チートスキル『死者蘇生』が覚醒して、いにしえの魔王軍を復活させてしまいました〜誰も死なせない最強ヒーラー〜

ノベルバユーザー364546

ジョゼの最期

「……ここはどこだ?」

 ジョゼが立っていたのは、寒気がするほど死霊に囲まれた領域だ。

 隣では魂を抜かれたように倒れているヒーラー。攻撃を受けたのか、それともただ耐性が無かっただけなのかは分からないが、この場に敵がいるということだけは理解できる。

「こんにちは。やっぱり人間だったね」

「…………お前、どこかで見た顔だな」

「ギクッ」

 困惑しているジョゼの前に現れたのは、どこかで見た事のある顔をしたネクロマンサーだった。
 ジョゼが記憶しているということは、ただの人間であるはずがない。

 たった一人だけ――よく似ている人物が頭の中に浮かんだが、それは過去の人物であり、ここにいるわけがないと切り捨てる。

「まあ良い。それよりもこのダンジョンについて聞きたいが、そうはいかないんだろ?」

「ごめんね。その代わり、あの二人みたいには苦しまないだろうから許してね」

 この言葉が、戦いの始まりの合図となった。
 ジョゼは短剣を取り出して構えを取る。
 腰を落とし、肩の力を抜くことでスピードを最大限まで引き出すことが可能だ。

 人体の急所を知り尽くしたジョゼは、この戦い方で何人もの人間を葬ってきた。
 今回も同じように葬るだけである。

「――あ、リヒト。どこ行ってたのー」

「ごめん、ドロシー。アリアと話してた」

「――リヒト!? どうしてお前がここに!」

 ジョゼが襲いかかろうとした瞬間。
 目に入ってきたのは、決して忘れられないであろう顔だった。
 処刑され死んだはずのリヒトが、何故かこちら目掛けて走っている。

 最初は見間違えかとも疑ったが、段々近付くにつれてそのような考えは消えてゆく。
 ここまでそっくりな別人がいるだろうか。
 完全にリヒト本人だ。

「ジョゼ!? お、お前こそどうしてここに……」

「先に質問したのは俺だ……処刑されたんじゃなかったのか……?」

「されたさ。生き返ったけどな」

 それより――と、リヒトは口を挟む。

「お前がいるってことは、アレンもいるってことだろ? アレンは今どこにいる。俺はアイツと話がしたい」

「そんなのコッチが聞きたいくらいだ! 俺たちをバラバラにしたのは、お前らの作戦じゃないのか?」


「…………そうだったな。すまない」

 リヒトは心を落ち着かせるため、深呼吸するよう緩やかに息を吐く。
 ジョゼが言っていることは、ぐうの音も出ない正論であり、リヒトは返す言葉が見つからない。

 あまりの衝撃に、考えをまとめられていなかった。

「ジョゼ。俺が処刑を宣告される時、お前はいなかったよな? お前は……俺が処刑されることを知っていたのか?」

「信じるか信じないかは自由だが――俺は知らなかった。お前が処刑されたことを知ったのは、アレンから金を貰った時だ」

「その時どう思った?」

「戦力が減った」

「やっぱりお前はそうだろうな」

 リヒトはついつい笑いそうになってしまう。

 ジョゼの考え方は、リヒトが一番知っていると言っても過言ではない。
 冒険者という職業に関して、アレンやシズクの倍以上も真面目である分、仲間に対しての興味が日々薄くなっていたのだ。

 リヒトも、冒険者として勤勉と言えるような人間ではなかった。
 そのような三人と同じパーティーであることに、いつしか嫌気がさしていたのだろう。

 嬉しいとまではいかないものの、ショックも大きくなかったはずである。
 ジョゼが答えを飾っていないことに、リヒトは少しだけ好感を持ってしまった。

「今度は俺の質問に答えろ。何故お前が生きていて、しかもこんな所にいるんだ?」

「さっきも答えた通りだ。俺は俺自身のスキルで生き返った。この魔王軍を復活させたのも俺だ」

「魔王軍だと……? お前、自分が何をしたのか分かっているのか?」

 ジョゼは、リヒトを信じられないような目で見る。
 魔王軍を復活させるというのは、人間からしたらこれ以上無いほどの反逆行為だ。
 人間であるはずのリヒトがそのようなことをするなど、どう考えても理解できない。

「お前がしたことは、人間界の歴史にも残るほどの重罪だぞ!」

「知ったことか」

「国王がこの事を知ったら、どのような手を使ってでも潰しに来るだろう」

「望むところだ」

 リヒトが表情を変化させることはない。
 たとえ歴史に残るほどの反逆行為だとしても、今のリヒトにはどうでも良かった。
 もう二度と、人間界に戻ることはできないのだから。

「――そうか。分かった」

 ジョゼはそう言って、懐から一つのアイテムを取り出す。
 それは、ダンジョンなどを脱出するための転移アイテムだった。

 このアイテムがあれば、ダンジョンの外まで一瞬で移動することが可能である。
 リヒトが魔王側についてしまったということを人間界に伝えるためにも、ジョゼは絶対に生きて帰らなければいけない存在だ。

 動き出したドロシーの攻撃に、ギリギリ当たらないタイミングで、ジョゼはアイテムを使用した。


***************


「……チッ、妨害用の結界か……」

 転移自体には成功したジョゼであったが、転移先は明らかにダンジョンの内部である。
 入口まで転移するつもりであったものの、妨害用の結界に邪魔されてしまったらしい。
 これからは、慎重に歩いて出口まで向かわなければならなかった。

「……このエリア、死霊がいないぞ。どういうことだ」

 この領域に転移してしばらくすると、ジョゼはある変化に気付く。
 ここには、死霊が一匹もいなかったのだ。
 普通ならありがたい話なのだが、このダンジョンだとそれが逆に恐ろしい。

 ジョゼはもう一段階警戒を強める。

「あ、人間なの。こんにちは、なの」

「――!」

 運の悪いことに、ダンジョンの中で敵に出会ってしまった。

 こうなってしまったら、戦うしか選択肢が残されていない。
 易々と見逃して貰えるほど、ここの敵は甘くないはずだ。

 たとえ何も武器を持っておらず敵意が無さそうな少女でも、今のジョゼの前では、頭に血が上った大男と扱いは同じである。
 熟練の技で確実に殺す――それだけだ。

「――悪く思うな」

 ジョゼは、自慢のスピードで少女の背後へと回る。
 普通なら抵抗しようと動くものだが、その少女はまるで死ぬことを望んでいるかのように、身をジョゼに預けていた。

 そしてそのまま――腋の下、首、心臓の順で短剣をなぞらせる。
 正確に急所を抉ったその攻撃に、少女が耐えられるはずもない。

 大量の血を流しながら。

 少女――そしてジョゼは死んだ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品