【冒険者組合 七つの大罪】
1章2話
「──ゴギャァァァアアアアアアッッ!!」
雄叫びを上げる緑色の子どものようなモンスターが、白髪の少年に飛び掛かる。
血走った目で己を捉えるモンスターに対し──少年は腰を落とし、迎撃の構えを持った。
「ふぅ──ッ!」
「ガッ……?!」
真横に足を振り抜き──少年の蹴りを食らったゴブリンが、地面を転がって森の奥へと消えていく。
「うっし……! いい感じ……!」
「お~。やるね~」
「悪いけど、ソフィアの出番は無いぞ? この程度のモンスターなら、俺だけで充分だ」
「そっか~。じゃ、あいつらの処理もよろしくね~」
「……? アイツら……?」
ソフィアの言葉に首を傾げ、テリオンが森の奥に視線を向け──
そこには……数十匹を超える、ゴブリンの群れがいた。
「いっ……?! いやアレは無理だろ?!」
「【技能】を使えばどうにかなるんじゃないの~?」
「硬質化の【技能】は、まだ上手く使いこなせないんだよっ!」
「いやいや~。身体能力向上の【技能】があるでしょ~」
「あんなザコモンスターに使うのは勿体ねぇよ! ソフィアが【魅了】を使ってくれれば──」
「え~? あたしの出番はないって言ったのに~? 嘘吐くの~? へ~。テリオンくんって英雄に憧れてるのに、嘘吐くん──」
「ああもうわかったよチクショウ!」
こちらに敵意を向けるゴブリンの群れに対し、テリオンは拳を握って──叫んだ。
「──【制限だらけの英雄】ッ!」
淡い光がテリオンを包み込み──テリオンが膝を曲げ、地面を蹴った。
次の瞬間──地面が爆発。
辺りに土の破片が飛び散り、強風が吹き荒れた──そう認識した時には、テリオンがゴブリンの群れの前にいた。
「はぁ──ッ!」
握った拳を勢い良く放ち──衝撃。
先ほどとは比にならない暴風が吹き荒れ、ゴブリンの群れが風圧に負けて吹き飛ばされた。
ある者は衝撃をまともに受け、ある者は木に激突し、ある者は地面を転がり……ほとんどが動かなくなる。
意識がある者も、テリオンの力に恐怖を覚えたのか、気絶する仲間を置いてどこかへ逃げ去って行った。
「二秒か……」
テリオンの体を覆っていた淡い光が少しずつ薄くなり──霧のようになって霧散する。
──【制限だらけの英雄】。
自分の筋力や身体能力、反射神経や動体視力などを底上げする【技能】。
最大使用時間は三分間。その間は、先ほどのようなデタラメ体質になるのだ。
だが──この【技能】には、致命的な弱点がある。
使用時間×二倍のインターバルが必要になるのだ。
例えば、三分間【制限だらけの英雄】を使ったとしたら、その後の六分間はインターバルのため【制限だらけの英雄】を使用する事ができない。
一分間使用すると二分間のインターバルが、十秒間使用すると二十秒のインターバルが──といった感じになるのだ。
「ん~。さすがだね~」
「常に使用時間に気を付けないといけないのが面倒だけどな」
それにしても──
「何かおかしい所なんてあるか? 俺の目には、いつも通りにしか見えないんだけど」
「あたしにはわかんないかな~。ね、リリアナちゃんはどう思う~?」
『──ん…………異変が、なさそうなら……戻って来て、いいって……組合長が、言ってた……』
──どこからか、リリアナの気怠そうな声が聞こえた。
リリアナの【技能】──その名は【千里眼】。
他人の視覚を自分の視界に映す事ができる【技能】だ。
今のテリオンが見ている景色は、テリオンの目を通して、リリアナにそのまま伝わっている。
また、自分と親しい者に限り、彼女と念波での会話が可能になる。
【千里眼】で会話できるのは【七つの大罪】のメンバーだけだが……視覚共有の能力は、リリアナの知り合いであれば誰にでも使う事ができるのだ。
「ん~……ま、戻っても退屈だし、もう少しだけ探索してみよっか~」
