職場指定の制服

真琴が身に付けていたのは、学校指定の赤ジャージだ。
そういえば、パイロンの格好も、上が赤ジャージだったな。

「もう、見てもいいか？」
「あ、うん。いいよぉ」

パイロンを見ると、やっぱりエビ茶色のジャージ姿だった。ただ、服の下は下着一枚だったが。あれは目のやり場に困る。

「なんでジャージなんだ？」

「家でのフォーマルウエアと言えば、ジャージだよねえ？」
さも当たり前のように、異世界人がほざく。

昨日あれだけピシッとしていたのに、今日はすっかりリラックスモードだ。

「あのなあ、地球の文化に馴染みすぎじゃないか？　中年ＯＬ並の思考だぞ」

「えーっ。ダサいかな？」
くるりんと、パイロンは一回転してみる。ポヨン、と膨らみが揺れた。

意識しまいと、俺は目を逸らす。

「真琴、なんでコイツが着替えてるの、教えてくれなかったんだよ」

「その方が、お二方の距離感が増すと思いまして」

お前は俺達に何を期待してるんだよ？

「それで、急いできた理由は何なの？　わたしに早く会いたかった？　それで着替えてる時に来ちゃうなんて、せっかちさんなんだからぁ」

頬を染めながら、パイロンは身体をクネクネさせた。

何でコイツは、俺に対して好感度ＭＡＸなんだ？　警戒心がないのか？

「着替えろ。ユニフォームを持ってきた」

俺は、キャリーバッグからピンクと紫のツナギを出した。俺が着ている服と同じだ。パイロンにピンクの、真琴に紫のツナギを渡す。

「これは？」
「作業着だ。といってもバイト先の予備だが」

真琴からもらった予算を使って買い取ったのである。

「ちょっと待って」とパイロンが口を挟む。
「なんで、わたしたちまで着替えるの？」

「お前達も掃除するからに決まってるだろう」

「えーっ!?」

そこそこあった好感度が、一気に減少する気配がした。

「そりゃそうだろ。自分の家だぞ」
「わたし、素人だし」
「そういう問題じゃない。誰だって最初は素人だ」

俺のレクチャー通りにすれば、二度と部屋を散らかそうなんて気は起きないはずだ。

「パイロン様、私も手伝いますから、一緒にお掃除、やりましょう」
真琴も、俺と同じツナギを着ていた。
魔法で早着替えしたらしい。

「着替えまーす」

やる気のない声と共に、パイロンはユニフォームを手に取る。おもむろに、ジャージのジッパーを下ろし始めた。

「おいおいっ、ここで着替える気かよ!?」

「だって面倒なんだもん」

「せめて、俺が出て行ってから着替えろよ！」
慌てて俺は振り向き、ドアノブに手をかける。