チートスキル『死者蘇生』が覚醒して、いにしえの魔王軍を復活させてしまいました〜誰も死なせない最強ヒーラー〜

ノベルバユーザー364546

ドロシーのトラウマ

「リヒト、人間たちがこのディストピアに気付いたみたいだよ」

 それは、まるでおまけのような口調で話された。

 今は、ドロシーとリヒトで食後の休みを取っている時間帯である。
 久しぶりの食事によって仕事のことを忘れ、気が抜けていたリヒトには重すぎる内容だった。

「ど、どうやってそんなことを知ったんだ……?」

「ボクが使役している死霊を、ディストピアの周辺に一匹だけ放っておいたんだよ。そうしたら、人間の姿を見たっていうからさ」

「そんな使い方もできるんだな……」

 リヒトの心にあったのは、これからどうするかということではなく、ドロシーの索敵能力に対しての感心だ。
 もし戦いになった時に、情報はとても大切な要因となってくる。

 そんな情報という役割で、ここまで頼りになる存在はいないだろう。

「面倒なことになりそうだったから、攻撃はしないでおいたけど、結局ここに攻めてくるんじゃないかな。絶対ディストピアの存在は気付いたはずだし」

「その時はその時だ。とにかくありがとう――そうだ。フェイリスやロゼたちも、ドロシーの死霊に感謝してるらしいぞ」

「そうか。ボクの死霊が役立っているってのは嬉しいね。昔なんて、ろくな使い方をしていなかったからさ」

 実際にディストピアは、ドロシーの死霊によってかなり支えられていた。
 あのアリアも、優秀な死霊たちに満足そうだ。

 一番恩恵を受けているロゼに至っては、余った時間で何をしたら良いか困惑しているほどである。

「それで、もし戦いになった時、ボクはどうしたら良いのかな? 一緒に戦った方が良い?」

「いや、ロゼたちがいるから、多分何もしなくて大丈夫だと思うよ」


「――あ、おったおった! 探したぞー、リヒトにドロシーよ」

 リヒトとドロシーが話していると、宙に浮いたアリアがフワフワと近付いてきた。
 どれだけの時間探していたのかは分からないが、この喜びようからして、かなり苦労したということは想像に難くない。

「は、初めまして、魔王さん」

「うむ! 話は聞いておる。これからもよろしく頼むぞ」

 アリアとドロシーのファーストコンタクト。
 この時点で、上司と部下の関係になっているようだ。
 ドロシーも、魔王のカリスマ性に魅せられた一人なのかもしれない。

「アリア。もしかしたら、そのうち人間が攻めてくるかもしれないんだ」

「なんじゃと? まぁ、丁度いい。そろそろ暴れたいと思っておった頃じゃ」

 アリアは指をポキポキと鳴らす。
 特に焦っている様子も、物怖じしている様子もない。
 むしろ、復活してから暇だった分、待ち遠しそうにしていた。

「――といっても、ロゼやイリスが全部倒してしまうから、儂まで回ってこんじゃろうな」

「……やっぱりロゼやイリスって強いのか? 話してみただけだと、普通の女の子って感じだったけど」

「イリスはティセと一緒でないとそこまでじゃが、ロゼは鬼のような強さじゃぞ。人間なら食料として全員食い潰すじゃろう」

 ドロシーがブルっと震える。
 ヴァンパイアに捕食される人間を想像してしまったのだろう。
 この様子だと、過去にトラウマとして植え付けられているのかもしれない。

「ねぇ、リヒト。ロゼさんに許可を取ったら、ボクが人間の相手をしても良くなるのかな……?」

「ん? 大丈夫だと思うけど。どうしてだ?」

「いや、ヴァンパイアに殺される苦しさはボクも知ってるからさ。流石にそれは可哀想だなぁ……って」

 何か、聞いてはいけないことを聞いてしまったような気がした。
 この理由を聞いて、申し出を断れるほどリヒトは鬼ではない。

 この後、ドロシーと一緒にロゼの元へ向かうことになる。

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