「そうだな……はぁ、行くか」
テリオンが大きくため息を吐き、ソフィアがその後を追いかけ──
「──ォォォオオオオオオオオッッ!!」
──森全体を震わせるような雄叫びが響いた。
テリオンが身を固くし、ソフィアが形の良い眉を寄せ──バキバキと木々が折れるような音と、ズゥン……ズゥン……という足音のような轟音が聞こえ始める。
「……な、あ……ソフィア……?」
「うん。森の異変は、コイツが原因だろうね~」
目の前の木々をへし折りながら現れたソイツを見て、テリオンの喉から掠れた声が漏れた。
全身を覆う鎧のような筋肉。手に持っているのは木製の棍棒。身長は三メートル近いだろうか。血色に染まった一つ目と合わさって、恐怖を覚える外見だ。
──サイクロプス。『第三級冒険者』ですら手こずると言われているモンスター。
「ォォォ……! ォォォォォォオオオオオオオオオオオオオガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
血走った単眼でテリオンを捉え──サイクロプスが吼えた。
恐怖で動けなくなるテリオン──その肩に、ソフィアの小さな手が置かれる。
「……あたしがやろうか?」
先ほどのゴブリンとは強さの次元が違う。
目の前のモンスターを見て恐怖する『第五級冒険者』に、先輩である『第三級冒険者』は優しい声で問い掛けた。
その言葉を聞き──少年の口元が、笑みの形に裂ける。
「──冗談だろ」
一歩前に出て、テリオンがサイクロプスと向き合った。
「『第五級冒険者』の俺が、コイツを討伐できたら……すげぇ英雄っぽくねぇか?」
「……うん。倒せたら、ね~?」
「はっ……やってやる」
たった一ヶ月前、英雄を目指して新人冒険者になった『第五級冒険者』と。
『第三級冒険者』からも恐れられる、単眼のモンスターが。
──森の中で、激突した。
雄叫びを上げる緑色の子どものようなモンスターが、白髪の少年に飛び掛かる。
血走った目で己を捉えるモンスターに対し──少年は腰を落とし、迎撃の構えを持った。
「ふぅ──ッ!」
「ガッ……?!」
真横に足を振り抜き──少年の蹴りを食らったゴブリンが、地面を転がって森の奥へと消えていく。
「うっし……! いい感じ……!」
「お~。やるね~」
「悪いけど、ソフィアの出番は無いぞ? この程度のモンスターなら、俺だけで充分だ」
「そっか~。じゃ、あいつらの処理もよろしくね~」
「……? アイツら……?」
ソフィアの言葉に首を傾げ、テリオンが森の奥に視線を向け──
そこには……数十匹を超える、ゴブリンの群れがいた。
「いっ……?! いやアレは無理だろ?!」
「【技能】を使えばどうにかなるんじゃないの~?」
「硬質化の【技能】は、まだ上手く使いこなせないんだよっ!」
「いやいや~。身体能力向上の【技能】があるでしょ~」
「あんなザコモンスターに使うのは勿体ねぇよ! ソフィアが【魅了】を使ってくれれば──」
「え~? あたしの出番はないって言ったのに~? 嘘吐くの~? へ~。テリオンくんって英雄に憧れてるのに、嘘吐くん──」
「ああもうわかったよチクショウ!」
こちらに敵意を向けるゴブリンの群れに対し、テリオンは拳を握って──叫んだ。
「──【制限だらけの英雄】ッ!」
淡い光がテリオンを包み込み──テリオンが膝を曲げ、地面を蹴った。
次の瞬間──地面が爆発。
辺りに土の破片が飛び散り、強風が吹き荒れた──そう認識した時には、テリオンがゴブリンの群れの前にいた。
「はぁ──ッ!」
握った拳を勢い良く放ち──衝撃。
先ほどとは比にならない暴風が吹き荒れ、ゴブリンの群れが風圧に負けて吹き飛ばされた。
ある者は衝撃をまともに受け、ある者は木に激突し、ある者は地面を転がり……ほとんどが動かなくなる。
