それでは問題、で・す・が!

しーとみ@映画ディレッタント

1-3

名護なご先生は、嘉穂さんが書いたクイズ研究部の退部届を受理。新しい入部届を二枚用意した。
僕と嘉穂さんは、『クイズ番組研究部』と届に書いて、提出する。
「これでお前達は、晴れてクイズ番組研として活動することになるな」
「ところで、部員は僕たちだけですか?」
「いや、もう一人来る予定なのだが……遅いな。呼んでくる」
ついでに入部届も提出してくると言い、名護先生が退出する。
五分後、ドアが開く。
栗色ショートボブの少女が、部室に入ってきた。
「あれ、先生?」
名護先生が、うちの制服を着ている。背丈も髪型も、名護先生に酷似していた。やや変わっている部分を探せば、化粧が薄めなくらいか。
「先生、冗談もほどほどにしてくださいよ」
思わず吹き出してしまった。まさか、人が少ないからって自分が生徒になりすますなんて。やけに制服が似合っているのが気になるけど。
「ん? 何が?」
しかし、先生の反応が鈍い。
「え? おや?」
僕も戸惑う。
「おお、みなと、入れ違いになっていたか」
再度引き戸が開き、先生が帰ってきた。いつものスーツ姿である。
「あれ、先生?」
名護先生が、二人いた。
だが、先生はふんわりボブでパンツスーツ、少女の方は本校の制服を着ている。嘉穂さんに比べて、スカートの丈がやけに短い。線が細く、プロポーションは中くらいだ。なにより、背が非常に高い。名護先生も結構高いが、ヒールを履けば先生と肩を並べるんじゃないか?

「ウチは名護 みなと。名護岬先生の妹だよ、クラスは一年一組」

生徒手帳を見せてくれた。確かに、『名護湊』と書かれてある。
「よろしくお願いしますぅ。わたしは」
「知ってる。四組の津田嘉穂さんでしょ? 今日からよろしくね」
初対面であるはずの湊に名前を呼ばれて、嘉穂さんは両手で口を隠した。
「どうして、知ってるんですか? わたしのこと」
「姉さ……先生から聞いたよ。キミ、クイズ大会の次期エースだって」
湊は、嘉穂さんの隣に腰を下ろす。
「それからキミは、一年五組の福原だよね?」
「福原晶太だ。名護さんは、自分のこと『ウチ』って言うんだな。ちょっと訛りがある?」
僅かに、湊の話し方はイントネーションが変わっている。
「母親が関西出身だからね」
「それにしては、先生は訛りがないですけど?」
先生に話を振った。
「父が関東出身で、私も方言を直したからな。あんまり関西にいい思い出がないんだ、私には」
それ以上、二人は語らない。名護先生と湊には、深い事情があるようだ。
「あとさ、ウチのことは気兼ねなくしたの名前で呼んでよ。顧問まで名護だと、困惑するでしょ?」
確かに。湊を名字で呼ぶと、先生を呼び捨てにしてるみたいで気が引ける。
「そうさせてもらうよ、湊」
「よろしくお願いしますね、湊さん」
湊の方も、まんざらでもなさそうだ。嘉穂さんが淹れたコーヒーを「ありがとう」と受け取る。

これでようやく、部としての体勢は整いつつあるな。とはいえ、研究会設立にはあと一人が必要だ。

ならば、あと一人はあいつを呼ぶか。

そういえば、あいつはまだ部活には入っていない。今頃、あちこちのクラブに体験入部しまくっている頃だろう。はやく勧誘しないと。
早速、スマホに連絡を入れる。幸い、相手はすぐに来てくれるそうだ。
一分もしないうちに、勢いよく引き戸が開けられた。

