じゃじゃ馬王妃! ~フランス王妃が悪徳貴族を成敗する!~

しーとみ@映画ディレッタント

授業:二人組を作る

体育の授業は、グラウンドで行う。

全員が、汚れてもいい古着に着替えている。
柄は統一されていないが、だいたい白地だ。

「はい。では皆さん、準備運動をします。二人組になってー」
メルツィは、生徒に呼びかける。

生徒各人、親しい女子たちとチームを組む。

だが、あぶれている女子が。クロード姫だ。

王家に近づくのは恐れ多いのか、誰も近づこうとしない。

クロードも無理に呼びかけようともせず、かといってどうしていいか分からず、立ち尽くしている。
これまでもそうだったのだろう。

だが、教師である自分が手を貸していいのだろうか。
クロードはもう七つだ。
同年代の女子とも仲良くなる必要はあるのではないか。
なにより、同じ年頃の子と語らうことは、幼少期には重要だ。


孤独に慣れると、自己完結能力は確かに上がる。
だが、コミュ力の習得は、大人になると難しい。
成功体験が乏しいからだ。
よってさらに孤独になっていき、今度は孤立していく。

「あの、姫さま!」
そんな中、一人のニホン人が、孤独な姫に手を差し伸べた。

あの子は確か、イコこと愛洲移香斎の娘、ローザである。
クロードより少し背が低く、細い。
が、背筋はシャキッとしていて、どの女子生徒より目立っていた。
彼女には、西洋人にはない温かみが感じられる。

「お手をどうぞ」
不器用ながら、ローザが手を伸ばした。

「ありがたく、ちょうだい致します」
安心した様子で、クロードはローザの手を取る。

準備運動を終えて、周辺を軽くランニングをした。

全員がヘトヘトだ。唯一、クロードとローザの二人は、メルツィにどこまでも追いついてきた。

その後、授業を開始する。

「今回教えるのは、護身術でーす。皆さんも、知らないおじさんに声をかけられて、さらわてしまう可能性があります。その際に役立つのが、この護身術です」

まず、生徒の一人に、後ろから抱きついてもらうことに。

メルツィはしゃがんで、女生徒たちと同じ目線になる。

「では、あなた。僕に後ろから組み付いてください」

「えっ!」

ませた女生徒は、顔をリンゴのように赤らめ、後ずさった。

他の生徒たちも、メルツィに抱きつこうとしない。

さすがのクロードも、及び腰になっている。

どうするか。これでは授業にならない。
他の先生に頼むしかないか。

「わたし、やります」
一人、ローザが手をあげた。

「では、僕に後ろから抱きついてみて」

「こうですか?」
両腕を抱え込むように、ローザはメルツィに抱きつく。

「ポンッ!」
かけ声と共に、メルツィは両手を挙げた。
ローザの腕からすり抜ける。

「ほええ、ウソみたいだ!」
ローザが、目を丸くしていた。

メルツィの腕力なら、ローザの腕などたやすく抜けられるが、ローザなりに強く締め上げたつもりなのだろう。

「このように、両手を挟み込まれても、思いっきり腕を上げて腰を落とせば、抜け出せます。みんなもやってみてください」

グラウンドに、少女たちの「ポン」という声が響き渡った。

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