意識がある者も、テリオンの力に恐怖を覚えたのか、気絶する仲間を置いてどこかへ逃げ去って行った。
「二秒か……」
テリオンの体を覆っていた淡い光が少しずつ薄くなり──霧のようになって霧散する。
──【制限だらけの英雄】。
自分の筋力や身体能力、反射神経や動体視力などを底上げする【技能】。
最大使用時間は三分間。その間は、先ほどのようなデタラメ体質になるのだ。
だが──この【技能】には、致命的な弱点がある。
使用時間×二倍のインターバルが必要になるのだ。
例えば、三分間【制限だらけの英雄】を使ったとしたら、その後の六分間はインターバルのため【制限だらけの英雄】を使用する事ができない。
一分間使用すると二分間のインターバルが、十秒間使用すると二十秒のインターバルが──といった感じになるのだ。
「ん~。さすがだね~」
「常に使用時間に気を付けないといけないのが面倒だけどな」
それにしても──
「何かおかしい所なんてあるか? 俺の目には、いつも通りにしか見えないんだけど」
「あたしにはわかんないかな~。ね、リリアナちゃんはどう思う~?」
『──ん…………異変が、なさそうなら……戻って来て、いいって……組合長が、言ってた……』
──どこからか、リリアナの気怠そうな声が聞こえた。
リリアナの【技能】──その名は【千里眼】。
他人の視覚を自分の視界に映す事ができる【技能】だ。
今のテリオンが見ている景色は、テリオンの目を通して、リリアナにそのまま伝わっている。
また、自分と親しい者に限り、彼女と念波での会話が可能になる。
【千里眼】で会話できるのは【七つの大罪】のメンバーだけだが……視覚共有の能力は、リリアナの知り合いであれば誰にでも使う事ができるのだ。
「ん~……ま、戻っても退屈だし、もう少しだけ探索してみよっか~」
「そうだな……はぁ、行くか」
テリオンが大きくため息を吐き、ソフィアがその後を追いかけ──
「──ォォォオオオオオオオオッッ!!」
──森全体を震わせるような雄叫びが響いた。
テリオンが身を固くし、ソフィアが形の良い眉を寄せ──バキバキと木々が折れるような音と、ズゥン……ズゥン……という足音のような轟音が聞こえ始める。
「……な、あ……ソフィア……?」
「うん。森の異変は、コイツが原因だろうね~」
目の前の木々をへし折りながら現れたソイツを見て、テリオンの喉から掠れた声が漏れた。
全身を覆う鎧のような筋肉。手に持っているのは木製の棍棒。身長は三メートル近いだろうか。血色に染まった一つ目と合わさって、恐怖を覚える外見だ。
──サイクロプス。『第三級冒険者』ですら手こずると言われているモンスター。
「ォォォ……! ォォォォォォオオオオオオオオオオオオオガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
血走った単眼でテリオンを捉え──サイクロプスが吼えた。
恐怖で動けなくなるテリオン──その肩に、ソフィアの小さな手が置かれる。
「……あたしがやろうか?」
先ほどのゴブリンとは強さの次元が違う。
目の前のモンスターを見て恐怖する『第五級冒険者』に、先輩である『第三級冒険者』は優しい声で問い掛けた。
その言葉を聞き──少年の口元が、笑みの形に裂ける。
「──冗談だろ」
一歩前に出て、テリオンがサイクロプスと向き合った。
「『第五級冒険者』の俺が、コイツを討伐できたら……すげぇ英雄っぽくねぇか?」
「……うん。倒せたら、ね~?」
「はっ……やってやる」
たった一ヶ月前、英雄を目指して新人冒険者になった『第五級冒険者』と。
『第三級冒険者』からも恐れられる、単眼のモンスターが。
──森の中で、激突した。
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