「おっす、しょーた」

現れたのは、バサッとした髪をツインテールで結んだチビだ。全体的に利発的で見た目も幼く、高校に小学生が紛れ込んだのかと思うほどの小ささ。ワンピースタイプの制服が、彼女の見た目の幼さをより一層強調する。色気のある湊と違って、コイツが短いスカートを履いても余計子供っぽい。だが、彼女はれっきとした高校生である。
「おう、来たか、のん」
僕が声をかけると、のんはフフン、と鼻を鳴らす。
「彼女、五組の小宮山こみやま 志乃吹しのぶさんだよね? 彼女が、最後のメンバーなのか?」
湊が首をかしげた。
「そうだよ。『可愛くないから』ってんで、周りに「のん」と呼ばせてる」
「知ってるよ。有名人だよね?」
湊のいるクラスにさえ、のんの存在が知れ渡っている。まあ、目立つよな。
「二人は知り合いかい?」
僕の代わりに、のんが返事をする。
「オイラとしょーたは、いわゆる幼なじみなのだぞ」
こいつとは、中学からの知り合いだ。
「いやあ、あと一歩遅かったら、オイラはセパタクロー部に入るところだったぞ」
のんはクラスで唯一、いまだ部活に入っていない。
各運動部から引っ張りだこで、のんの方も、どのスポーツにしようか迷っていた。そこへ、僕がクイズ番組研へ誘ったというわけだ。
「セパタクロー部って。なんの思い入れもないだろ」
「特定のスポーツで天下を取る気なんてないしなー。それに面白そうじゃんか、この部活」
特に気にせずに、のんは答えてきた。スポーツはコイツにとってストレス発散の手段でしかない。身体を動かすのが好きなのだ。
「中学からの知り合いって言ってましたが?」
「特別、仲がよかったわけじゃないよ。たまたま家が近所で、見かけることが多くてさ。そこから徐々に仲良くなっていった」
「そういうわけだ。みんなよろしくなー。お、これもらっていいか? オイラ大好きなんだ」
答えを聞くより先に、のんは無遠慮に、湊の隣にどっしりと腰を据える。ちゃぶ台に置かれた○×どら焼きに手を伸ばす。
「いいよ。遠慮しなくて」
「ありがとなー、しょーた」
袋を乱暴に開けて、のんは「いただきまーす」と口の中へ放り込む。
「いつ食ってもうまいな、このどら焼き。お前の家でよく食べたぞー」
喋りながら、○×どら焼きを二口で平らげた。
嘉穂さんが気を利かせて、スティックコーヒーを入れる。
「おう。ありがとなー。ずずず」と、のんは熱々のコーヒーを一気に喉へ流し込む。
「面白い子だね?」
「そうだな。面白いのは確かだ」
湊と二人、どら焼きを食べながら、のんの感想を述べ合う。
「お、これでメンバーは揃ったな。それじゃあ……」
名護先生が話を進めようとした次の瞬間、部室のドアが乱暴に開けられた。玄関前にいた僕を押し潰す。

「しょ・う・ちゃーん!」

僕の首に、女性の細腕が巻き付く。
ウエーブのかかったブロンドの長い髪から、女性特有の香りが漂う。
僕より高い身長と、嘉穂さんよりボリュームのある胸部を押しつけてくる。
「ぐへえ!」と、僕は呻いた。

「晶ちゃん晶ちゃん晶ちゃん寂しかったーっ! スリスリスリスリ」

遠慮なく、やなせ姉が僕のほっぺたに頬ズリする。
僕以外の女性陣が、唖然とした顔になった。
「ちょっと、やなせ姉、やめてくれよ! 人が見てるだろ! 魂が抜けたような顔になっているじゃないか!」
「いいもーん。晶ちゃんはワタシの大事な大事なおもちゃなんだからー」
やなせ姉は僕から離れようとしない。
「おお。おっす、やなせ姉」と、のんは見知った顔でやなせ姉に挨拶をする。
「こんにちは、のんちゃん。変わらないねー」
「あれ、二年の来住きすみ副部長、ですよね?」
嘉穂さんが、やなせ姉に問いかける。
やなせ姉は「はーい」と返事をした。僕から離れて正座する。

「来住やなせ一七歳。私立長戸学園の二年五組でーす。ちなみに晶ちゃんとは家が隣で、幼馴染でーす! クイズ研究部の副部長でしたーっ! イエーイ!」

天にVサインを突き上げ、やなせ姉はハイテンションで自己紹介した。
「イエーイじゃねーよ! 部活はどうしたんだよ?」
でしたって言ってたから、まさかとは思うけど……。

「うん。辞めた」

あっけらかんと、やなせ姉は答えた。
「はあ!? あんた副部長だろ? やめてもいいのかよ?」
「いいもーん。ワタシの勝手だもーん」
「なんでまた、そんな無茶を」

「だって、わたしがクイズ研に入ったの、晶ちゃんが目当てだったんだもん。晶ちゃんの司会でワタシがアシスタントでずっとイチャイチャしようって思ってた。それなのに、突然クビになっちゃうしさぁ。だったら、ワタシも辞めるって部長に言ってきた」

ニコニコと、元副部長様は回答する。
「副部長の後釜、どうするんだよ?」
「ワタシ、しーらない」
やなせ姉がそっぽを向く。
「先生、どうするんですか?」
名護先生は、スマホで誰かと連絡を取っている。
「来住の退部届が、受理されたらしい」
スマホを切った後、先生は溜息をついた。
当の本人は未だにニコニコしており、何も悪びれていない。
「……今度こそ、メンバーが揃ったな。じゃあ、今日は解散するか」

特に反対意見も出なかったんで、その日は解散となる、はずだった。

「じゃあ、さっそく番組作るか」

          

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