それでは問題、で・す・が!

しーとみ@映画ディレッタント

1-4

この人は、いきなり何を言い出すんだ?
「先生、ぶっつけ本番ですか? 準備もできていない上、出題者も解答者もいないのに」
「いるじゃんか。お前らが」
僕は、背後にいる三人組の方を向く。
「そう言ったって、問題もまだできてませんよ」
「出題する問題はクイズ研が用意する。過去問が有り余ってるからな。好きなのを使え」
「けど、出題するクイズのチョイスが」
問題と言っても、傾向や難易度の調整など、課題は多い。
「とりあえず初めてだから、難易度は易しめにしようかと思うけど」
「うん。初めては優しい方がいいな」
なぜか、湊は含みのある言い方をする。多分、「やさしい」のニュアンスも違うぞ。
「問題はどういうのがいいだろう。こういうとき、クイズ番組ってどんなチョイスするんだろ?」
沈黙が襲う。早くも難航か? と思われた。
「あのさ、提案なんだけど」
そう言って、手を挙げたのは湊だ。

「第一回なんだろ? だったら、『初めて』にちなんだ問題に限定するってのは?」

「いいな、それ。採用だ」
競技のルールは、シンプルに早押しとなった。一〇ポイント選手。多くポイントを勝ち取った人が優勝とする。
「優勝賞品とかは、どうしよう。あんまり高額なものとか、特殊な特典とかはあげられないよ?」
僕にできるコトなんて、せいぜい食券をおごるくらいだ。
「別に、いらないんじゃないかな?」

下手に競技性を設けると、難易度が高くなる。ならばいっそ祭りとして楽しもうと、実にエンジョイ勢ならではの趣旨に落ち着いた。

「それだと、盛り上がらなくないか?」
「ブラウン管の向こうにいる生徒たちが、ウチらより盛り上がってもらえればいい」
「うむ、一理あるな」
他の三人はどう思っているのか。
「オイラは欲しいな、優勝賞品。あったら面倒だって言うなら、多くは求めないぞ」
「何もなくても、楽しそうですぅ」
OKのようだ。ならば、初回は何も賞品や特典は設けないとする。
「本当にそれでいい? やなせ姉はどう?」
「晶ちゃん、ひとまず一回限りの企画じゃないだろうから、優勝回数の方をカウントして残しておいたら?」
回数を繰り返していって、何か面白い商品の企画が思いついたとき、採用する。
なるほど、それがベストかも。
「あ、はいはいはい!」と、のんが威勢のいい声を発して手を挙げる。
「何だ、のん?」
「お客さんに誰が勝つか、賭けてもらうのは?」
オーディエンスを味方につける視聴者参加型番組か。TV番組でもよくやっている。いかにも、クイズ番組的なアイデアだ。
「あー、それもいいけど、ナシでお願い」
湊が反対意見を出す。意外だったな。一番ノリノリだと思ったんだけど。
「なんでだよ。いい考えだと思うけど」

「ボケられないじゃん」

そっちが重要なの!?
「お前、ボケ回答する気か?」
「その方が面白いじゃん」
「面白いってお前……やる気ないって言われないか?」
「真面目に答えるのは他の人に任せるよ。ウチは商品なんか興味ないし、成績にだって拘ってないから」
湊のような、こういうタイプもいるのだな。芸人気質というか。
「ムチャクチャ重要だよ、ウチにとっては」
湊にとって優先されるのは、勝ち星より面白解答らしい。
「でも、優勝商品も分からないって、お客のモチベーションが上がらなくないか?」
「じゃあ晶ちゃん、『優勝すればわかります』って視聴者に含ませておけばいいよー」
今まで黙っていた元クイズ研副部長が提案をする。
「結局、優勝してもショボいプレゼントが待ってるよ、って寸法を使うね。要はクイズが楽しかったらいいワケじゃん。プレゼントなんて張り切るきっかけに過ぎないんだからね」
さすがだ。クイズ研の副部長として企画や事務を務めていただけのことはある。やなせ姉は昔から、企画力が高かった。そこが副部長に抜擢された理由でもある。
何が商品でも伏せておける、ナイスなアイデアだ。
一通りの意見が出そろい、ようやく会議は終了した。

部活解散後、僕は先生からクイズの資料を受け取り、家で作業に取りかかる。
どんな番組になるのだろう?

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