
「その通り! ここで津田嘉穂選手が名護湊選手を引き離す!」

『第八問。奈良時代後期、石上宅嗣いそのかみのやかつぐによって平城京に設置された、日本初の公共施設とは何でしょう?』

優勝の線が消えたのに、のんがボタンを押した。
「おっと、小宮山のんが悪あがきだ」
「これはねぇ……トイレ!」
キリッと決め顔で微笑むが、不正解。
「違います。続いて、名護湊さんがボタンを押す。正解は?」

「ハッテン場」

「放送できねえわ、そんな問題!」
続いて、嘉穂さんが「博物館でしょうか?」っと解答するも、不正解となった。
続けざまにボタンが押される。
「また名護湊が来た。答えをどうぞ!」
「案外、図書館だったりして」
僕は目を大きく見開いた。
正解のチャイムが鳴り響く。
この問題も、石上宅嗣(いそのかみのやかつぐ)の方が正解だった問題をアレンジしたものだ。
「どうでしょう、津田嘉穂さん。とうとう一点差にまで追い込まれましたが」
「場の空気に押され気味ですぅ」
やはり、初戦で緊張したのだろうか。

『第九問。世界最古のピラミッド、ジェゼル王のピラミッドを建造し、死後はギリシャの医神アスクレーピオスと同一視された、歴史上の人物は誰でしょう?』

膠着状態が続く。
のんがボタンを押した。
「ツバス!」
「くしゃみすんな!」

「アハッ! ハハハハハハハハ! ヒィイ!」
また、嘉穂さんがツボに入ってしまった。

その間、誰かが解答するかと思われたが、膠着状態になる。
「難しいのだ!」
頭を抱えながら、のんがボヤく。
「はい。ちょっと難しいかもしれません」
「ヒント下さい。ヒント」
「うーん。映画通なら、名前だけは聞いたことがあるかも知れないかな?」
ここでボタンが押された。湊の席でランプが光る。
「わかんない……イムホテプかな?」
「名護湊選手、正解です!」
「いやいや、たまたまだって。映画はよく見るから」
「これで両者また並んだ! 盛り上がってきました!」

正直、今日の収録は嘉穂さんのワンサイドゲームになるだろうと思っていた。
が、大方の予想を裏切り、名護湊が怒濤の追い上げを見せている。
ボケ解答だけでなく、博識な一面も覗かせ、場を盛り上げてくれた。

「ここで皆さんに報告があります。実は……次が、最後の問題です」
「なな!?」
「マジ!? ウチ聞いてない!」
今言ったからね!
「ということは、小宮山のんの優勝はなくなりました」
「うわー。そんなー。オイラのツチノコがー」
のんが頭を抱えた。まだツチノコを諦めてなかったのか。
だが、このメンツで一ポイントでも獲得しただけでも凄いと思うんだけど。
「答え続けていれば、何かあるかもしれない。ポイントを稼ぐのを諦めないで下さいね。では行きましょう、最後の問題です!」
いよいよ、残すところあと一問となった。

「さて、これが最後の問題です! 実は超難問の第一〇問! 来住先輩お願いします」

『ズバリ、サザンオールスタースの名曲、『いとしのエリー』を世界で最初にカヴァーした、外国人のシンガーは?』

さっそく、小宮山のんが『食いついた』。

「え、簡単じゃん。何が難しいのだ?」
「お答えをどうぞ」
「レイ・チャールズだろ?」
ブブーっと、不正解の音が。
「えーっ!?」と、小宮山のんが良いリアクションをしてくれた。
これには、湊も止まってしまう。ボタンを押そうとしたのか、手を上に上げたまま固まっている。

「と、思うじゃん。誰だって思うだよ。レイ・チャールズだって。でも違うんです」

「ヒントくれないかな?」
「ではヒント。カヴァーされた年は、一九八三年です。カバーをしたライブがレコードとして発売されたのが最初と言われてますね」

ちなみにレイ・チャールズがカヴァーした年は、一九八九年だ。
一応、最初にカヴァー曲として『販売』されたのは最初である。
けれど、カヴァー自体を最初に行ったのは別の人物なのだ。

「今いくつでしょう?」
「七〇歳越えてます」
「あっ」とボタンを押して、湊は後悔したような顔になる。
「だめだ。ジミー・クリフじゃないや」
「はい。不正解です」

結局、誰からも解答が出ず、時間切れとなった。

「では来住さん、正解の方を」

『正解は、オーティス・クレイさんです』

三人ともポカンとしている。答えを聞かれても、意味が分からないといった風に。
それもそうだ。あまりにも知名度が低いのだから。
「わかりませんでしたか。そう思ってました」
三人は、ハテナマークが浮かんだように、口を開けていた。
「実はですね、この問題、クイズ研究部にも答えていただいたんです。全員に」
「何人正解したんだい?」

「それが、ゼロ人だったんです」

質問した湊を含め、クイズ研の面々が唖然とした顔になる。

つまり、クイズ研究部の総力を挙げても、誰一人として答えられなかったのだ。
特に部長が答えられなかったのが秀逸だった。『積年の恨みを晴らした』気分とはこのことを言うのだろう。
みんなが答えられないのも無理ないかな、と思った。

とはいえ、これではクイズ研としていることが一緒だ。
難問で相手を打ち負かすことなど、僕たちが望むものではない。
クイズとは楽しいものだ。どこかに楽しさがなければ、絶対に廃れてしまう。

「と、いうわけで、泣きの最終問題です。このままでは終われないですよね? なので、これが本当の最終問題と致します! 来住先輩読み上げよろしく!」

『では、オーティスクレイ版「いとしのエリー」では、「エリー、マイラブ、ソー、スイート」の「スイート」の部分を、何と歌っているでしょう?」

やはり、こういうときに最も早く手が動くのは、のんだ。
「小宮山のんが来た! これで正解なら逆転して二位に入ります。さて答えは?」
「ソー……ハニー?」
「違います。はい。次にボタンを押したのは、名護湊さん。お答えは?」
首をかしげながら、湊は、「エンジェル?」と答えた。
「不正解、なぜそう思った?」
「いやあ、『マジ天使的』な意味で」
僕は思わず口元を手で押さえてしまう。
「っぽいですけどねー。違うんです! でも惜しい!」
「惜しいなら、これですぅ!」
ここで、嘉穂さんがボタンを押した。
「はい、これで決めるか、津田さん、お答えをどうぞ!」

「トゥルーッ!」

「大正解です。お見事でした!」
ファンファーレが鳴り響く。
第一回、クイズ番組研究会は、見事、嘉穂さんが優勝した。
「いかがだったでしょうか、クイズ番組研究会、それでは、第二回でお会いしましょう! ご視聴ありがとうございました!」

「OK」という西畑の声で、全ての収録が終わる。

これにて、番組は無事終了を迎えた。

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