じゃじゃ馬王妃! ~フランス王妃が悪徳貴族を成敗する!~
制度の壁に怒る!
「えーと、バロールバロールはー、っと」
帰宅した後、アンは早速、自室にある本を読みあさる。
アンは嫁ぐ際に、家に置いてあった大量の書物を持ってきた。いわば嫁入り道具である。
本以外は衣類一着すら持ってこなかった。練習用の剣一本のみである。
「あったわ。これね」
壁一面に保管された書籍の中から、一冊の伝承本を見つけた。
見た物の命を奪う邪眼を持つ隻眼の魔王、それがバロールだ。ケルトでも有名な魔王で、当時の神族を滅ぼしたとされる。自分の孫に退治されたと聞く。
「殿下、何をお調べになっておいでです?」
不意に、ロウソクの火が近づいてきた。顔を照らされる。
「ひい!」
暗がりで作業していたから、アンは思わず息を殺す。
「心配ご無用、オルガです」
宰相夫人のオルガ・ダカンが、ロウソクの火の向こうに現れる。
「なんだオカンかー」
自分を照らす相手が見知った人物だと分かり、アンは緊張を解いた。
「なんだとはなんですか。夜に明かりが灯っていたので、てっきり放火魔かと思ったのはこちらです。鍵が開いていたからよかったものの」
早々に、オルガの小言が飛んでくる。
娘には優しいのだが、オルガはアンに手厳しい。
有力者の娘で、頭が凄く切れた。メイドや執事の人選なども務めている。アンより年上の四〇歳だ。何より、愛娘の面倒を見てくれていた。娘たちも、オルガ・ダカン夫人を「オカン」と略し、懐いている。宰相自身はルイ寄りだが、宰相夫人は見逃してくれていた。
「バロールの伝承を調べているの。エチエンヌ伯爵という人物が、バロールと関与していると聞いてね」
「あの古狸ですか」
オルガの故郷に近い領地を治めているらしい。しかし、あまりいい評判は聞かないという。
「確かに、あの男ならバロールと繋がっていてもおかしくございません。彼は芸術品マニアです。バロール関連の品なら集めているかと」
「聞けば、世界各国の芸術品を盗作し、我が物としようと企んでいると言うではありませんか。エチエンヌのような男は文化の敵です。見過ごすわけには」
「失礼ながら、パトロールは兵士の仕事かと思います」
オルガの言葉はもっともだ。
自分は王妃である。王の妻自身がパリじゅうを警備なしで歩くこと自体、非常識だろう。
「それに、王妃殿下とはいえ、領地一つ一つの統治者には、口出しできませぬ」
アンの前に、封建制度という制度が邪魔をした。
国王は基本、民ひとりひとりの声になど耳を貸さない。
領主も、国に兵隊や軍備は貸す上に、忠誠も誓う。けれども、自身の土地で勝手放題してもいい。
民はあくまで、「領主の所有物」である。領主が配下をどうしようと構わないのだ。
「ではダカン夫人、フランスがどうなっても構わなくて?」
帰宅した後、アンは早速、自室にある本を読みあさる。
アンは嫁ぐ際に、家に置いてあった大量の書物を持ってきた。いわば嫁入り道具である。
本以外は衣類一着すら持ってこなかった。練習用の剣一本のみである。
「あったわ。これね」
壁一面に保管された書籍の中から、一冊の伝承本を見つけた。
見た物の命を奪う邪眼を持つ隻眼の魔王、それがバロールだ。ケルトでも有名な魔王で、当時の神族を滅ぼしたとされる。自分の孫に退治されたと聞く。
「殿下、何をお調べになっておいでです?」
不意に、ロウソクの火が近づいてきた。顔を照らされる。
「ひい!」
暗がりで作業していたから、アンは思わず息を殺す。
「心配ご無用、オルガです」
宰相夫人のオルガ・ダカンが、ロウソクの火の向こうに現れる。
「なんだオカンかー」
自分を照らす相手が見知った人物だと分かり、アンは緊張を解いた。
「なんだとはなんですか。夜に明かりが灯っていたので、てっきり放火魔かと思ったのはこちらです。鍵が開いていたからよかったものの」
早々に、オルガの小言が飛んでくる。
娘には優しいのだが、オルガはアンに手厳しい。
有力者の娘で、頭が凄く切れた。メイドや執事の人選なども務めている。アンより年上の四〇歳だ。何より、愛娘の面倒を見てくれていた。娘たちも、オルガ・ダカン夫人を「オカン」と略し、懐いている。宰相自身はルイ寄りだが、宰相夫人は見逃してくれていた。
「バロールの伝承を調べているの。エチエンヌ伯爵という人物が、バロールと関与していると聞いてね」
「あの古狸ですか」
オルガの故郷に近い領地を治めているらしい。しかし、あまりいい評判は聞かないという。
「確かに、あの男ならバロールと繋がっていてもおかしくございません。彼は芸術品マニアです。バロール関連の品なら集めているかと」
「聞けば、世界各国の芸術品を盗作し、我が物としようと企んでいると言うではありませんか。エチエンヌのような男は文化の敵です。見過ごすわけには」
「失礼ながら、パトロールは兵士の仕事かと思います」
オルガの言葉はもっともだ。
自分は王妃である。王の妻自身がパリじゅうを警備なしで歩くこと自体、非常識だろう。
「それに、王妃殿下とはいえ、領地一つ一つの統治者には、口出しできませぬ」
アンの前に、封建制度という制度が邪魔をした。
国王は基本、民ひとりひとりの声になど耳を貸さない。
領主も、国に兵隊や軍備は貸す上に、忠誠も誓う。けれども、自身の土地で勝手放題してもいい。
民はあくまで、「領主の所有物」である。領主が配下をどうしようと構わないのだ。
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